20代のある女性は、社会人になってまだ1〜2年の間に強いストレスで髪がすべて抜け落ちてしまい、最終的には都会を離れて離島でワーキングホリデーをし、ストレスの少ない生活を求めました。台湾整合機能医学教育センターの創設者で栄養士の賀菡懿氏は、新唐人テレビの番組「健康1+1」でこのケースを紹介し、若い世代の間でストレスによる健康問題がますます増えていると話します。「現代の人は10代の頃から、SNSや高い学業・仕事のプレッシャーにさらされ、他者と比較する心理や不安が生まれ、ストレス関連の不調が早い段階から現れています」と言います。
ストレスはどのようにして体を「全面的に」乱すのか
賀氏によると、ストレスは心だけではなく、身体の仕組みを通じて全身に影響を及ぼします。脳が長く不安状態にあると、ストレス反応システムが作動し、コルチゾールやアドレナリンが分泌されます。これらのホルモンは慢性的な炎症を引き起こし、皮膚、胃腸、代謝、ホルモンバランスに影響します。
1. 皮膚トラブルは最もわかりやすいサイン
ストレスが強いと、ニキビ、発疹、かゆみなどが出やすくなります。科学的には「脳—皮膚軸」と呼ばれる双方向の経路があり、精神的ストレスが脳から皮膚へ伝わって炎症を引き起こす一方、皮膚の炎症が脳へ逆に影響を与えることもわかっています。
賀氏は、身体と感情は相互に影響し合っていると説明します。皮膚が炎症を起こすと、ストレスホルモンや炎症物質が分泌され、これらの信号が脳へ戻ることで「内因性ストレス」を生みます。つまり、皮膚トラブルの改善は脳の負担を軽くし、感情を安定させ、ストレス耐性を高めることにもつながります。
「皮膚の健康は外側のケアだけでは保てません。医療美容やフェイシャルだけで解決しようとする人もいますが、身体内部のストレス反応こそ根本原因であることを忘れないでください」と注意を促します。
2. 過敏性腸症候群や胃腸の不調
ストレスは腸のぜん動運動や腸内細菌のバランスを乱し、下痢や便秘の原因になります。「過敏性腸症候群」は非常に一般的なストレス関連の疾患です。過敏性腸症候群は下痢だけでなく、便秘として現れるケースもあり、両方が交互に起きる場合は悪化のサインとされています。
さらに、心理的ストレスが消化性潰瘍の発症率を高めることも研究で示されています。
3. 脱毛
慢性的なストレス状態ではホルモンバランスが乱れ、血流が悪くなり、毛根への栄養が十分届かなくなります。これは若い女性に脱毛が増えている原因のひとつです。
4. 心身のさまざまな症状
長期的に強い緊張状態が続くと、自律神経が乱れ、動悸、不眠、慢性的な痛み、強い疲労感などが現れます。
賀氏は、これらの症状を診る際には、必ず患者の最近の仕事の状況や家庭内でのトラブルの有無を確認すると言います。これらの精神的ストレスこそ、身体の慢性炎症の背景にある可能性が高いためです。
見落とされがちなストレス由来のサイン
一見すると内分泌や代謝の問題に見える病気でも、実はストレスが関係している場合があります。賀氏は特に次のような状態が見逃されやすいと指摘します。
1. 甲状腺の病気
長期的なストレスは甲状腺疾患を誘発・悪化させる可能性があります。甲状腺機能亢進や低下の患者は、自分の感情的ストレスに気づきにくい傾向があり、うつや不安などの情緒異常を伴うことが多いため、精神面のケアが必要です。
2. 高血圧や糖尿病
ストレスによる代謝異常は血圧や血糖値を上昇させ、糖尿病予備群や内臓脂肪型肥満を引き起こすことがあります。こうした患者は、性格的に「強く」「前向きに突き進む」タイプが多く、自分の弱さを見せることが苦手で、夜になると気づかないうちに落ち込んでいることも珍しくありません。
3. 皮膚トラブルの再発
繰り返す皮膚トラブルを、アレルギーや肝機能の問題だけのせいにしてしまいがちですが、ストレスや睡眠不足が背景にあるケースも多いです。仕事が忙しい時期に悪化するのであれば、ストレスのサインかもしれません。
機能医学によるストレスケア
賀氏は、まず患者と十分に話し合い、ストレスの原因を探ることに多くの時間を割くと言います。実際、多くの患者は自分に対して非常に厳しく、仕事を抱え込みすぎているにもかかわらず、それがストレス源であることに気付いていません。また、ストレスの要因は精神面だけでなく、疲労、仕事の忙しさ、さらには季節の変わり目の急な気温差など、身体にかかる負荷も含まれます。
機能医学は、栄養補給だけでなく、生活リズムや身体の回復力を整える「全体的な調整」を重視します。賀氏は、治療では次のような点から取り組むと話します。
1. 睡眠を最優先にする
睡眠不足は、身体の修復機能を大きく損ないます。夕食は早めに済ませ、内容も消化の良いものに変え、揚げ物は避けるとよいと勧めています。また、入浴の時間を早め、体を先にリラックスさせることで入眠しやすくなります。
2. 食事のリズムを整える
リラックスした状態で食事をとることは、消化や栄養吸収を助け、胃腸の不調を防ぎます。それでも胃腸が重い場合は、消化酵素や胃粘膜の修復を助けるフィトケミカルの補助が役立つことがあります。
3. 食べ物の「禁止」を厳しく考えすぎない
ストレスが強いと、コーヒーや甘いものを欲することがありますが、これは身体が「心の慰め」を求めているサインです。賀氏は「時々、適量を取り入れてストレスのピークをやり過ごすのは、むしろ有効な場合もあります」と話します。
賀氏は、ストレス耐性とは「無理を重ねること」ではなく、「十分な休息でエネルギーを蓄えること」だと強調します。刺激を減らし、休息を確保することで体力を回復させることができ、特に敏感なタイプの人には、機能医学が生活の中のストレス源を整理する助けになります。これにより、環境のストレスへの適応力が高まります。
精神的なトラウマに対しては、心理カウンセリングと並行して、栄養面の介入で体質の改善や炎症の低減が期待できます。「身体が楽になり、体力が十分にある状態になれば、過去のトラウマにも向き合いやすくなります」と賀氏は話します。
日常の食事で情緒を安定させる
賀氏は、個々の体質に合わせて食事の方向性を選ぶことで、感情を安定させやすくなると勧めています。
1. 気分を落ち着かせる食べ物(うつ傾向のある人に)
- 魚介類:EPA・DHAなどのオメガ3脂肪酸が豊富。抗うつ作用、抗炎症作用、神経保護作用が研究で確認されています。
- 葉物野菜:葉酸が豊富で、気分の安定や抗うつ効果に役立ちます。
- 十分なタンパク質:神経伝達物質の材料となるアミノ酸を供給し、血糖の安定にも働き、血糖変動による感情の乱れや疲労を防ぎます。
2. ストレスに強くなる食べ物(消化が良い人向け)
- 雑穀類(十穀米、玄米、豆類など):ビタミンB群が豊富で、研究でもビタミンB群の補給は気分改善やストレス軽減に効果があると示されています。
3. 優しい食べ物(消化が弱い人向け)
- 白米、魚、葉物野菜:胃腸に負担がかからず消化しやすいため、栄養吸収を確保でき、感情の安定にもつながります。
必要に応じて栄養素を追加する
多くの人は食生活に気を配っていますが、それでもストレスによって消化機能が落ちることがあります。腸に炎症があると栄養の吸収が低下し、食品だけでは不足することもあります。そのような場合には、必要に応じて以下の栄養素の補給を検討できます。
- ストレス調節:テアニンは気分を整え、ストレスや不安の緩和に役立ちます。
- 抗炎症:ウコン(ターメリック)や魚油は、胃腸や皮膚の炎症・不快感の軽減に役立ちます。
- 修復と鎮静:ビタミンCを高めに補給すると強力な抗酸化作用が働き、炎症反応を和らげる助けになります。
(翻訳編集 華山律)
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