棘に満ちた王者への道(3)
ソルカン・シラの2人の息子チンバイとチラウンは父親の反応を待たずに、妹を呼んで3人でテムジンの首や手足についている鎖を外し、後で証拠にならないよう、きれいに処分した後、ゲル裏の羊毛が積まれた荷車にテムジンを隠しました。
3日間捜査してもテムジンを見つけられなかったので、タイチウト氏族の首長は誰かが匿ったのではないかと疑い始めます。ゲルを一つずつ隈なく捜索していき、ソルカンの家のゲルも隅から隅まで探し回りましたが、テムジンの姿はどこにもありません。兵士たちが立ち去る間際に、リーダーらしき人物がゲル裏の大量の羊毛を乗せた荷車に気づき、兵士に荷車を調べさせようとしました。
ソルカンは緊張と恐怖で震える両足でなんとか踏ん張り、声が震えないよう必死に抑えて、「こんな暑い日に羊毛の中になど隠れていたら窒息しますよ」と言いました。
納得したリーダーは、荷車の捜索をやめてこの場から離れたのです。我に返ったソルカンは冷や汗をかきながらも、慌てて食糧と馬を用意させ、弓矢もテムジンに渡し、一刻も早くここから離れるよう促しました。
天命を背負った者は、たとえ窮地に立たされても活路が開けるのです。
時は流れ、かつての少年テムジンは、各部族をまとめ、「チンギス・カン」の尊称を与えられました。オン・カンと同盟して、ジャムカを破ったチンギス・カンは、戦いの被害を受けた遊牧民たちを慰めている時、ふと、誰かが「テムジン」と言っているのが聞こえたのです。
声をたどっていくと、ある女性が見るに堪えないほど悲しそうに泣いているのを見かけました。近づいて理由を聞いたところ、彼女がかつて自分を助けた恩人ソルカン・シラの娘であると知り、チンギス・カンはうれしくて、すぐにソルカンを連れてくるよう手下に命じました。
ソルカンの顔を見た瞬間、この百戦錬磨を経た帝王は赤い目をして、涙をにじませながら恩人を抱きしめ、「あなたたち親子はかつて私にかけられた鎖を外し、命を救ってくれた。なぜもっと早く私のもとに来なかったのだ?私がどれだけあなたたちのことを心配していたことか」と伝えました。
すでに年を取ったソルカンは、「あなた様は多くの人に尊敬されています。早く帰順すれば、きっとタイチウト氏族の首長に家族全員を殺され、家財まで奪われるでしょう。ですので、この日まで待ちました」と説明し、冷静になったチンギス・カンも老人の言う通りだと賛同しました。
1206年、チンギス・カンがモンゴル帝国を開き、開国の功臣たちに褒美を与える際、特別にこの老人に尊敬と感謝の意を伝えました。
「あなたから受けた恩を忘れたことは一度もない」
そして、この戦功のない老人に千人隊長の位と広い牧場を与え、家族代々の税金を免除しました。
(つづく)
(翻訳編集:華山律)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。