今回は、今秋の五行エネルギーの変化に基づいて、適した食材を使い、肝と肺を整える養生レシピを紹介します。初秋の体調不良に対応するための知恵です。
肝と肺を整える五行の原理
中医学では「秋は肺を養う季節」とされますが、今秋においては「木と土の調和」、つまり肝と脾のエネルギーのバランスに注目する必要があります。肝と脾は五行において相剋(互いに抑制し合う)関係にあり、そのバランスが崩れると不調を招き、保たれていれば健康が維持されます。
肝と脾のバランスが取れていれば、自然と脾胃(消化器系)の働きが整い、五行の「土生金(土が金を生む)」の理により、脾は肺(金)を生み出す母となります。つまり、脾が元気であれば肺も養われる、これが木と土の調和によって肺を養う仕組みです。
ここで、「五行の相剋関係では金が(肺)木(肝)を制するのではないか? 肺を直接補えばよいのではないか?」という疑問を持つ方もいるでしょう。しかしこれは、今年の五行エネルギーが例年と異なる点に関係しています。
今秋は肺のエネルギーが不足し、肝のエネルギーが過剰
中医学は「エネルギーの中和」を重んじる医学です。その思想は、陰陽五行も儒家の中庸思想も、いずれも道家哲学から来ており、「国を治めること」と「病を治すこと」は同じ「治」の文字を使うように、極端を避け、中庸を保つことが基本です。力が偏れば、必ずどこかに不調が現れるという考え方です。
では、今年の天地の五行エネルギーはどう変化しているのでしょうか? どのエネルギーが強すぎ、どれが弱すぎるのでしょうか? これを理解すれば、体のどこに不調が生じやすいかを判断でき、五行に基づいた的確な養生法が見えてきます。

2025年は干支でいうと「乙巳(きのと・み)」の年。乙は天を表し、地球周辺の二十八宿や太陽系五行エネルギーの年ごとの変化を示します。乙年の天干は「金の気」が支配する年ですが、今年はこの金の気が非常に弱く、「金気不及(きんきふきゅう)」と呼ばれます。つまり地球の五行メカニズムにおいて、金の気が周辺星系からの補給を受けられず、不足している状態です。これが人体に影響すると、肺(金)の気が足りず、肺の機能が大きく低下することになります。もともと肺が弱い人や肺疾患を抱える人は、とくに苦しい年になるでしょう。一般の人でも、胸が重い、息苦しい、寝つきが悪いといった症状が出やすくなります。
ご存じのとおり、金は木を制します。肝は木に属し、肺(金)は本来、肝(木)を抑える役割を持ちます。ところが、肺のエネルギーが不足すると、逆に肝のエネルギーが強まり、肺を圧迫するようになります。日本は東方に位置し、東は木に属するため、もともと木の気が強く、そこに金の抑制が効かなくなり、風が強くなる、典型的な気候変化です。今年は風の勢いが強く、東方に住む人々の肝(木)のエネルギーはとても揺らぎやすくなっています。肺(金)が弱いと、肝の気が肺を攻め、さらには脾胃(土)の気を過剰に抑え込むため、脾と肺の関係が損なわれ、ダメージを受けやすくなります。その結果、脾や肺にまつわる不調が頻発するのです。
このため、肝の気を穏やかに整えることで、脾と肺も落ち着かせる必要があります。
これが、今秋における「肝を整え肺を養う」五行養生法の基本です。とくに肝火が旺盛な人、感情が不安定な人、脾胃の調子が悪い人には、特におすすめです。では、具体的にどんな食材を選べば、肝の気を調整し、脾肺を養うことができるのでしょうか?
辛味で肝を整え、酸味で肝に入り、甘味で脾を補う
皆さん、「酢漬け玉ねぎ」の健康法を聞いたことがあるでしょうか? 近年人気があり、多くの現代病の予防や改善に役立つとされています。中医学の観点から見ると、これは「五味が五臓に作用する」五行理論の応用なのです。

玉ねぎには強い辛味があり、辛味は肺に入り、五行では「金」に属します。金は「木」を制すため、玉ねぎは肝(木)の気を調整する働きがあります。どのように調整するのかというと、辛味には「散らす」作用があるため、気の流れを良くし、肝の働きを助けるのです。肝は血を司る臓器であり、肝の気がスムーズであれば血流も良くなります。逆に肝の気が滞れば、血液も詰まりやすくなります。玉ねぎの辛味はこの気血の流れを良くし、現代病の予防と改善に役立ちます。
しかし、辛味だけでは不十分です。辛味は肺には作用しますが、肝へ直接届くわけではありません。ここで「酸味」が必要になります。酸味は五行で「木」に属し、肝に直接働きかけます。酸味は肝の気を引き締め、穏やかにし、さらに玉ねぎの辛味による拡散作用を肝へ導いてくれます。これにより肝の気が整い、肝と脾(土)のバランスが取れ、脾胃の働きが復活し、肺も安定します。
この理論に基づいて、辛味・酸味・甘味を備えた玉ねぎとトマトを使った、簡単で実践しやすい養生レシピを紹介します。トマトは涼性で甘酸っぱい味を持ち、肝を整え、脾を強め、食欲を促し、熱を冷まし潤いを与え、肺を癒して喉の渇きを抑えます。ちょうど残暑が残る初秋にぴったりです。
肝を整え肺を養うレシピ:トマト・玉ねぎ・ピーマン入り卵炒め

こんな人におすすめ:
- 初秋に胸の圧迫感、息苦しさ、喉の違和感、乾いた咳が出やすい人
- 感情の起伏が激しく、イライラしやすく、肝火が強い人
- 脾胃の調子が悪く、食欲不振や消化不良を感じやすい人
材料(2~3人分):
- トマト…2個(約300g)
- 玉ねぎ…1/2個(約150g)
- ピーマン…1個(約100g)
- 卵…3個
- オリーブオイル…適量
- 塩…少々
- 酢…少々(酸味を加え、肝の調整を助ける)
材料の効能:
- トマト:甘酸味で肝脾に入り、涼性。肝を整え、脾を健やかにし、熱を冷まし潤いを与え、肺を癒し、安眠を助ける。
- 玉ねぎ:辛味が肺に入り、肝のうっ滞を解消し、血流を良くし、消化を助ける。
- ピーマン:温性で辛味、肝脾に入り、肝を整え、脾を助け、胃を元気にし、気の流れを整える。
- 卵:平性で、気血を補い、五臓のバランスを整え、潤いを与える。
作り方:
- トマトはざく切り、玉ねぎはスライス、ピーマンは細切りにする。
- 卵を割りほぐし、塩を少し入れて混ぜ、フライパンで半熟に炒めて一旦取り出す。
- フライパンに少量の油を入れ、玉ねぎを炒め、ピーマンを加えてさっと炒める。
- トマトを加えて炒め、汁が出てきたら卵を戻す。
- 塩で味を整え、仕上げに酢を数滴たらして完成。
全体の効能:
この料理は辛味と酸味を組み合わせて木(土)を調和させるものです。
玉ねぎの辛味で肺を宣通し、肝を整え、トマトの酸味で肝を穏やかにし、ピーマンで肝と脾の調和を助け、脾胃の働きを強化します。卵は気血を補い、五臓をバランスよく整えます。
これにより、肝と脾を整えつつ肺を養い、今年の初秋に多い「イライラ、喉の乾燥、胸の重さ、息苦しさ、不眠・食欲不振」といった症状の改善が期待できます。
まとめ
このレシピは家庭で簡単に作れる日常食として、一年を通じて取り入れやすいですが、特に今年のように「木土の不調和」「肺の気不足」が起きやすい秋に最適です。卵にアレルギーがある方や体質を調整したい方は、豆腐(潤いと熱を冷ます)、鶏肉(脾を強め気を補う)、豚肉(陰を養い潤す)、牛肉(脾を補い気血を増やす)、魚や海鮮類などで代用するのもおすすめです。
(翻訳編集 華山律)
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