迷走神経は、私たちが意識しないうちに体の重要な働きを調整し、スムーズに機能させています。
この神経は、脳や心臓、肺、腸、膵臓などの主要な臓器とつながっており、それぞれの健康を支えながら、さまざまな問題に対応できるよう備えています。その影響は、短期的なものから長期的なものまで広がります。
迷走神経の役割を理解し、適切に刺激する方法を知ることで、心身の落ち着きや回復力を高め、より健康的な生活を送ることができます。
迷走神経が臓器に与える影響
迷走神経は脳から伸び、体のさまざまな臓器へと枝分かれしながら広がっています。
この神経は副交感神経系の一部であり、主な役割は体をリラックスさせ、バランスを整えることです。統合医療の専門家であるプリヤル・モディ医師は『エポックタイムズ』の取材に対し、「迷走神経が臓器を刺激すると、副交感神経の働き、つまり『休息と消化』の反応が活性化されます」と説明しています。

・脳
迷走神経を刺激すると、うつ病や不安症状が緩和され、ストレスへの耐性が高まります。これは、迷走神経が気分を調整する脳の領域とつながっているためです。迷走神経の活性化はドーパミンの分泌を促進します。また、セロトニンやその前駆体である5-ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)のレベルが上昇し、情緒の安定や社会的機能の向上など、生活の質(QOL)の改善につながります。
さらに、迷走神経が健康であることは、鋭敏な認知機能や創造的な思考力にも関連していると、モディ氏は述べています。
・心臓と肺
迷走神経は心拍数と呼吸を安定させ、全身の組織に十分な酸素を供給する役割を担います。
『Seminars in Cell & Developmental Biology』に掲載されたレビューによると、迷走神経は「心臓と脳をつなぐ主要な通路」です。心臓や血管に特殊な感覚終末を形成し、血圧や心拍リズムなど、心血管系の環境を感知して調整します。
また、迷走神経は肺から脳への感覚情報を送る主要なメッセンジャーでもあります。気道の筋肉を収縮・弛緩させ、呼吸の速さや深さを調整します。さらに、気道の損傷や閉塞といった危険を感知すると、嚥下や咳などの防御反応を引き起こし、気道を守ります。
・腸と膵臓
迷走神経はエネルギーの利用、消化、食欲を調整します。
消化管の蠕動運動を促進し、食べ物の分解を助けます。また、空腹感や満腹感を脳に伝えることで、食欲のコントロールを行います。
このシステムは、体が求める栄養素に基づいて、特定の味や食感の好みに影響を与えることもあります。さらに、水分や塩分など体に必要なものを感知し、食物アレルゲンや毒素などの危険も察知します。
加えて、迷走神経はインスリンの分泌を調節し、血糖値や糖分の貯蔵をコントロールします。
・免疫システム
迷走神経を刺激すると、炎症が抑えられ、免疫システムが健康に保たれます。
オーストラリアの自然療法医であり「Revital Health」の創設者であるジョディ・デュバル氏は、「迷走神経の抗炎症シグナルは、慢性疾患に関連することが多い全身性炎症を軽減する」と『エポックタイムズ』に語りました。
迷走神経の健康状態をチェックする方法
モディ医師によると、迷走神経の働き(ヴァーガルトーン)は、その健康状態を反映する指標となります。
ヴァーガルトーンを測定する最も一般的で手軽な方法は心拍変動(HRV)を調べることです。これは、心拍と心拍の間隔の変化を追跡するもので、呼吸や自律神経系からの信号に応じて自然に変動します。
心拍変動(HRV)は、呼吸や自律神経系からの信号に反応して自然に変化します。一般的に、HRVが高いほど迷走神経の働き(ヴァーガルトーン)が強く、迷走神経が正常に機能していることを示します。モディ医師は、「HRVが高いと、体が生理的・環境的な変化に柔軟に対応できるようになります」と説明しています。さらに、HRVはフィットネストラッカー、スマートウォッチ、または心電図(ECG)を使って測定できると述べています。
今後の展望
迷走神経の状態は、精神疾患からアルツハイマー病まで、さまざまな健康問題と関係しています。
迷走神経の機能を高める方法には、機械的な刺激(迷走神経刺激装置を使用するもの)や、自然な刺激方法など、いくつかのアプローチがあります。
例えば呼吸は、迷走神経を自然に刺激する代表的な方法の一つです。なぜなら、呼吸は自律神経の中で唯一、無意識にも意識的にもコントロールできる機能であり、自分の意思で迷走神経に働きかける手段となるからです。
ただし、人によって効果的な療法は異なるため、治療法はその人のニーズや利用可能な手段に応じて調整する必要があります。それでも、迷走神経を刺激することは誰にでも試すことができると、教育心理学者のリダライズ・グロブラー氏は述べています。
「私自身の臨床現場でも、迷走神経の刺激を最も重視しています。なぜなら、現代社会では多くの人が常に『戦うか逃げるか(闘争・逃走反応)』の状態にあり、この反応を調整するのに迷走神経の刺激がとても役立つからです」と彼女は語っています。
このシリーズの今後の記事では、迷走神経の働きを改善し、さまざまな健康問題を和らげる具体的な方法を紹介していきます。
(翻訳編集 華山律)
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