現代病、つまり生活習慣病は、冷たいものや脂っこい食事、不規則な生活などが原因で、体内の気血が滞り、五臓に負担をかけることがあります。その結果、がん、糖尿病、うつ病などのさまざまな難病を引き起こすことがあるのです。
そのため、中医学では、治療や養生において、気血の流れを良くし、寒熱のバランス(陰陽のバランス)を整えることが強調されています。これにより、内臓への負担を軽減し、五臓の本来の機能を取り戻すことで、免疫力が向上して、自然に多くの病を防ぐことが可能なのです。
そんな中で、「シナモン(肉桂)」は、台所の一般的な香辛料として親しまれていますが、実は中医学における高級薬材のひとつです。シナモンは五臓を調整し、腎を温め、冷えを取り除き、気血の流れを改善する効果があるのです。その豊かな香りは心を癒し、特に冬の時期には粉末にして、コーヒーなどの飲み物に加えることで、寒さを和らげ、免疫力を高め、現代病の予防にも役立ちます。
『神農本草経』に記された上品薬
『神農本草経』は中国で最も古い薬学書として知られており、シナモンはその中で「上品」に分類されています。「上品薬」とは、無毒で長期間にわたって服用できる非常に価値の高い薬材を指します。
この書によれば、シナモンは主に胸部の気の滞りに用いられ、その効果は精神を安定させ、心を軽やかにし、身体を軽くすることにあります。また、老化を遅らせ、長寿をもたらす効果も期待されています。
簡単に言えば、シナモンは気血の流れを良くするのに特に優れており、心肺に滞った気を腎へと下げる作用があります。これが中医学でいう「引火帰元」の働きです。もしこの気が下りない場合、上半身が熱く下半身が冷えるというアンバランスな状態が生まれ、さまざまな病の原因となるのです。
「引火帰元」はエアコンの暖房の循環と同じ理屈
人体の火のエネルギー、つまり陽のエネルギーは自然に上昇します。「熱は上昇し、冷気は下降する」という現象は、エアコンの仕組みと似ています。冷房は効果を発揮しやすい一方、暖房の熱は上昇するため、なかなか下に降りてきません。そのため、空気を循環させ、上部の暖かい空気を下げるには、何らかの力が必要です。
これは自然の理であり、人体も同様です。心臓は五行において「火」に属し、人体の火のエネルギーは心臓から生じます。この火のエネルギーは肺を経由して腎にまで降りていく必要があります。これにより腰腹部の冷えが和らぎ、下部にある腎(五行では「水」に属し、冷えの性質を持つ)が火のエネルギーを受け取ることで、水を温めて上部に送ることができるのです。このプロセスにより、乾燥や喉の渇きといった不快な症状も解消されます。
そのため、シナモン(肉桂)は気の流れを整え、再び経絡を通じて気血を循環させ、動的なバランスを取り戻します。これにより、陰陽のバランス、すなわち寒熱と湿燥のバランスが整い、特に「上熱下寒」の体質や冷え性の改善に非常に適していると言われています。
シナモンの注意点
ただし、シナモンは「熱」の性質を持つため、過剰に摂取すると便秘や鼻血など、乾燥や熱の症状を悪化させる可能性があります。そのため、他の薬材や食材との適切な組み合わせが重要です。特に「熱性体質」の方は注意が必要で、少量で使用することが求められます。
また、陰虚(体内の水分不足)で内熱がある方には、シナモン単体での使用はあまり適していません。大根、昆布、ごぼう、山芋、レンコン、ハスの実など、滋陰・清熱の食材と共に豚肉などでスープにしていただくか、医師の指導に従うことが望ましいです。
現代病を和らげるメカニズム
補腎・陽気の強化
シナモン(肉桂)は「熱」の性質を持ち、辛く甘い味が特徴です。辛味は肺に働きかけて気の流れを整え、甘味は脾胃(消化器系)を温めて消化システムの回復を助け、自然に血糖バランスも整います。また、「引火帰元」の働きにより腎を温め、陽気を高める効果があり、腎の陽気が不足していることで起こる四肢の冷え、疲労感、腰や膝の痛み、頻尿などの症状を改善します。
このようにして、肝血が腎の水で温められて滋養されることで、肝火も落ち着きます。その結果、イライラやうつ気分も自然に和らぎます。肝の気が平和でスムーズに流れると、心肺も温かく潤い、頭や顔が火の気で蒸されることがなくなるため、心が落ち着き、精神的な安定がもたらされ、うつや不眠も解消されるのです。
寒さを散らし、痛みを和らげる
シナモンには強力な寒さを散らす効果があり、寒気によって引き起こされる関節の痛み、腹痛、腰痛などに適しています。また、脾胃の虚寒が原因の腹痛や下痢にも有効です。
血脈を温め、巡らせる
シナモンは赤色をしており、心に作用して血の巡りを良くします。特に寒さによる血の滞りがある体質や、血行不良による痛みや瘀血(おけつ:血の滞り)に効果があります。これにより、心血管系の病気を防ぐ、もしくは和らげることができ、血圧や血中脂質も自然に低下します。これがシナモンが抗がん作用を持つ理由でもあります。気血がスムーズに流れれば、腫瘍は形成されにくくなり、軽度のものは次第に柔らかくなり、散り、最終的には消えるのです。
シナモンの使用法について
シナモンは粉末(シナモンパウダー)として使用するのが最適です。熱湯、紅茶、コーヒーや豆乳などの温かい飲み物に混ぜて服用することで、辛香の成分が効果的に働きます。これが経絡の気の流れを整えるカギとなるため、長時間の煮込みには向いていません。以下に、寒い冬に適した便利なシナモン飲料をいくつかご紹介します。これで脾腎を保養し、寒さを追い払い、健康を守りましょう。
「シナモン紅茶」
材料
- シナモンパウダー(少量、約1グラム)
- 紅茶
- 生姜スライス(お好みで)
- 黒糖(少量)
手順
紅茶にシナモン、生姜を加えて熱湯で抽出し、少量の黒糖で甘味をつけます。
効果
身体を温め、寒さを散らす
冷え性の方には体を温めて免疫力を高める効果があり、虚寒による胃の不調を和らげます。★冷え性の方、脾胃虚寒の方に特におすすめです。
注意点
陰虚火旺や熱性体質の方は過剰摂取を避けてください。
「シナモン豆乳ティー」
材料
- 無糖豆乳 200ml
- シナモンパウダー 少量
- 蜂蜜 適量
手順
- 豆乳を温める
豆乳を温めますが、沸騰させないように注意します。 - シナモンと蜂蜜を加える
少量のシナモンパウダーを加えてよく混ぜ、好みに応じて蜂蜜を加えます。
効果
豆乳:腎を補い、陰を滋養する。肺を潤す。
シナモン:腎の陽気を温め、腎の陰陽バランスを整える。
豆乳とシナモンの組み合わせ:
- 腎を補い、体を温めるのに適している。
- 腎の陰陽バランスを整える効果がある。
- 豆乳と合わせるうことで、シナモンの乾燥しがちな性質を緩和することができる。
★冷え性の方、脾胃虚寒の方に特におすすめです
注意点
熱がこもりやすい体質の方は、シナモンの量を控えめにしてください。
「シナモン入りあずきスープ」
材料
- 煮たあずき 100g
- シナモンパウダー 1g
- 黒糖 適量
手順
材料を混ぜる
熱湯を使って、すべての材料をよく混ぜ合わせます。
効果
あずき:血を補い、脾を強化する効果がある。
シナモン:腎陽を温め、肝血を整え潤す作用がある。
あずきとシナモンの組み合わせ
- 手足の冷えや月経不順に悩む女性に特におすすめ
- 秋冬に適した効果がある
★気血が虚弱な方、冷え性の方に特におすすめです
注意点
陰虚火旺や実熱のある方は大量に摂取しないように注意してください。
「クコとナツメのシナモンティー」
材料
- クコの実 10g
- ナツメ 2〜3個
- シナモンパウダー 1g
- 水 500ml
手順
- 準備
クコの実とナツメを洗って準備します。 - 煮る
鍋に水を入れ、ナツメを加えて沸騰させた後、弱火で10分煮ます。 - 仕上げ
火を止める直前にクコの実を加えて少し煮、最後にシナモンパウダーを加えます。
効果
クコの実:肝を養い、視力を守る。腎を滋養する効果がある。
ナツメ:血を補い、精神を安定させる働きがある。
シナモン:少量で温める効果が増し、体を温めながら過度な熱を避ける。
クコの実、ナツメ、シナモンの組み合わせ
- 体を温めるとともに、過度な熱を避ける効果がある
★腎が虚弱で気血が不足している方、特に午後や夜に少量飲むと、腎を補いつつ、体を温めすぎない効果があります。
「シナモンアップルグリーンティー」
材料
- シナモンパウダー 0.5g
- りんご 1個
- 緑茶ティーバッグ 1個
- 温水 300ml
手順
- りんごを煮る
りんごの芯を取り、適当な大きさに切ります。温水に入れて5分間沸かします。 - シナモンを加える
シナモンパウダーを加えてさらに3〜5分煮ます。 - 緑茶と合わせる
別のカップで緑茶をティーバッグで抽出し、そこにりんごとシナモンの飲み物を加えてよく混ぜます。
効果
新陳代謝を促進し、脂肪の燃焼を助けます。ダイエット中の体重減少に効果的です。
飲用のアドバイス
ダイエット期間中にお昼ご飯の後に飲むのが適しています。
過剰に飲むと胃に負担がかかる場合があるため注意が必要です。
その他の飲み方
シナモンはコーヒー、牛乳、またはアーモンドミルクと一緒に飲むこともできます。牛乳やアーモンドミルクは肺を潤し、シナモンの持つ乾燥しがちな性質を緩和する働きがあります。
熱性体質の方はシナモンパウダーの量を減らし、適量を飲むか、医師の指導に従うことが望ましいです。
一般的にはシナモンパウダーの使用量は1回につき1g以下が推奨されますが、自身の体質に合わせて量を調整してください。
(翻訳編集 華山律)
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