健康だった17歳の学生が、風邪から回復してわずか1週間後に重度の息切れを訴えました。喘息だと考えた両親は吸入器を使用しましたが、効果はありませんでした。
呼吸状態が悪化し、病院へ急行したところ、画像検査により心臓の肥大と肺への水分の貯留が確認されました。医師は、最近のウイルス感染が原因の心筋炎(心筋の炎症)と診断し、すでに心不全へと進行していたのです。
台湾の心臓専門医、リウ・ゾンピン博士は、この10代の患者を治療し、新唐人テレビの番組「健康1+1」でこの症例を紹介。増加傾向にありながら見過ごされがちな脅威を強調しました──心不全はもはや高齢者だけの病ではありません。
静かな危機:若者の心不全
心不全の症状は初期段階では微妙で、わずかな運動でも極度に疲れたり、歩行後に息切れがしたり、足がむくんだりしますが、これは重大な健康リスクを示しています。そして、こうした症状に悩む若者が増え続けているのです。
心疾患はアメリカにおける死因の第1位ですが、スタンフォード大学が2024年6月に発表した研究では、過去50年間で心血管疾患による全体の死亡率は約66%減少した一方で、心不全による死亡率は146%も増加しているという憂慮すべき傾向が示されました。
中でも、若年成人を含む心不全関連の死亡が著しく増加しています。2024年の研究によれば、1999年から2021年にかけて、45歳未満の年齢層では906%、45~64歳の年齢層では385%の心不全死亡率の増加が確認されました。この傾向は、若年層に多いライフスタイル要因と深く関係しています。
早期発症心不全の要因
生活習慣、物質使用、心筋に影響を与える感染症により、若年成人の間で心不全の発症が増加しています。
- 高脂肪・高糖質の食品:大量摂取により、体重増加、血糖値の上昇、コレステロールや血圧の異常が引き起こされます。
- 薬物やアルコールの乱用:違法薬物、処方薬、アルコールの誤用が心臓に負担をかけ、心不全の原因となります。
- ウイルスまたは細菌感染:COVID-19、風邪、インフルエンザなどの感染症は、免疫グロブリンが心筋繊維を攻撃する炎症反応を引き起こし、壊死や腫れ、心筋炎を招くことで心臓機能を損ない、心不全を引き起こす可能性があります。
- ワクチン関連の心筋炎:特にmRNA型COVID-19ワクチンは、若年男性において心筋炎の症例との関連が報告されています。多くの症例は適切な治療により回復しますが、重症化した場合には心筋の炎症が心機能を損ね、心不全のリスクを高める可能性があります。
若者が警告サインを見逃す理由
若者は一般的に健康であり、高齢者に比べて生理的な異常に対する耐性が高い傾向があります。そのため、症状があまり顕著に現れず、重要な初期の警告サインを見逃しやすくなります。
このような認識の遅れにより、心臓の問題が明らかになる頃には、すでに状態がかなり進行している場合があると、リウ氏は述べています。
心不全の症状の認識
心不全を示す特定の症状に注意を払い、早期発見することが重要です。
1. 息切れと睡眠障害
喘息や一般的な疲労とは異なり、心不全による症状は横になると悪化する傾向があります。その理由は以下の通りです:
- 横になることで肺の静水圧が上昇し、呼吸が困難になります。
- 下半身から心臓へ戻る血液の量が増え、心臓への負担が大きくなります。
- 肺に液体が溜まり、夜間の咳や息切れを引き起こします。
そのため、多くの心不全患者は、呼吸を楽にするために枕を重ねたり、リクライニングチェアで上体を起こして寝る必要があります。
リウ氏は、「立位では肺が垂直に吊り下がって液体が下部に溜まるが、横になると肺全体に圧力がかかり、呼吸が困難になる。また、脚からの血液が心臓に戻り、心臓の内圧が上昇する」と説明しています。その結果、心不全患者は睡眠障害を起こしやすくなります。
2. 両足と脚のむくみ
日常的な歩行で疲れやすさを感じるほか、多くの心不全患者は両足や足首にむくみ(浮腫)を伴います。これは、心臓のポンプ機能が低下し、末梢から血液を十分に戻せなくなるため、下肢に血液や体液が滞留することによって起こります。
このようにして発生するのは両側性のむくみで、通常は両脚に現れます。片脚だけにむくみが出る場合は、血栓など他の原因の可能性も考慮する必要があります。
3. 排尿量の減少
心不全が進行すると腎機能が低下し、体内に液体が溜まりやすくなります。その結果、次のような変化が見られます:
- 排尿の回数が減少 — たとえば、1日に1〜2回しか排尿がない。
- むくみの悪化 — 液体の蓄積が進み、さらに足や体が腫れる。
- 心臓への負担の増加 — 余分な体液を循環させるために、心臓により大きな負荷がかかります。
食事で心臓を守る
リウ氏は、心臓の健康を守るために、以下のような食品を積極的に摂取することを推奨しています:
- ナッツ類:カシューナッツやアーモンドなど、揚げていない無塩のナッツは、不飽和脂肪酸やフラボノイド(抗酸化物質)が豊富で、心臓の健康促進に役立ちます。
- 濃い緑色の野菜:食物繊維や植物栄養素が豊富で、血液循環を助けます。特にビタミンE、K、Cは体に有益です。リウ氏は、サラダとして生で食べるか、栄養素を失わないように軽く茹でて食べることを勧めています。
- 果物:低糖質の果物は心臓に良いとされています。特にブルーベリーはフラボノイドが豊富で、ブドウにはポリフェノール系の抗酸化物質や食物繊維が含まれ、血圧を下げ、血中脂質を減らし、動脈硬化を防ぐ効果があります。
- 魚類:多価不飽和脂肪酸の良い供給源です。ランダム化比較試験では、オメガ3脂肪酸の摂取が、冠動脈疾患患者における心臓イベント(死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)を減少させ、動脈硬化の進行を遅らせることが示されています。調理法は低温で行い、揚げ物など不健康な脂肪を加える調理は避けるべきです。
運動:心臓の健康を守る重要な手段
身体活動は、心臓発作からの回復や心不全の管理において、効果が認められている治療法です。速歩、ジョギング、サイクリング、水泳などの有酸素運動は、血液循環を改善し、末梢血管をより弾力性のある状態にし、酸素と栄養素の供給を促進します。これにより、心臓の収縮・拡張がより効率的になり、心機能が強化されます。
また、腹筋運動、腕立て伏せ、ウェイトトレーニングなどのレジスタンストレーニングも、適切な指導と計画のもとで行えば、高血圧、糖尿病、代謝異常、特定の心疾患を持つ人々にも有益です。
リウ氏は、運動を始める前に主治医へ相談することを勧めており、特に心機能に不安のある人には、トレーナーやモニタリング機器を活用することが推奨されています。いずれの運動においても、「徐々に始め、安全を最優先に」が基本です。
心不全は、もはや高齢者だけの病気ではありません。リウ氏が診た10代の患者のように、初期のサインを見逃すと、心臓疾患は予期せぬ速さで進行することがあります。症状に敏感になり、健康的なライフスタイルを維持し、早期に適切な対応を取ることが、命を救う鍵となるかもしれません。
(翻訳編集 日比野真吾)
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