あなたが着ているシャツ、足元のカーペット、そして昨晩のテイクアウト容器には、驚くべき共通点があります。それは、これらが分解されて目に見えない微粒子となり、エベレストの頂上から私たちの血流に至るまで、地球上のあらゆる場所に広がっているという点です。
これらの微小なプラスチック片は、目に見えないものから鉛筆の消しゴムほどの大きさまで様々で、人間の体内に静かに侵入しています。その影響について科学者たちはようやく理解し始めていますが、初期の研究結果は不安を掻き立てるものです。2023年9月に発表された科学レビューは、そのリスクが予想以上に深刻であることを示唆しています。
「マイクロプラスチックは環境に残留しやすく、有害な化学物質を運ぶ可能性があるため、健康に重大なリスクをもたらします」と、毒性学の専門家でMDLifespanの創設者兼最高経営責任者(CEO)であるポール・サベージ博士は述べています。
さらに、博士はこう警告します。「人は食品を通じて、毎週クレジットカード1枚分の重さに相当するプラスチックを摂取している可能性があります。この粒子はさらに分解され、ナノプラスチックという極小サイズになり、細胞のDNAに干渉することで遺伝的損傷や慢性的な健康問題を引き起こす恐れがあります」
毎年、1千万~4千万トンものマイクロプラスチックが環境に放出されています。このペースが続けば、2040年までにその量は倍増すると予測されています。
たとえ今日すべての新たな放出を止めたとしても、過去に生じたプラスチックがさらに細かく分解され続けるため、既存のマイクロプラスチックの量は増え続けるでしょう。
「Science」誌に掲載されたレビューでは、マイクロプラスチックという用語が初めて使われてから20年が経った現在の汚染状況が詳細にまとめられています。その中で、週あたりのプラスチック摂取量が最大で5グラム(クレジットカード1枚分)という推定値について、過大評価である可能性が指摘されています。
マイクロプラスチックが私たちの体に入る仕組み
マイクロプラスチックとは、5ミリ以下の大きさの固体プラスチック粒子のことです。これらは生態系に浸透し、私たちの食べ物や水を汚染し、最終的に体内に取り込まれます。
マイクロプラスチックの主な発生源は、大型プラスチックの分解ですが、その他にもリサイクルプロセス、衣類、タイヤ、塗料、家具、カーペットなど、さまざまな製品から放出されます。
「衣類がプラスチックでできていることを知らない人は意外と多いです」と、地球環境保護を推進する組織Earth.orgのアソシエイトディレクター、エイデン・チャロン氏はエポックタイムズに語ります。
「ファストファッションの多くは、ポリエステル、ナイロン、スパンデックスといったプラスチック素材で作られています」と彼は説明します。ファストファッションとは、大量生産・低価格で販売される衣類を指します。
「さらに驚きかもしれませんが、カーペット、カーテン、寝具などもプラスチック繊維で作られていることが多いのです」とチャロン氏は続けます。これらの素材はマイクロプラスチックや有害な化学物質を空気中に放出し、私たちが吸い込む空気に混ざります。特に洗濯時には、繊維が直接空気中や水中に放出されるため、マイクロプラスチックの大きな発生源となっています。
ある研究によれば、室内のマイクロプラスチックの90%以上が、ポリエステルやプラスチック由来の人工繊維で構成されています。
マイクロプラスチックは以下の経路で体内に侵入します:
- 吸入:呼吸を通じて空気中のマイクロプラスチックが体内に入ります。
- 皮膚吸収:皮膚との接触を通じて体内に吸収される可能性があります。
- 経口摂取:食品や飲料を通じてマイクロプラスチックが体内に取り込まれます。例として、ミルク、ソフトドリンク、缶詰食品、砂糖、塩などがあります。また、エビや魚などを通じても摂取することがあります。乳幼児は、母乳や粉ミルクを通じてマイクロプラスチックにさらされるリスクが指摘されています。
人体に侵入したマイクロプラスチック
研究によると、マイクロプラスチックは人体のさまざまな部位で検出されています。以下はその具体例です。
血管:マイクロプラスチックは頸動脈プラークや脚の静脈組織から検出されています。これにより、血管内での存在が明らかになりました。
脳:マイクロプラスチックは鼻腔を経由して血液脳関門を回避し、脳に到達する可能性があります。2024年の研究では、脳内のマイクロプラスチック濃度が肝臓や腎臓よりも高いことが示されました。
血液:健康なボランティア22人の血液を調べた研究では、6マイクログラム/ミリリットルの濃度で4種類のプラスチックが検出されました。特に汎用性の高いポリエチレンが多く含まれていました。このポリエチレンは衣類、家具、日用品に広く使用されている素材です。なお、血液中のマイクロプラスチックに関する基準値はまだ確立されていません。参考までに、子供における鉛の危険基準値は3.5マイクログラム/デシリットルとされています(1デシリットルは100ミリリットル)。
唾液:呼吸器疾患を持つ患者の唾液から、21種類のマイクロプラスチックが検出されました。
肺:13人中11人の肺全域でマイクロプラスチックが検出されています。特にポリプロピレンやポリエチレンテレフタレート(PET)が多く見られ、喫煙者ではより高い濃度が確認されました。
糞便:糞便からは10種類のプラスチックが検出されました。特に乳児はリスクが高く、乳児の糞便中のプラスチック量は成人の10倍に達しています。この差は、乳児がハイハイしたり、布地を噛んだり、物を口に入れることでプラスチックにさらされる頻度が高いことによるものです。さらに、新生児の初糞(胎便)からもマイクロプラスチックが検出されています。
胎盤:胎盤の一部にもマイクロプラスチックが含まれており、胎盤のバリアを通過して胎児に影響を及ぼす可能性が示唆されています。
肝臓:肝硬変を持つ人の肝臓組織からは、病気のない人に比べて高い濃度のマイクロプラスチックが検出されています。
結腸:手術で切除された結腸部分からもマイクロプラスチックが見つかっており、消化管内に留まる可能性が指摘されています。
マイクロプラスチックが体内に蓄積する証拠は増えていますが、その健康への影響に関する研究はまだ限られています。
マイクロプラスチックの健康への影響
マイクロプラスチックは体にとって異物であるため、免疫系が反応します。しかし、ウイルスや細菌のように効果的に排除することはできず、体内に留まり続けます。この慢性的な存在が酸化ストレスや炎症を引き起こし、DNA損傷、アレルギー反応、細胞死、さらには癌といったさまざまな健康問題を引き起こす可能性があります。
さらに、マイクロプラスチックには、ホルモンの正常な働きや代謝プロセスを妨げる化学物質が含まれています。これらの有害物質は、マイクロプラスチックから漏れ出し、皮膚吸収や摂取を通じて体内に入り込むことがあります。
「マイクロプラスチックは、ウイルスや細菌を運ぶベクター(媒介物)としても機能し、それらが私たちの体に侵入する原因になります」と、Earth.orgのアソシエイトディレクターであるエイデン・チャロン氏は述べています。
マイクロプラスチックへの曝露は、さまざまな病気のリスク増加と関連付けられています。例えば、唾液サンプルの研究によると、曝露により咳、息切れ、喘鳴(ゼーゼー音)を特徴とする肺疾患や、より重度の炎症性腸疾患のリスクが高まる可能性が示唆されています。また、動脈硬化プラーク(動脈に蓄積する脂肪の沈着物)にプラスチックが含まれる場合、心臓発作、脳卒中、死亡の可能性が高まります。
健康リスクに関する証拠が増えているにもかかわらず、現時点ではマイクロプラスチックのリスク評価や人間の曝露レベルを測定する方法が確立されていません。
「主な障壁は、飲料水やその他の消耗品でのマイクロプラスチック放出を標準化してテストする方法が不足していることです」と、毒性専門家のポール・サベージ博士は述べています。こうしたテストを確立するには、より包括的な研究と標準化されたプロトコルが必要であり、これによって曝露レベルや健康への影響を評価できるようになるとしています。さらに、マイクロプラスチックの大きさや成分の多様性が、生体サンプル中での測定を困難にしています。
「より高度な検出方法が確立されれば、研究者はマイクロプラスチックが人体に与える影響をより深く理解できるようになり、包括的な研究や効果的な介入策を進められるでしょう」と彼は述べています。
マイクロプラスチック曝露を減らす方法
プラスチックを生活から完全に排除するのは現実的ではありませんが、曝露を減らすためにできる具体的な対策があります。
「最も有害な毒素の90%はすでにほとんどの家庭に存在しています。食品の選択や家庭用品の選定を意識することで、曝露を大幅に減らすことができます」と、毒性専門家のポール・サベージ博士は述べています。
Earth.orgのエイデン・チャロン氏は次のように提案します。「まず、家の中でプラスチックの使用状況を調べ、どのようなプラスチックを日々使用しているかを記録することが大切です。どこで最も多くプラスチックを使っているかを把握しなければ、改善は不可能です。」
使い捨てプラスチックを避けることに加えて、以下のことが推奨されています:
- ポリエステル生地を避け、綿、ウール、リネン、天然繊維の衣類を選ぶ
- 再生プラスチック製品(特に水着など)は避ける。これらは新素材のプラスチックよりも多くの微粒子を放出します。
- 子供やペットにプラスチック製のおもちゃを与えない
- 根菜類よりも、より安全性が高い緑色野菜を選ぶ
- 最も重要なのは、プラスチック使用を削減する法律を支援すること。チャロン氏は「タバコやビニール袋の禁止は、環境廃棄物の削減に非常に効果的です」と述べています。
マイクロプラスチック汚染への対策は国際的にも進展しています。2022年3月、国連環境総会は、海洋プラスチックを含むプラスチック汚染に対処するための法的拘束力のある条約を策定することを決定しました。この条約は2024年末までに最終化される予定で、締約国に国際法に基づく具体的な行動を求め、不遵守には罰則が科される計画です。これはプラスチック廃棄物に対する国際的協力への重要な一歩です。
欧州連合(EU)は、加盟国全体でプラスチック廃棄物を削減し、リサイクルを促進する戦略を採用しています。同様に、アメリカ、カナダ、イギリスでは、化粧品に含まれるマイクロビーズを禁止する法律が制定され、マイクロプラスチックの主要な発生源への対策が講じられています。
(翻訳編集 華山律)
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