【芸術秘話】ミケランジェロの『聖家族』はいくら?

イタリア人芸術家のミケランジェロ・ブオナローティは、ダビデ像を完成させてから間もなくして、アーニョロ・ドーニ(Agnolo Doni)というコレクターから、自分のために作品を描いてくれないかと依頼されました。そこで、ミケランジェロはテンペラ技法を用いてパネルに『聖家族』を描きました。

聖母マリアが地面に座り、後ろの聖ヨセフから幼児のイエス・キリストを大事そうに受け取ろうとしている(マリアがキリストをヨセフに渡しているという説もある)場面です。

パネルの中心に描かれたこの3人の目線と体の動きが輪になり、パネルの円形の構図にかなっています。家長であるヨセフはマリアより高い位置に描かれ、両足の間にマリアが座っていることから、ヨセフがマリアを守っているかのように見えます。そして、2人とも両手でキリストを支えていることから、我が子への愛が感じられます。

3人の背後の水平な帯が画面を2つに隔て、後方の5人の男性は裸体で、誰もキリストを見ていないことから、キリストが生まれる前の、文明がまだ開いていない時期を表しているようにも解釈できます。

最も、マリアとヨセフの行動の意味や、右側のキリストを見上げている洗礼者ヨハネと後方の5人の男性が象徴していることなど、この絵画の中での役割や意義について定まった解釈がないため、人によっては見方が異なり、感じ方も得られる答えも異なるのです。

マリアとヨセフ、キリストに明るい色が集中しており、また、3人の構図が輪になっているため、「家族」の一体感が感じられます。

『聖家族』はミケランジェロが一人で制作した、現存する唯一のパネル画です。
ジョルジョ・ヴァザーリが書いた『画家・彫刻家・建築家列伝』によると、『聖家族』が完成した後、ミケランジェロは代わりの者に作品をドーニのもとへ届けさせ、そして、銀貨70枚を要求しました。

1枚の絵画がこれほど高値になるとは思わなかったドーニは、ミケランジェロの作品がこの値段よりはるかに高価であると知っていながらも、銀貨40枚しか払わず、「これで十分だろう」と言ったのです。

このことを知ったミケランジェロは銀貨を返し、ドーニが銀貨100枚を支払わなければ、作品を持って帰るよう代わりの者に伝えました。これを聞いたドーニは「分かったよ。70枚支払えばいいだろう」と言いましたが、しかし、100枚ではなかったので、ミケランジェロは値段を銀貨140枚に引き上げました。結局、ドーニは140枚の銀貨を支払うしかありませんでした。

実は、ミケランジェロはお金にこだわっていたのではなく、芸術を大切にしないドーニの態度に怒ったのです。ミケランジェロは自分自身の価値をよく分かっています。才能だけでなく、芸術に対する情熱と敬虔な心、そして、真摯な態度も一つ一つの作品に込められているのです。もし、芸術作品に対して真心を持てないのなら、その人は偉大な作品を所有する資格はないのです。

(翻訳編集・天野秀)