夏の野の繁(しげ)みに咲ける姫百合(ひめゆり)の知らえぬ恋は苦しきものそ(万葉集)
歌意「雑草が茂る夏の野のなかに、隠れるようにひっそりと、姫百合が咲いています。その花のように、相手に知られない恋は、苦しいものですよ」。
大伴坂上郎女(おおとものさかのうえのいらつめ)の歌。8世紀初め頃の女性ですが、生没年ははっきりしません。
当時の、多くの著名な男性と相聞歌を交わしています。ただし、そのことで坂上郎女が「恋多き多情な女」であったと見なすのは、あまりに短絡的であり、控えるべきでしょう。
男女で交わす歌のなかには、もちろん真実の恋愛もありますが、それが虚構であると知りながら楽しむ要素も含まれています。
坂上郎女の歌も、その類だったように思います。
(聡)
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