植物性食品でコレステロールが急上昇することも?

ハーバード大学の医学生ニック・ノーウィッツさんは、肉を中心としたケトジェニック(低炭水化物・高脂肪)ダイエットから、ヴィーガン版のケトジェニックダイエットに切り替えました。その結果、たった1週間で「悪玉」コレステロールと呼ばれる低密度リポタンパク(LDL)コレステロールが14%も急上昇したそうです。同じように、研究仲間のデイブ・フェルドマンさんも、ピザやキャンディばかり食べていた以前の食事からヴィーガンケトジェニックダイエットに変えたところ、LDL値がなんと2倍以上に増えたといいます。

これらの事例は、「植物性食品はコレステロール値を必ず下げる」という一般的なイメージに疑問を投げかける内容です。ノーウィッツさんとフェルドマンさんは、自分たちの体験をもとに、「すべての人に同じ食事法を押し付けるのではなく、それぞれの代謝や遺伝的特徴、ライフスタイルに合わせた個別の栄養指導が必要だ」と主張しています。

植物性ダイエットでコレステロールが下がらないことも?

ハーバード大学の医学生、ニック・ノーウィッツさんは最近、「n=1」という個人実験を行いました。これは、自分の体がヴィーガン・ケトジェニックダイエットにどのように反応するかを観察するもので、普段の食事で摂っていた牛肉、卵、バターを、豆腐や芽キャベツ、ゴマ油といった植物性食品に置き換えました。

一般的なヴィーガンダイエットは穀物や豆類に含まれる炭水化物が多いのが特徴ですが、ヴィーガン・ケトジェニックダイエットでは炭水化物を極力抑え、ケトーシスという状態を維持します。この状態では体がエネルギー源として糖ではなく脂肪を燃やすため、ナッツや種子、オイルなどの高脂肪・低炭水化物食品が中心となります。

「ヴィーガン・ケトジェニックダイエットでは、脂肪の量も飽和脂肪酸も減らし、食物繊維は増やしたし、コレステロールはゼロだったはず。それなのに、私のLDLコレステロールはむしろ上がりました」とノーウィッツさんはエポックタイムズに話しました。

この結果は予想通りだったそうです。ノーウィッツさんと研究仲間のデイブ・フェルドマンさんのような「代謝プロファイル」を持つ人々では、このような反応がよく見られるからです。ノーウィッツさんは、自分が「リーンマス・ハイパーレスポンダー(LMHR)」に該当すると考えています。LMHRは、痩せ型の人で、低炭水化物・高脂肪の食事をするとLDLコレステロールが大きく上昇します。ただし、同時に「善玉」コレステロールであるHDLが高く、トリグリセリド(中性脂肪)が低いのが特徴です。このような人の場合、LDLの上昇は飽和脂肪の摂取量ではなく、炭水化物を減らしたことが引き金になっていると考えられます。

フェルドマンさんの結果はさらに顕著でした。ヴィーガン・ケトジェニックダイエットを始めたたった1週間で、彼のLDLコレステロールは97 mg/dLから215 mg/dLに急上昇しました。ちなみに、アメリカ心臓協会(AHA)によれば、理想的なLDLコレステロール値は100 mg/dL以下とされています。

デイブ・フェルドマンがビーガン・ケト・ダイエットを始める前にハンバーガーを食べている。(写真提供:デイブ・フェルドマン)
デイブ・フェルドマンさんがヴィーガン・ケト・ダイエットを始める前にハンバーガーを食べている(デイブ・フェルドマン提供)

実はフェルドマンさんが以前とっていた「ジャンクフード中心のアメリカ標準食(SAD)」は、単なる偶然ではなく、彼自身の仮説を検証するために意図的に採用したものでした。彼の「脂質エネルギーモデル」という仮説では、コレステロール値は体のエネルギー需要や脂肪の動員に応じて変動するとされています。

SAD食で低いLDL値を基準値として設定した後、ヴィーガン・ケトジェニックダイエットに移行し、炭水化物を減らすことでLDLがどう変化するかを観察した結果、LDLが急上昇し、仮説が正しいことが示されました。

ノーウィッツさんもフェルドマンさんも、コレステロール値の上昇を代謝の変化によるものだと考えています。ノーウィッツさんは、ヴィーガン・ケトジェニックダイエットでカロリーが減り体重が落ちたことが原因で、体が血中に脂肪を放出したと説明しています。

一方でフェルドマンさんは、炭水化物を減らすことでLDLが上がり、逆に炭水化物が多い食事(全粒食品でもジャンクフードでも)ではコレステロールが安定していたと話しています。これにより、食事内容とコレステロール値の関係に関する従来の常識が再検討されるべきだと主張しています。

 

コレステロールと食事の常識を見直す

これらの観察結果は、「植物性食品は誰にとっても心臓に良い」という一般的なイメージを見直すきっかけとなります。ノーウィッツさんとフェルドマンさんが見せたユニークな代謝反応は、食事ガイドラインが万人に当てはまるわけではなく、個々の体質や反応が大きく異なることを示唆しています。

2023年に発表された「European Heart Journal」のレビューでは、ベジタリアンやヴィーガンの食事が一般的にLDLコレステロールや心臓病の指標を下げるとされていますが、ノーウィッツさんとフェルドマンさんの経験は、栄養学がいかに複雑で個別性が高いかを物語っています。

ノーウィッツさんは、画一的な食事ガイドラインには深みがないと批判します。「人々には『バランスの取れた食事』といった、聞こえは良いけど中身が伴わない言葉が押し付けられているだけなんです」と彼は述べ、こうした一律の推奨が個々の体の違いを無視していると指摘しました。

予防心臓病専門医であるブレット・シェア博士(Metabolic Mindのディレクター)も、硬直した食事の枠組みが個人差を無視していると同意します。「私たちは『良い食べ物』と『悪い食べ物』が誰にでも当てはまるものだと信じ込まされていますが、こうした考え方は、全員が同じように反応するわけではないという事実を完全に無視しています」と彼はエポックタイムズへのメールで語っています。

シェア博士によると、特に低炭水化物やケトジェニック療法の分野において、食事の常識は栄養学の複雑さを過度に単純化しがちだといいます。「食事の常識では『健康になるには良いものを食べればいい』とされがちですが、これはケトジェニック療法が引き起こす代謝の劇的な変化や脳のエネルギー変化を見落としています」と指摘しました。

さらに、フェルドマンさんとノーウィッツさんの実験結果は、LDLコレステロールを心臓の健康を示す唯一の指標とする考え方にも疑問を投げかけています。LDLは一般的に「悪玉」とされていますが、フェルドマンさんは、たとえLDLが上昇しても低炭水化物食では心臓や全体の健康状態を示す他の指標が改善することが多いと指摘します。

「健康は一つの数字だけで判断できるものではありません」とフェルドマンさんは語ります。「どんな食事の効果を評価するにしても、もっと広い視点で見る必要があります」

 

科学をもっと身近に

ノーウィッツさんとフェルドマンさんにとって、SNSは食事に関する古い固定観念を覆し、主流の栄養アドバイスを見直すきっかけを作るためのツールです。自分たちの「n=1」個人実験をSNSでシェアすることで、普段は見過ごされがちな科学的な疑問に注目を集めています。

「こうした個人実験を通じて、既存の研究に目を向けさせたり、新しい研究の資金が集まるような関心を引き出すことができるんです」とノーウィッツさんは言います。「大事なのはすべての答えを持つことではなく、もっと良い問いを投げかけること。そして、人々が自分の健康について深く考えるきっかけを作ることです」

彼らの独自のアプローチは、科学をもっと身近に感じてもらい、主流の意見をただ受け入れるだけでなく、自分で疑問を持つことの大切さを伝えています。「ハーバード大学の医学生で、オックスフォード大学の博士号を持つという経歴が、人々の好奇心を刺激し、科学者のような考え方をするきっかけになれるなら、それを活かしたいと思っています」とノーウィッツさんは語っています。

 

あなたに合った健康法を見つける新しい時代へ

ノーウィッツさんとフェルドマンさんは、自分たちの活動を通じて「個別化された栄養学」の新しい時代を切り開きたいと考えています。彼らが目指しているのは、人々が健康に関するアドバイスをただ受け取るだけではなく、自分自身の体を知り、科学的な探求に積極的に関わることです。

例えば、自分の健康データを記録する(コレステロール値や特定の食事への体の反応など)ことで、「万人向け」のアドバイスに頼らず、自分にとって本当に効果的な健康法を見つけることができるようになります。

「私たちの実験結果がすべての人に当てはまるわけではありません」とノーウィッツさんは言います。「でも、この活動が『自分にとって健康とは何だろう?』と考えるきっかけになれば、それだけで意味があると思っています」

(翻訳編集 華山律)

10年にわたる執筆キャリアを持つベテラン看護師。ミドルべリー大学とジョンズ・ホプキンス大学を卒業。専門知識を取り入れたインパクトのある記事を執筆している。バーモント州在住。3人の子を持つ親でもある。