10代や20代は多感な時期。「外見だけが人の判断材料」という考えに囚われて、ガラスのように繊細な心を守るため、嘘をつくこともある。このたび、15分ほどのショート・フィルム「LALIN(ラリン)」が、世界の若者の共感を呼び、再生回数は2015年8月の公開から298万回を数えた。
動画は、タイの美容クリニックPornkasem Clinicが作成した。 物語の主人公は、タイのソーシャルサイトで「ネットアイドル」として活躍する若い女性ラリン(Lalin)。タイ語で「月」を意味する。「透明な美しい肌」ともてはやされるが、普段は常に、顔を覆うようにマスクを付けている。
覆い隠すのは、容姿のみならず、心の傷だった。あらすじは次の通り。
ラリンの美しい顔の画像は、すべてアプリで加工した「偽りの顔」。彼女は顔の肌荒れにより「ミス隕石」というあだ名で呼ばれ、高校では中傷を受けてきた。
「私のことを誰も知らないところへ行きたい」。ラリンは語学学習のために、卒業後は日本の北海道札幌市へ留学する。「偽りの顔」をネットで披露することに、罪悪感はない。「みんなが好き(Like!)ならば、いいでしょ?」
夏。ネットを通じて、タイ在住のグラフィックデザイナー兼小説家の男性「宇宙飛行士ナット」(Nut)から、翻訳依頼を通じて、親しくなる。秋が深まり、2人は画像つき通話で疑似デートするなどして、タイと日本の遠距離恋愛を楽しんでいた。しかし、ラリンはこれまで一度も、マスクを外した素顔を見せたことがない。
北海道の冬は寒い。「札幌は本当に凍えるね!」ナットは突然、彼女に何も伝えずに札幌入りする。
しかし、ラリンはマスクを解いた素顔で面会する勇気を持てなかった。「心の準備ができていない」と彼に帰るようメッセージを送ってしまう。「僕の作品は送るから読んでほしい」と伝えて、彼は帰国する。
届けられたナットの作品は、月に近づこうとする宇宙服の男の話だった。「厚ぼったい宇宙服を脱いだ時、やっと月に近づける―」。ラリンは、ナットが、同じ高校に通っていた、太りすぎにより虐められていた男子生徒だと気付いた。ナットは、「惨めなブタ」と馬鹿にされていた自分に声を掛けてくれた優しいラリンへ、ずっと好意を抱いていたのだ。
ナットは決意していた。厚ぼったい脂肪を脱ぎ捨て、自信をもって生きられるよう、引き締まった身体で彼女にアプローチすることを。
ラリンは、彼女の素顔を知るナットが、作品を通じて互いの心を通わせようとしていたことに感動する。しかし、時すでに遅し。ナットは札幌を発ち、ラリンから離れてしまう。
心の繋がりが大切だと分かっていたのは、「惨めなブタ」とあざけられていた男子生徒に声を掛けた、ラリンだったはず。しかし、ネットアイドルという「偶像」をはやし立てる世界に身を投じてしまい、自身の持っていた内面の美について、軽視してしまったのかもしれない。
「外見ばかり」を考えてしまうと、大切な縁を見失うこともある。
(翻訳編集・佐渡 道世)
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