地球は神々の思い出から造られた、あこがれの星です。それが驚きに満ちた不思議な家であったとしても、悲惨と希望と無関心を混載して銀河の中を、ドラマティックに天走しています。軋むような明るい哀しみの音を奏でて、宇宙のトワイライトを演出するのが、地球の美しい役割なのだといいます。
神々の思い出と、あこがれのあわいに架橋された麗しのディスタンスを、人類は駆け抜けています。お互いの思いが遠ざかる風景を男女が一つにする恋学は、思い出とあこがれを溶かしあうように、一挙に炎上する事がありうるのです。この世で叶わなくとも、あの世という宇宙のマジックが働くところで、添い遂げる恋を生きようとします。モノ哀しくも美しい『安珍と清姫の物語』も、その一つです。
少女・清姫は、修行僧・安珍に懸想します。安珍は修行の身であり、清姫の片思いを叶えることは出来ません。ところが安珍は清姫の一途に負けて、熊野詣での帰りに立ち寄ることを約束します。ここから運命の歯車は、軋みを立てて発動します。安珍は約束を違えたからです。清姫の一途の恋は怨念の蛇体となって、どこまでも安珍を追走します。
吐かれた言葉はたとえ嘘であっても、運命の落着を求めずには置かないのです。修行僧の言葉であるなら、なおさらのことです。安珍は梵鐘の中に逃げ隠れました。清姫の想念は紅蓮の炎となって鐘に巻きついて焼き尽くし、安珍もろとも自身の恋に決着を付けたのです。
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