医師であり、栄養療法の専門家でもある私(筆者)より、新陳代謝を適度に抑制することで老化を遅らせる「3つの秘訣」について、ご紹介します。
「代謝の低下」は悪いことではない
私が提唱している「老化を遅らせる3つの秘訣」とは、植物栄養食法、カロリー制限、運動です。この3因子が生物の老化に関連する全ての過程を遅らせる、つまりアンチエイジングにつながる秘訣となるのです。
体脂肪が少なく、食事からの栄養も摂りすぎていない場合、人間の体は、その逆の体形(肥満)の人よりも代謝が少し遅くなります。
そこで、あくまでも「適度に」というのが大前提ですが、新陳代謝のサイクルが適度に遅くなることは、老化を遅らせる必要条件の1つになるのです。
昨今の健康志向のなかで流行している食事法といえば、どんなものがあるでしょうか。
そのなかの「原始人飲食法」や「ケトン食療法」などを見ると、多くの米国人は「新陳代謝の能力を高める(代謝を速める)ことによって、多く食べても太らない体になる」と考え、それを目指しているようです。
しかし「代謝能力を高めて、そのぶん多く食べる」は本末転倒。結局のところ、老化を促進しているのではないでしょうか。
アンチエイジングの視点から言えば、「適度かつ許容範囲内において新陳代謝を抑制する」ことにより、肥満にならず、また痩せすぎずに、体を良好な状態を維持することが肝要なのです。
食べる量を少なめにして、スリムな体形を保つと、人の体はどうなるでしょうか。体温が若干下がり、呼吸商(呼吸によって燃焼される熱量)が減り、甲状腺の分泌レベルも遅くなります。
そのため、体はそれほどカロリーを必要としなくなり、適度に低いカロリーを摂取するだけで健康を保ち、痩せすぎにはなりません。
これら3つの代謝調節、すなわち「甲状腺ホルモン産生、呼吸商、体温の3つを適度に低下させる」ことは、身体すべての老化を効果的に遅らせるのです。
甲状腺機能低下には「有益性」もある
特に、甲状腺機能のわずかな低下が健康と寿命に及ぼす「有益性」については、これまで十分に研究されているのですが、一般にはほとんど知られていません。
例えば、最近の研究では、甲状腺機能が正常範囲内で低下した場合、 3.5年の余命延長および心血管疾患のリスク低下に関連することが示唆されています。
異常に高いレベルの甲状腺活動、あるいは甲状腺機能低下症の治療において、甲状腺ホルモンを過剰に投与すると不整脈のリスクが高まることはよく知られています。
ところが、甲状腺の活動レベルが通常より高く、血圧も正常値より高い人は、たとえ甲状腺関係の薬を全く服用していなくても、心臓発作や心因性突然死のリスクが著しく高くなることは、あまり知られていないのです。
体形の維持には「やはり運動が必要」
また、2018年に米国心臓協会の学術研究会で発表された研究では、甲状腺の活動レベルが比較的高い場合には(たとえそれが正常範囲内であっても)心房細動のリスクが40%高まる、とされています。
心房細動のある人は「脳卒中を起こすリスクが5倍になる」と言われています。
そこで、食事の量を少なく、食事内容を適切にすることで、肥満、高血圧、高脂質などの生活習慣病が改善されると、心房細動を起こす頻度が減少し、結果として脳卒中のリスクが低下するのです。
このような変化は、なぜ起きるのでしょうか。それは新陳代謝の速度が低下し、甲状腺の活動レベルがわずかに低下するためです。
逆に、新陳代謝のスピードが速いと、加齢が加速されるだけでなく、脳卒中、心臓発作、がんなどの発症率が高まり、最終的に全体的な死亡リスクも高まることになります。
そこで推奨されるのが、やはり運動の実践です。体を丈夫にし、骨粗しょう症を予防する運動は(過剰でない限り)老化を加速させないための、体のカロリー消費を高める唯一かつ安全な方法です。
健康と寿命の限界を打ち破ることは、一種の「高度な芸術作品」の制作に似ているかも知れません。
その「制作」は決して容易ではないでしょう。しかし、生涯にわたって体脂肪の少ないスリムな体形を維持し、年齢に応じた筋肉量と骨の強度を保持することは、どなたにとっても実現可能な目標になります。
(文・Joel Fuhrman/翻訳編集・鳥飼聡)
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