<心の琴線> 一杯のラーメン

【大紀元日本3月3日】その日、娘は母親と喧嘩して、家を飛び出してしまった。

しばらく歩くと、自分がお金を一銭も持ってないことに気づいた。娘は、お腹が空いてきた。目の前に現れた路上のラーメン屋さんから、おいしいそうな香りが漂ってくる。とても食べたくなったが、お金がない。しばらく経った時、ラーメン屋の親父さんが、娘がまだ店の前に立っていて離れようとしていないのを見て、声をかけてきた。 

「ラーメン、食べるかい」

「でも…、お金を持ってくるの忘れたんです」

娘は恥ずかしそうに、そう答える。

しばらくすると、ラーメン屋の親父さんが、ラーメンとちょっとした料理を持ってきて娘の前に置いた。「お嬢ちゃん、遠慮はいらない。さあ食べな」

少し食べた時、娘の目から涙がこぼれ落ちた。

「お嬢ちゃん、どうしたんだい」と、ラーメン屋の親父さんが聞く。

「別に何でもないの。ただ、とても感動しただけです」

そう言いながら、娘は涙を拭いた。

「私たちはお互いに面識もなく、たまたま会っただけなのに、小父さんは私に対してこんなに優しくラーメンを作ってくれました。しかし、私のママは、私とちょっと喧嘩しただけで、なんと私を追い出して、もう戻ってこなくていい、などと叫んだのです。見ず知らずの小父さんが私にこれほど優しくしてくれるのに、私のママは、自分の娘である私に対してなんて愛情が薄いんでしょう」

ラーメン屋の親父さんは、娘の話を聞いた後、婉曲にこう話した。

「お嬢ちゃん、どうしてそんなふうに考えるんだい。考えてみてごらん。私がラーメンを一杯食べさせただけで、あんたはそれほど感激しているがね、あんたのママは十数年も、麺やご飯を作って、あんたに食べさせてきたんだよ。あんたはどうしてママに感謝できないんだね。それでもまたママと喧嘩するつもりかい」

娘はそれを聞き、ぽかんとした。そうだ、知らない人からラーメンを一杯おごってもらって私は感激しているが、どうして、一人で苦労しながら私を育て、十数年も麺やご飯を作って食べさせてくれた自分の母親に、私は感謝できないのか。おまけに、ちっぽけなことで大喧嘩してしまったのか。

慌ててラーメンを食べ終えた娘は、勇気を出して、家の方向に向かって歩き始めた。娘は本当に心から「ママ、ごめんなさい。私が間違いました」と言いたかった。

娘が家の近くまで歩いていったとき、疲れきった様子で、やきもきしている母親が、あちこち見回している姿を目にした。娘を目にした母は、先に声をかけてきた。 

「佳芬(かふん、娘の名)、速く家に帰ろう。ママがすでにご飯を作ったから、速く帰って食べないと、おかずが冷たくなるよ」

娘の目から、涙がはらはらと流れてきた。

私たちは往々にして、自分に少しばかりの恩恵を与えてくれた人には、感謝しきれないほどの気持ちを持つが、両親あるいは親族が、一生涯ずっと海のような大きな恩情を与えてくれたことを忘れ、感謝の念を持てないことがあるものだ。

(翻訳編集・李暁清)