夏に冷たいものを取りすぎると 逆効果に
夏になると、つい冷たい飲み物や食べ物、エアコンなどで涼を求めがちですが、それがかえって体に悪影響を及ぼすことがあります。特に脾胃(ひい)は、気血を作り出す源であり、体の中心的な働きを担っています。そこに冷えや湿気が入り込むと、体の「陽気」が損なわれ、ちょうどエアコンが故障したような状態になります。
このような状態になると、栄養の吸収がうまくいかず、体温調整も正常にできなくなり、かえって暑さに弱くなったり、頭がぼんやりして重だるくなったり、ひどい場合は熱中症を引き起こすこともあります。
つまり、涼を求めれば求めるほど体が弱り、悪循環に陥ってしまうのです。
本当に大切な体調管理とは、経絡(けいらく:気と血の流れるルート)に沿って気血の流れを良くし、内臓の働きを温めて活性化させることです。そうすることで、体が自ら機能し始め、自然に体温調節ができるようになります。ちょうど、電力が十分にあればエアコンが正常に動き、涼しい空気を作り出すようなイメージです。
経絡は身体の「調整システム」かつ「電力ネットワーク」
経絡は、数千年にわたる中医学の核心理論です。多くの人は経絡を鍼灸に関係するものと考えがちですが、実際には経絡は人体内部における最も基本的で、かつ強力な「調整ネットワーク」と言えます。すべての中医療法や養生法、さらには薬や食事療法でさえ、このシステムに基づいて効果を発揮しています。
分かりやすく言えば、人体を電気製品にたとえると、経絡は電気回路に相当します。つまり「電力網」のような存在で、人体の動力源となるものです。ただし、エネルギー源は「電気」ではなく「気」です。このシステムに不調が生じたり、「電力不足」になったりすると、身体の機能全体に影響が出てきます。

「経」は太い本線で、五臓六腑や体の上下・内外をつなぐルートを指します。「絡」はそこから枝分かれした支線で、四肢や皮膚、骨や筋肉など体のすみずみに行き渡ります。経絡は気血の流れをコントロールしており、「ツボ」はその経絡上にある大小の「駅」のようなもので、外部の刺激やエネルギーを受け取ったり、経絡の流れを調整したりする役割を担っています。
たとえば、脾に力がなく、冷えや湿気が体にたまりやすい体質の人は、朝なかなか起きられず、むくみやすい傾向があります。このような場合、専門家の指導のもとで「足三里」への指圧や、「中脘」へのお灸を行えば、それはまさに脾胃系の「電源スイッチ」を入れるようなものです。そうすることで、脾胃が再び元気に働き出し、体内の老廃物もたまりにくくなります。
さらに、山芋、はと麦、あずきなど、脾を元気にして湿気を取り除く食材を取り入れれば、内側からもこのシステムを整えることができます。これは単に「痛いところを治す」だけの考え方ではなく、「エネルギーの通り道を整え、全身の働きを調和させる」という、中医学独自の経絡的アプローチなのです。
つまり、経絡は体質を整え、臓器の機能を正常に戻すためのカギです。経絡のリズムに従って食べ、動き、養生することで、根本から体質改善ができるのです。
経絡は時刻ごとに宇宙から「充電」を受けている
私たちの身体も自然と同じように、「昼は活動し、夜は修復する」というリズムを持っています。
一日を12の「時辰」(1時辰=2時間)に分けると、それぞれの時間帯で特定の経絡が最も活性化し、まるで「充電」のピークを迎えているかのようです。たとえば、朝7時から9時は「胃経」が最も活発になり、胃の働きが最も強い時間です。この時間に温かいお粥やご飯をしっかり食べることで、その日の消化力が最大限に引き出されます。
夜の11時から1時は「胆経」がエネルギーを蓄える時間帯であり、体内の毒素を排出し胆を浄化する大切な時間です。この時間にしっかり眠っていないと、毒素が体に溜まり、健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
さらに深夜1時から3時は「肝経」が最も活性化する時間で、身体の修復作業が進む時間です。夜更かしをすると、解毒や排泄の働きが妨げられ、感情の乱れを引き起こすこともあります。
このように、それぞれの時間帯には、それぞれの経絡が「充電」しており、この流れは日々同じように繰り返されています。もしもこの自然のリズムに逆らった生活をしてしまえば、たとえば昼間に宇宙が「充電」してくれているのに、自分から電源を抜いてしまったり、夜「排毒」すべき時間に明かりをつけて働いていたりすることになります。こうした習慣を続けていると、やがて身体の「電力システム」に不調が生じてしまいます。
ですから、本当に健康を保つためには、経絡の時刻リズムに沿った生活を心がけることが大切です。食事はその時に合ったタイミングでとり、起きる時間や寝る時間も自然の流れに合わせること――これこそが「天人合一」の考え方であり、真の長寿の道なのです。
食養も経絡に沿ってこそ、体質を整えられる
中医学では、食材には「性味帰経(せいみきけい)」があるとされています。つまり、食材には「冷・熱」や「酸・苦・甘・辛・鹹」といった性質があるだけでなく、それぞれ特定の経絡を通じて、対応する臓腑に作用する性質も持っているのです。
たとえば、薬が体内で必要な臓器に届くように、食べ物もまた、それぞれ決まった「行き先」があるのです。

具体的な例を挙げればすぐに理解できます:
生姜:辛くて温かい性質があり、「脾経」と「胃経」に作用。体を温め、脾(消化機能)を活性化させる力があります。
あずき:熱を冷まし、水分代謝を促し、湿気を取り除く。心経と小腸経に作用し、心の火を鎮め、暑さを和らげ、安眠・むくみ解消にも効果的です。
陳皮:気を巡らせ湿を除く作用があり、「肺経」と「脾経」に入り、痰を取り咳を止めます。体が重だるい、胃が張るといった症状にもよく効きます。
山芋:甘くて穏やかな性質で、「肺・脾・腎経」に作用します。「五臓を補うがくどくない」とされ、季節を問わず使える食材です。
シソ:香りで湿を取り、脾と肺に作用します。特に夏の食卓にぴったりで、湿気を除き、脾胃の調子を整えるのに適しています。
このように、たとえば「山芋と小米(きび)の粥」や「小豆と薏仁(はとむぎ)のご飯」、「生姜となつめのスープ」といった簡単な料理でも、食材の性質と経絡の流れに合った組み合わせにすることで、まるで「食べる鍼灸」のように体に働きかけ、五臓を養いながら体質を整えることができるのです。
経絡が詰まっていては、どんなに良い食べ物も吸収されない
食事による栄養補給は、ただ「不足しているものを補えばいい」というものではありません。飢餓や極端な偏食が原因でない限り、栄養不足の多くは内臓機能の不調からきています。とくに脾胃などの消化吸収に関わる臓腑が弱っていると、どんなに栄養価の高いものを食べても、きちんと吸収されず、かえって脾胃に負担をかけてしまいます。これが悪循環となり、場合によっては栄養どころか「毒素」になってしまうことさえあります。
中医学では、栄養を「補う」前にまず、経絡の滞りを解消し、詰まっている部分を通すことを重視します。そうして本来の機能を回復させることで、根本から体を整えるのです。
たとえば、「寒湿体質」の人は、脾胃の経絡が塞がれやすくなっています。この場合は、「中を温め、寒を散らす」「脾を補って湿気を除く」ことが重要です。専門家による鍼灸で脾胃の経絡を整えながら、はと麦、山芋、生姜などの食材を取り入れて、脾の機能をサポートし寒湿を追い出します。
一方、「湿熱体質」の人は、肝や胆の経絡に気血の滞りが生じやすく、主に「湿熱を除き、肝の気を巡らせる」ことが目的になります。この場合、太衝、陽陵泉、曲池などのツボを軽く刺激しつつ、緑豆や小豆などを使った食事療法を行うのが効果的です。
このように、経絡がスムーズに流れている状態でこそ、食事の栄養が体にしっかり届き、最大の効果を発揮するのです。
結びに:食養生には「経絡」の理解が必要
現代人は、食事の良し悪しを「カロリー」や「ビタミン」で判断しがちですが、中医学の視点では、本当に良い食事とは、単なる「栄養価」だけでなく、「経絡に沿うこと」「時刻に合うこと」「体質を支えること」が大切とされています。
経絡の流れが整っていれば、食べた物が正しい経絡を通じて働き、体は本来のリズムと機能を自然に取り戻していきます。
たとえば、自然のリズムに従った生活をし、温かい料理や旬の食材を意識して摂ることは、すでに経絡の流れに沿った食生活をしているということです。そうした習慣を続けることで、きっと体の変化を実感できるようになるでしょう。
(翻訳編集 華山律)
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