米国の医療団体「Physicians Committee for Responsible Medicine(責任ある医療のための医師会)」の会長で医学博士のニール・バーナード氏は、ある日の講演で、アルツハイマー型認知症を患って亡くなった自身の父親について触れました。
「あの油が原因だったのか?」
バーナード氏の父は、亡くなる数年前から認知症の症状が出始めました。
初期の症状は記憶力の低下だけでしたが、時間が経つにつれて認知力も衰え、最後には見舞いに来た息子(バーナード氏)が誰かも分からないほどでした。
講演でバーナード氏は、「愛する人の記憶の喪失は、家族にとって、その人の喪失を意味するのです」と、自身が体験した悲しみを語りました。
日ごとに認知症が進んでいく父に接しながら、バーナード氏は、よく子供の頃のこんなシーンを思い出したと言います。
「母が、家のオーブンでベーコンを焼くと、おいしそうな匂いがします。私をふくむ子供たちは、その香りを察して、キッチンに駆け込むのです。子供たちは、母が熱々のベーコンのブロックをフォークに刺してオーブンから取り出し、ペーパータオルの上に置いて冷ます光景を、唾を飲み込みながら見ていました」
そのあと母は、厚手のグローブをつけた手で、ベーコンを焼いて熱せられたプレートを慎重に取り出します。プレートを斜めに傾けて、ベーコンから落ちたラード(豚の脂)をいつも使っているガラスポットに溜めます。
「このガラスポットに溜めてあるラードには、うま味がいっぱい凝縮されています。次の日の朝、母がこの油で焼いてくれるオムレツは、格別においしいのです」
講演中のバーナード氏は、「その思い出から、あることに気がついた」と言います。
室温で固形になったラードには、危険な飽和脂肪酸が大量に含まれています。同氏は、「あの不健康な脂肪で満たされたガラスポットは、父が後に認知症を患ったことと、もしかしたら関係があったのではないか」と言うのです。
脳内にプラークが発生する病気
アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)は最もよくみられる認知障害です。
アルツハイマー病の患者の特徴は、脳内に「βアミロイド」と呼ばれるプラーク、つまり一種のゴミがたまっています。
この病気の研究は今も進められていますが、現在認知されているアルツハイマー病の原因として考えられるのは、この脳の中にある綿糸の玉のような「ゴミ」なのです。この物質が蓄積されるにつれ、最終的に脳細胞は死滅するため、アルツハイマー病の症状が重症化します。
認知症になりやすい「遺伝子」
ある特定の遺伝子をもっていると、アルツハイマー病のリスクが高まります。
アポリポタンパク質E4(APOE4)と呼ばれる遺伝子は、脳内のβアミロイドの増加に関連していることが確認されています。この遺伝子を有する人は記憶障害、あるいはその他の関連症状を早期に引き起こす可能性があります。
もしも、あなたの父親や母親がAPOE4を持っていれば、あなたもその遺伝子を有しているかもしれません。約25%の人が、父親または母親からAPOE4を受け継いでいると考えられており、その場合、アルツハイマー病にかかる確率は一般の人より2~3倍高くなります。
また、2%~3%の人が「2つのAPOE4遺伝子」を持っており、その場合、同病になる確率は8~12倍に跳ね上がります。
脳細胞の「錆び」が引き金になる
アルツハイマー病のもう一つの主要な誘因は、酸化ストレスです。
人の体内には、フリーラジカル(活性酸素、体を酸化させ錆させるもの。一方ウイルスや細菌も防ぐ)が存在します。フリーラジカルは低濃度から中濃度であれば体に有益な役割も果たしますが、濃度が高すぎると人体にとって有害な物質となります。
体内のフリーラジカル量を増加させる要因は、健康的でない食事や精神的ストレス、その他さまざまな生活環境からの悪影響が挙げられます。
フリーラジカルが体内の抗酸化物質の量を超えると、フリーラジカルが過剰になってバランスが崩れます。その結果、脳内に生じる酸化ストレスが、細胞内の分子(脂質、タンパク質、DNAなど)を酸化して破壊します。
つまり脳細胞が「錆びる」ため、脳がβアミロイドを除去する能力を低下させてしまうのです。
(次稿に続く)
(翻訳編集・鳥飼聡)
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