<心の琴線> 小さな白いヒヤシンス

いつものように私は、娘を迎えに幼稚園に行った。

 若い女性の担任の先生が、少しためらってから、私が恥ずかしくなるようなことを話し出した。娘は、お遊戯では他の子よりテンポが遅れ、また食事の時はお腹が痛くなるまで食べて、それでもまだご飯のおかわりを求めてくる。皆が一緒に遊んでいる時も、娘は一人だけ離れてポツンとしているという。

 娘の発達が他の子供より遅れていることを、私は知っている。しかし、そのことを他人から言われるのはとても嫌だった。

 どうやら風邪を引いたらしい。頭がくらくらした状態で娘を連れて家に帰ってくると、力が抜け、そのままベッドに倒れ込んでしまった。そのあと、娘がドアを押して入ってきたのは気づいていた。私に何かを教えてほしいと言っているらしい。私は目を閉じたまま、娘に返事もしなかった。

 しばらくすると、ドアがまた甲高い音をたてた。心身ともに疲れきっていた私はついに爆発した。怒りにまかせ、娘を指差しながら、「出ていけ。おまえの顔なんか見たくもない」と怒鳴ってしまったのだ。

 娘は驚きのあまり、かたかたと震えながら私に聞いた。

 「ママ、もし自分の手を殺したら、私は死ぬの」

 娘が体の後ろに隠している左手には、大量の血と深い傷口が見えた。まさか娘は、自分を殺すところだったのか。私はよろめきながら、娘を連れて病院に向かった。娘は抱っこしてくれとも言わずに、黙々と私の後ろにくっついて歩いていた。 医者は私の不注意を責めた。その時、私の心の中には、発達の遅い娘をもったことを後悔する気持ちが、確実にあった。

 私は振り向いて、娘を見た。娘は点滴を受け、顔を横に向けてベッドに寝ていたが、まつげがぽろぽろと震えていた。

 私は娘を抱いて家に帰った。電話のベルが鳴る。娘の担任の先生からだった。すでに遅い時間になっていたが、どうしても今日中にこのことを伝えたかったと彼女は言った。

 娘と一番仲の良い友達が、自分のパパにこう話したという。

 「あの子が、あんなにたくさん食べようとするのは、早く大きくなってママのお手伝いがしたいからなんだよ。それから、ママはリンゴが好きだから、ママのためにリンゴの皮むきが上手になりたいんだって」

 そのパパから話を聞いたという担任の先生は、途中から涙声になって、私にそう伝えた。

 受話器を下ろした後、私はふと、テーブルのお皿に、すでに乾いてかさかさになったリンゴが一つあるのに気づいた。皮がうまく剥けずに、でこぼこしている。リンゴの表面には血痕が残っていて、その傍には果物ナイフが置かれていた。

 私の心は、痙攣を起したかのように激しく震えた。あの時、娘はリンゴの皮むきを教えてほしくて私の部屋に入ってきたのだ。娘が深い傷を負ったのは、ただ私のために、リンゴの皮をむきたかったからだ。

 私は娘の部屋に行った。娘は起きていて、しかも白いお姫様ドレスを着ていた。その左手には厚い包帯が巻かれていたが、静かに赤いカーペットの上に立っている姿は、まるで雪の妖精のようだった。

 私の目から涙がこぼれ落ちた。

 娘は、はにかみながら、「ママ、泣かないで。私、ママに踊ってあげるから。幼稚園で習ったばかりのヒヤシンスが咲いた、踊ってあげる」と言った。

 踊り終わった小さな白いヒヤシンスを、私はひざをつき、折れるほど抱きしめた。
 

 (翻訳編集・李暁清)