魚油には健康に良いとされる効果がありますが、それがすべての人に当てはまるわけではありません。中には、魚油を摂取することで特定の心臓や血管の病気(心血管疾患:CVD)のリスクが高まるケースもあるようです。
台湾の心臓専門医、劉忠平(リウ・ジョンピン)医師は、大紀元の番組「健康1+1」のインタビューで、魚油の効果やリスクについて最新の研究データをもとに説明しました。また、安全に魚油を摂取するためのポイントについてもアドバイスをしています。
魚油は、オメガ3脂肪酸が豊富に含まれていることで知られ、健康食品として非常に人気があります。特に、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)は、心臓や血管の健康に良い影響を与える成分として広く認識されています。
一方で、魚油の適切な摂取量や、EPAとDHAの含有量、さらには重金属による汚染のリスクについては、いまだに議論が続いています。
魚油に関連するリスクについて
最近の研究で、魚油サプリに関するリスクがより詳しく分かってきました。
2024年5月に医学誌「BMJ Medicine」に発表された研究によると、心血管疾患(CVD)の既往歴がない人が魚油を定期的に摂取すると、心房細動のリスクが13%、脳卒中のリスクが5%増加することが分かりました。
一方、CVDを持つ患者が魚油を摂取すると、これらのリスクが低下することも確認されています。さらに、心房細動が心不全や重大な心血管イベント(心臓発作など)に進行することで起こる死亡リスクも減少しました。
この研究では、英国のバイオデータベースから40~69歳の約41万6千人のデータを調査し、平均で12年間追跡しました。
他の研究でも、オメガ3脂肪酸が心血管の健康に与える影響については賛否両論があります。
例えば、2021年の大規模な研究レビュー(システマティックレビューおよびメタアナリシス)では、海洋由来のオメガ3脂肪酸を中期~長期にわたって摂取すると、特に1日1グラム以上の高用量で心房細動のリスクが増加することが確認されました。
一方、2023年12月に発表された別のメタアナリシスでは、体内のEPAやDHA(魚油の成分)が多い人は、脳卒中全体や虚血性脳卒中(血流が遮断されるタイプの脳卒中)のリスクが低いことが分かりました。ただし、出血性脳卒中(脳内の出血が原因となるタイプ)との関連性は見られませんでした。この研究では、DHAやEPAを多く含む食事をとることで、脳卒中のリスクが下がる可能性があると結論付けています。
また、米国国立衛生研究所(NIH)が実施した「VITAL」と呼ばれる大規模試験では、海洋由来のオメガ3脂肪酸が心房細動や脳卒中のリスクに影響を与えないことが分かりました。この試験では、50歳以上のアメリカ人2万5871人を対象に、5年以上追跡調査を行いました。
さらに、2023年にVITAL研究チームが発表した別のメタアナリシスでは、海洋由来のオメガ3脂肪酸を1日1グラム摂取した場合、オリーブオイルをプラセボとした比較では心臓病や脳卒中のリスクに大きな差は見られませんでした。しかし、心臓発作全体、冠動脈の手術(経皮的冠動脈形成術)、致死性心臓発作、心不全による再入院リスクは大きく減少したことが報告されています。
魚油サプリを摂るべき人とは?
魚油に含まれるオメガ3脂肪酸(EPAとDHA)は、健康維持に欠かせない重要な栄養素です。これらには、血中の中性脂肪を減らし、インスリン抵抗性、高血圧、脂質異常症などの肥満に関連する代謝異常を改善する効果があります。また、血圧を下げる働きや、炎症を抑えて血管機能を高める作用があるため、心臓を守る効果も期待されています。
「オメガ3脂肪酸は冠動脈や心臓の健康に良い影響を与えると考えられています。そして、その効果が特に大きい人もいるようです」と、VITAL試験の主任研究者であるジョアン・E・マンソン医師(ブリガム&ウィメンズ病院およびハーバード医科大学所属)は、NIHの特集記事で述べています。
魚油サプリを特に摂取するべきとされるのは、魚をあまり食べない人やアフリカ系アメリカ人、そして心臓病のリスク因子を2つ以上持つ人です。心臓病のリスク因子には、高血圧や糖尿病、喫煙などが含まれます。
一方、健康な人、特に週に2回程度魚を食べている人は、追加で魚油サプリを摂取する必要はないと劉医師は述べています。ただし、心血管疾患(CVD)を持つ患者の場合、魚油サプリを摂取することで心臓に良い効果が得られる可能性があります。
2021年のメタアナリシスでは、魚油サプリに含まれるEPAとDHAが、冠動脈性心疾患や心臓発作の予防に有効であることが示されました。また、その効果は摂取量が増えるほど高まることが分かっています。
魚油を摂取すべきでない人
魚油サプリは、すべての人に適しているわけではありません。以下のような人には注意が必要です:
- 魚アレルギーがある人
- 魚油には血を固まりにくくする作用(抗凝固作用)があるため、痔で出血がある女性や月経が多い女性、妊娠中の女性、さらには手術を控えている人には適していません。
- アスピリンは心血管疾患を予防・管理するために使用されることが多い薬ですが、魚油と相互作用を起こす可能性があります。そのため、アスピリンを服用している場合は、魚油サプリの使用には慎重になるべきです。
劉医師は「アスピリンは心臓病管理において重要な薬であり、魚油を摂取するためにアスピリンの服用を中止してはいけません」と強調しています。アスピリンを服用していて魚油を摂取したい場合は、必ず事前に医師に相談してください。
自然な食品からオメガ3脂肪酸を摂る方法
オメガ3脂肪酸をサプリメントに頼るよりも、自然な食品から摂取する方が安全で効果的である場合があります。劉医師は以下のような自然食品を推奨しています:
- 魚や海産物:サーモン、サバ、イワシなどは、DHAやEPAが豊富に含まれています。
- 植物由来のオイル:亜麻仁油やクルミ油には、アルファリノレン酸(ALA)という必須脂肪酸が含まれています。ALAは体内でEPAやDHAに変換されるため、植物由来のオメガ3脂肪酸の選択肢として優れています。ただし、変換効率はDHAやEPAよりも低い点に注意が必要です。
- ナッツや種子類:クルミ、亜麻仁、チアシードなどは、オメガ3脂肪酸を豊富に含む食品です。
魚油サプリを安全に摂取するためのポイント
魚油サプリを検討している人は、リスクを最小限に抑えるために、劉医師が推奨する以下のガイドラインを守ることが重要です:
- 摂取量を管理する:魚油の1日の摂取量は1グラム未満に抑えることを推奨します。過剰摂取は心房細動などのリスクを引き起こす可能性があります。
- 自然食品を優先する:オメガ3脂肪酸は、魚などの自然食品から摂ることを基本にし、サプリメントへの過度な依存を避けましょう。
- 汚染物質に注意する:魚を選ぶ際には、水銀含有量が少ない魚(例:サーモンやイワシ)を優先し、水銀が多く含まれる魚(例:メカジキやキングマカジキ)は避けるようにしましょう。
- 医師に相談する:魚油サプリを使用する場合は、特に心血管疾患(CVD)やその他の健康問題がある場合、必ず医師の指導を受けてください。
(翻訳編集 華山律)
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