「老化という病気」将来は治療可能になる?

多くの人は、老化は自然の現象であり、避けられないものであると考えています。

しかし、遺伝子学の研究者デビッド・シンクレア氏は、自身の20年以上にわたる研究に基づき、「将来は老化を逆転させることも可能」とした上で、現在の人々も、いくつかの良い生活習慣を身につければ、もっと長い人生を、より健康的に過ごせると指摘しました。

老化は「CDについた傷」

シンクレア氏によると、現在も試験が行われている「抗老化薬」は、今後まもなく使用される可能性があるといいます。

「私たちは、老化に対して、治療可能な疾患として捉え、視点を大きく変えなければなりません。そうしてこそ、人間は寿命を大幅に伸ばすことができるのです」

そう述べるシンクレア氏は、人間がなぜ老化するのかを専門とするハーバード大学研究室の責任者を務めています。

シンクレア氏は英BBCのインタビューで、科学者の研究により「老化の9つの原因」が突き止められたと述べました。

そのうちの1つが遺伝子の暗号。もう1つはエピゲノムで、これはどの遺伝子をオンとオフにするかを制御する細胞内のシステムです。

そのシステムとは、細胞内の2万個の遺伝子のオンとオフを切り替えて、それが「誰」であるかを教え、どのように機能すべきかを伝えることにあるといいます。

しかし年月が経つにつれ、CDディスクに傷がついたかのように、エピゲノムは情報を失い始めるのです。これにより、細胞は正しい遺伝子を、正しいタイミングで開く能力を失っていくのです。

「だから私たちは、年をとったと認識します。しかし、エピゲノムは変えることができるのです」と言うシンクレア氏。

同氏が説く、老化防止への概要は以下の通りです。

私たちのライフスタイルは、CDの傷のように寿命に大きな影響を与えています。
そこで、正しい生活様式をもつことによって、肉体の老化速度を大幅に減速させることができます。

今では、血液と唾液の検査で、この「老化時計」を測定できるようになりました。

あなたの将来の健康の80%以上は、あなたのDNAではなく、「あなたがどう生きるか」というライフスタイルにかかっているのです。

元気な高齢者を観察した結果、「地中海食」と呼ばれる地中海地方の食文化は、非常に良い結果を生むことが分かりました。カロリー摂取量を減らし、いつも食べ続けるなどはしません。適度な運動も、もちろん役に立ちます。

こうした生活習慣が健康維持に効果的なのは、病気や加齢に対して、体がもつ自然な防御力や免疫力が高まるからです。

「抗老化薬」の開発を目指して

老化は多くの疾病の根源です。心臓病、アルツハイマー型認知症糖尿病の主要な原因でもあります。

「老化は病気」とするシンクレア氏は、日本の山中伸弥教授の研究成果による山中因子(Yamanaka factors)を引用して、次のように言います。

「CDディスクの傷を修復するのと同じように、エピゲノムを修正する方法を模索しています。山中因子と呼ばれる3つの遺伝子が、細胞のアイデンティティを失うことなく、安全に老化を逆転させられることを発見しました」

シンクレア氏によると、動物実験において、老化を遅らせて動物の寿命を延ばすと期待されている分子がいくつか発見されており、これは今後、ヒトの研究でも有望だと言います。

「私たちは、体のすべての部位を、もっと長く健康に保つ方法が必要です。これが、私が探し求めている方法なのです」

(翻訳編集・鳥飼聡)