蔡順(さいじゅん)は、漢代の汝南(現在の河南)の人で、幼いときに父をなくし、に親孝行を尽くした。

時はちょうど王莽(おうもう)の乱のころで、天下は乱れ、また飢饉(ききん)が発生したため、米は高騰した。そこで、蔡順と母はやむなく桑の実を拾って飢えをしのいだ。

ある日、桑の実を拾っていたところ、赤眉軍の兵士に出くわし、「なぜ赤い実と黒い実を別々のかごに分けているのだ?」と聞かれた。蔡順は、「黒い実は熟れていて甘いので母に食べさせ、赤い実は硬いので自分が食べるのです」と答えた。その孝行ぶりに感動した赤眉軍の兵士は、帰って母に食べさせるようにと、彼に三斗の米と一頭の牛をやって、敬意を表した。

「孝」は儒家の倫理思想の核心であり、長い間中国社会で家庭関係を維持するための道徳基準であった。それは、中華民族の伝統的な美徳であり、中国伝統文化の精髄でもある。

元の郭居敬は、中国古代の孝行が特に優れた24人の故事を集め、「二十四孝」を編集した。後に絵が配され、「二十四孝図」として孝行の道を広めるための通俗読み物となった。

(編集・望月 凛)