「体の器官が砂糖水に浸かる」糖尿病を軽く見ずに、予防しましょう

喉の渇き、多飲、多尿といった糖尿病の典型的な症状については、その患者数が非常に多いこともあって、ある程度の認知度はあると言えます。

多くなる糖尿病の「非典型」症状

ところが近年はそれ以外の症状、言わば「糖尿病の非典型的な症状」も多くなっており、早い段階で病名が判明しにくくなっているのです。

そのため一部の人は、合併症が起きるまで自分が糖尿病だったことに気づきません。

いずれにしても糖尿病が重篤になった場合、その合併症によって死に至るケースもあるため、十分な注意が必要です。

世界保健機関(WHO)2021年の報告によると、全世界では17人に1人が糖尿病を患っているといいます。

よく知られているように糖尿病には1型と2型、2つのタイプがあります。

患者全体の約10%を占める1型糖尿病は、遺伝的要因によるものが多く、患者は生涯インスリン注射を続ける必要があります。

一方、2型糖尿病の多くは後天的要因によるもので、主として肥満や過食などの不摂生な生活習慣によって引き起こされます。2型糖尿病は患者の90%以上を占めますが、食事療法や運動療法によって、ある程度の改善は可能です。

カナダ公立学院漢方医学教授・劉新生氏は、「糖分、塩分、油分の多い食事に加えて、ストレスや夜更かし、喫煙や過度の飲酒など不健康な生活習慣は、インスリンを分泌する膵臓を疲弊させて、2型糖尿病の原因になる」と指摘します。

糖尿病患者にみられる典型的な症状といえば、「喉が乾いて大量の水を飲む」「尿量が多くなる」「食べているのに急激に痩せる」です。

しかし現在では、それらと異なる「非典型的な症状」を呈する患者が増えています。例えば、以下のような症状です。

「いつも疲れているようで、疲労感が続く」「十分寝ても、睡眠が足りないように感じてしまい、なかなか起床できない」「目がかすむ」「手足に痺れがある」「傷が治りにくい」等々。

新光病院内分泌科の医師・江宜倫氏は、「多くの人が糖尿病にかかると、脳卒中心筋梗塞のリスクが高くなります。そのほか、かすみ目、傷がなかなか治癒しない、各種の病気に罹りやすいなど体の異常が現れます。これらは、実は糖尿病の合併症なのです」と言います。
 

かすみ目のために、自身が糖尿病であることに気づく人もいます。(Shutterstock)

器官が「砂糖水に浸かる」

江宜倫氏はまた「糖尿病とは、体内の臓器や器官が砂糖水に浸かることです」と話した上で、その影響は全身に及ぶと言います。

劉新生氏も同じく、「糖尿病により、長期間にわたって高濃度の糖に触れた血管は硬化および老化を加速させる」と述べます。

劉氏はその理由を「微小循環が障害されるため」と説明します。
微小循環とは、組織細胞に対して酸素と栄養を直接供給する血液のはたらきです。その微小循環に障害が及ぶと神経や臓器が損傷を受け、各種の合併症を引き起こします。

また糖尿病の合併症には慢性のものと急性のものがありますが、これらの疾患はしばしば不可逆的(つまり回復困難)であり、場合によっては直接死に至ることもあります。

1、慢性合併症
脳、心臓、脚部の動脈が硬化することにより、脳卒中、心筋梗塞、末梢血管の閉塞を引き起こします。

脚部への血液供給が阻害されると、間欠性跛行、感覚異常のほか、傷の治癒が遅くなります。また細菌感染しやすくなることで化膿をまねき、最悪の場合は足の切断にも至ります。

腎臓にも毛細血管がたくさんあり、それらの血管が硬化および老化すると、すぐに腎機能不全になり、タンパク尿や血圧上昇、さらには慢性腎不全が起こります。そうなると、尿毒症を回避するため、生涯にわたって人工透析が必要となります。

眼の疾患としては、白内障、網膜症、黄斑浮腫、緑内障などがよくみられ、最悪の場合は失明に至ります。実際、糖尿病は成人の失明の主な原因になっています。

糖尿病は、神経にも障害をもたらします。

自律神経または末梢神経の損傷により、動悸、腹部膨満、便秘または下痢、排尿困難または失禁、立ちくらみ、性機能障害、手および足のしびれやチクチク感、感覚の麻痺などが生じます。

また、皮膚の微小循環が悪くなると、皮膚が正常な免疫機能を維持できなくなることもあります。その場合、ウイルスや細菌が鼻孔や口腔の粘膜、眼の結膜を容易に突破しますので、感染症を起こしやすくなります。
 

糖尿病による慢性の合併症としては、腎疾患、眼の疾患、神経障害、動脈硬化などがよくみられます。(Shutterstock)

2、急性合併症
糖尿病による急性症としては、高浸透圧高血糖症候群があります。これは、急激な血糖値の上昇によって意識を失い、昏倒するものです。

同じく急性症である糖尿病ケトアシドーシスは、インスリン不足によって血糖値が十分に下がらない場合に起こります。

その場合、体は脂肪を分解してエネルギーを得ようとしますが、脂肪の分解によってケトン体が大量に産生され、血液が酸性になることで、高度の脱水状態になって意識を失うのです。

糖尿病の最も恐ろしいのは、これらの合併症です。

とにかく糖尿病は、生活習慣の改善によって予防に努め(2型の場合)ましょう。
それでも罹患してしまったときには、専門医の指導に従い、糖尿病を重症化させないように自己管理を心がけることが肝要です。

(文・蘇冠米/翻訳編集・鳥飼聡)