(前稿より続く)
家畜の伝染病がもたらすもの
このほか、サルデーニャ島の1型糖尿病に関する更なる研究は、いくつかの有力な手がかりを我々に提供しました。
現地の牛と羊には、「ヨーネ病(Johne.s disease)」と呼ばれる家畜の伝染病が広く存在しています。これはヨーネ菌と呼ばれる、結核菌によく似た病原菌によるものです。
サルデーニャ島の1型糖尿病患者のうち、63%の血液サンプルから家畜のヨーネ菌にちかい形の結核菌が検出されましたが、それに対して、健康な児童の血液サンプルからの結核菌の検出率はわずか16%でした。
研究者はさらに、サルデーニャ島の1型糖尿病患者の血液から抗ウシ結核菌(ヨーネ菌)血清の存在を検出しています。研究者は、これらの血清の存在は、膵島細胞抗原と強い結合反応を起こした結果であるとしています。
このことは、サルデーニャ島の1型糖尿病患者のもつ血清が、ウシ結核菌(ヨーネ菌)のなかのある成分が交差反応を起こしたことによる、自己免疫抗原であることを示唆しています。
その後、欧米諸国における乳牛や肉牛のスクリーニングの結果、ヨーネ菌の影響はかなり一般的な現象であることが示されました。
したがって牛や羊のヨーネ病を引き起こすヨーネ菌は、(一部の牛乳とは別の原因として)1型糖尿病を誘発する抗原であることが証明されています。
遺伝的素因もある
しかしながら、1型糖尿病の発症率が比較的高い地域(それは北欧であったりサルデーニャ島であったりするわけですが)において、同等の条件下で生まれ育った子供たちのなかで、なぜ一部の子供だけが自己免疫を「誤作動」させて1型糖尿病になり、他の大多数の子供は同じ病気にならないのでしょうか。
それは、外来の自己免疫抗原のほかに、遺伝による「感受性のつよい遺伝子」が必要であるからです。この2つの要件が同時に満たされたとき、1型糖尿病のリスクが大幅に高まるのです。
また、「感受性のつよい遺伝子」を保有していても、自己免疫抗原(A1タイプの牛乳など)を極力避ければ、1型糖尿病リスクが抑えられることも明らかになりました。
これらの要因に加えて、いくつかの研究によると、乳児期における肉や油脂の摂取および加工された副食品摂取の早期開始も、1型糖尿病のリスクを高める可能性があることが示されています。
少なくとも生後5〜6カ月までは、腸が十分に発達していない乳児には、腸からの漏出に関係するアレルギーや自己免疫疾患などを予防する必要があります。そのため、WHOは生後6カ月までは、可能な限り母乳を与えるよう推奨しています。
「幼児の肉食」は避けましょう
肉食の影響は、生後6カ月前に限りません。
研究により、2歳以前の幼児が肉を摂取すると、1型糖尿病のリスクを増加させることが分かっています。
さらに、体内ビタミンDの欠乏は、多くの自己免疫疾患と関連しています。
国内外の研究によると、その国の位置する緯度の上昇に伴い、日光浴をする機会と時間が減少しますが、それとともに1型糖尿病の発症率も明らかな上昇傾向が見られます。
以上のことをまとめると、1型糖尿病に関連性が高いとみられる因子には、「一部の牛乳と乳製品」「肉食」「遺伝的素因」「ビタミンD欠乏症」「加工された副食品を乳児期から与えること」などの5つが挙げられます。
1型糖尿病によってインスリンを産生する膵島(ランゲルハンス島)細胞が死滅したら、その後の回復は極めて困難となり、あとは自分でインスリン注射を打ち続ける対処法をとることになります。
このような厄介な病気は、可能ならば避けたいものですが、そのためにできる努力には限りがあるかもしれません。
まずは、1型糖尿病という病気を考える機会として、本記事がお役に立てれば幸いです。
(完)
(翻訳編集・鳥飼聡)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。