【漢方の世界】カルテ(十五)―舌で分かったトラウマ

【大紀元日本10月12日】「を巻く」「舌が回る」「舌鼓を打つ」など、舌にまつわる言葉は豊富だ。舌が我々にとって実に身近だからであろう。では、「舌を見て、(こころ)の病を言い当てた医者がいる」と聞いたらどうか。なんとも不思議な話だが、これは紛れもない事実なのである。

今回のカルテのテーマは、ずばり「舌」。主人公は、舌に真っ直ぐな裂け目があった。漢方医はこの裂け目を見た後、患者にこう告げた。「長年、心が晴れなかったことでしょう」

この診断に患者は驚きを隠せなかった。彼の両親は、彼が幼いころに離婚していたのだ。これがずっと彼のトラウマになっていた。「もうその心の重荷は捨てなさい」との医者のアドバイスを受け、ようやく彼の心は癒されたのである。

興味をそそられるのは、この漢方医が彼のトラウマを見抜いた点である。彼に尋ねたわけでもなく、彼のカルテを見たわけでもない。診断のカギはほかでもない、「舌」である。

漢方には、「五臓(肝心脾肺腎)の状態は、体表の器官に表れる」という言い方がある。つまり、

目が表すのは肝

舌が表すのは心(しん)

唇が表すのは脾

鼻が表すのは肺

耳が表すのは腎

この患者の場合は、舌に真っ直ぐの長い裂け目があった。漢方理論に照らせば、これは彼の心(しん)の裂け目を象徴している。漢方の心(しん)とは、心臓以外に気持ちも指す。つまり、彼の心には長い間、引き裂かれるようなつらい思いが存在していた。漢方医はこうして、彼のトラウマを見抜いたのである。

ところで、漢方の診断法については、こんな言葉が残っている。

「望(見て)分かれば神、聞(匂いや声)で分かれば聖、問(問診)で分かれば工、切(脈診)で分かれば巧」

これに従うと、先の舌を見て診断を下した漢方医は、最も優れた医者ということになる。

今ではレントゲンやCT など、体内を映し出せる先進機器が豊富になったが、昔は違う。人間の感覚器官だけが頼りだった。そんな中、患者の内臓の病気から精神の問題までを診断できたのである。これは恐らく、医術に長けているほかに、人としての徳、すなわち「医徳」を積んだ賜物(たまもの)かもしれない。「望(見て)分かれば神」、つまり偉大かつ尊敬される理想の医者が存在したのだろう。

詳しくは新唐人テレビ局の『漢方の世界』でご覧下さい。

(翻訳・河合)