シューベルトの「野ばら」

フランツ・シューベルトの「野ばら」は他の曲ほど有名ではありませんが、その誕生の背景には、感動的な物語があります。

19世紀初頭、ウィーンの寒い夜、18歳のシューベルトはピアノの練習を終え、静かな帰り道を歩いていました。夜の通りは少し寂しく、中古品ショップの前を通りかかった時、ふと以前に彼から音楽を学んだ貧しい少年を見かけました。夜も遅いのに、少年は家に帰っておらず、寒い中、1人外にいました。

少年が本と古い服を持っているのを見て、彼はすぐに少年が中古品を売りたいと悟ったのです。なぜなら、シューベルトも子供時代に同じ経験をしたからです。
悲しみながら目に涙を浮かべている少年を見て、シューベルトの胸が痛くなりました。街灯に照らされた寂しい通り、冷たい冬風と暗闇が2人を飲み込もうとしています。

当時はシューベルト自身も貧しく、音楽を教えて生計を立てており、作品があまり売れず、時には紙を買うお金さえありませんでした。それでも、持っていたすべてのお金を取り出して少年に渡し、「その本を先生に売ってくれないか?」と言って本を手に取りました。

少年は手の中のお金を見て、何も言えませんでした。その本は実は何のお金にもならず、それでも先生は多すぎるほどのお金をくれたのです。シューベルトは「もう遅いから、早く家に帰りなさい」と少年を慰め、うなずいた少年は走っていきました。少年の服がなびいて、まるで翼をはやした小鳥のようでした。数歩走った少年は立ち留まり、振り向いてシューベルトに向かってこう言いました。「先生、ありがとう!」そして、手を振りながら走り去っていったのです。

シューベルトは、少年の姿が夜霧で完全に見えなくなるまで見守った後、古い本を開いて読みながら家路を歩きました。その時、ふと本の中の詩にひかれ、街灯の下で読み始めました。

 少年が見つけた小さな野ばら
 野中の赤いばら
 とても若々しく美しい
 すぐに駆け寄り間近で見れば
 喜びに満ち溢れる
 バラよ 赤いバラよ 野中のバラ

これは、ドイツの詩人ゲーテの「野ばら」です。読んでいくうちに、冷たい風も寂しい夜も何もかも消えていき、満開の野バラとかわいらしい少年が見えてきて、芳醇な花の香りが鼻をくすぐりました。感動的な旋律が頭の中で奏で出し、シューベルトは急いで家に帰って、この美しい旋律を書き留めました。
ふとした心優しい行いが、シューベルトにインスピレーションを与え、美しい音色を作り出したのかもしれません。

(翻訳編集・季千里)