交通事故の余波

ウィリーは、誰とでも仲良くなれるタイプでした。 学生時代には大学の奨学金を受けており、誰もが彼の明るい未来を想像していました。しかし、手すりに衝突して車のダッシュボードに頭をぶつける交通事故に遭い、しばらく気が遠くなりましたが、翌日には元気になったようです。ところが、今度は 犬を避けようとしてハンドルを切り、フロントガラスに頭を強打したのです。

診察の結果、医師に「軽い脳震盪だから心配ない」と言われたものの、それから数か月後、ウィリーはこの軽い脳震盪が彼の人生に大打撃を与えていることに気づきました。 もともとはとてもフレンドリーだったウィリーは、些細なことで突然自分をコントロールできなくなり、態度や姿勢が一変しました。 忍耐強かったはずのウィリーは短気になりました。 愛想がよく穏やかだったはずの彼は、いつも怒っていました。

彼の怒りは大学のルームメイトに向けられ、食べ物を中心に奇妙なことがおこりはじめました。 不可解なことに、ウィリーの食欲は変化し、3か月で32キロも太ってしまいました。彼はいつも空腹を感じ、家にある食べ物のかけらでもガツガツ食べたくなりました。

ウィリーのルームメイトが、ウィリーが家中の食べ物を食べることにうんざりして、自分が支払った分だけを食べるように要求したとき、彼はルームメイトが自分の食べたいものを奪って自分を傷つけようとしているのだと感じたのです。

ウィリーは、この人は「自分の口から食べ物を奪おうとしている」という否定的で被害妄想的な考えでいっぱいになりました。 彼の頭の中には、敵から身を守る唯一の方法は、敵を攻撃することにあるという考えでいっぱいになったのです。 ある日の午後、彼は大きな包丁と肉切り包丁を持って玄関に立ち、かつて友人だった男を待ち伏せました。 

「私はすぐに彼を破滅させることができただろう！」

 ウィリーは、後で振り返ってそう述べています。

パラノイアに深く脅かされていたとはいえ、ウィリーの内心の一部はまだ正気であり、まるで高いところから見下ろしているようで、ドアの向こうに武器を手にした自分が立っているのが見えました！ 彼は自分が制御不能に陥っていることを知り、大きな過ちを犯す前に自分を止めなければなりませんでした。 彼は電話を取り、私の番号を教えてくれた友人に電話し、間一髪で危機をくい止めたのでした。

ウィリーは2度の事故と突然の性格の変化を私に話し、私はすぐに彼に脳検査を受けるよう手配しました。 ひとつは左の側頭葉で、パラノイアや暴力がよく起こる領域です。 

もうひとつは、前頭葉の上部中葉（帯状回）に見られたもので、この部位は、人がある物事から別の物事へと自由に注意を移すことができるように機能する脳の一部であり、この部位が過活動になると、その人の心はレールから外れて袋小路にはまり込んでしまいます。 ウィリーの脳検査の結果を見てすぐに、なぜ彼がこのような性格の変化を起こしたのか理解できました。脳のダメージが原因で、パラノイア、短気、ルームメイトに対して抱いていた否定的な考えを覆すことができなかったことが分かったのです。

側頭葉の異常に対する抗てんかん薬と、否定的なことばかり考えないようにするための軽い抗うつ薬を処方しました。 数週間の治療の後、ウィリーは以前のユーモアを取り戻し、友人や家族と再び交流するようになりました。 この本を書いている今、2度の交通事故から6年経った今も、ウィリーは外傷性脳障害の治療のために薬物療法を続けていますが、これまでに会った人の中で最も友好的な人の一人です。

（つづく）