約40万人の患者を対象とした最近の研究では、注意欠陥・多動性障害(ADHD)で刺激薬を服用する人は、精神病や双極性障害を発症する小さいながらも注目すべきリスクがあることがわかりました。薬の服用を開始した後、患者の約3%がこれらの状態を発症しました。
主要な発見
『JAMA Psychiatry』に掲載されたメタアナリシスは、北米、ヨーロッパ、アジアの16件の研究結果を統合したものです。これは、ADHD薬と精神病および双極性障害の両方を関連づけた初の系統的分析です。
この研究では、ADHD治療に用いられる一般的な刺激薬であるアンフェタミンとメチルフェニデートの両方を検討しました。アンフェタミンでは、メチルフェニデートに比べて精神病症状の発症オッズが約60%高いことが示されました。
平均すると、刺激薬治療は患者の3%で精神病症状と関連し、4%で双極性障害と関連していました。
ただし、これらの研究は未治療のADHD患者の基準率を確立しておらず、観察されたリスクが薬によるものか、もともとの疾患によるものかを判断するのが難しい点が指摘されています。
研究結果にもかかわらず、研究者たちは刺激薬をほとんどの患者における第一選択治療として維持すべきとし、患者教育とモニタリング体制の強化を求めました。
潜在的な要因
別のメタアナリシスでは、ADHDの子どもは一般人口に比べて生涯で精神病を発症するリスクが約5倍高く、双極性障害のリスクも高いことがわかりました。
脳化学のレベルでは、ADHD・精神病・双極性障害はいずれも同じ神経伝達物質であるドーパミンの乱れに関与しています。刺激薬はドーパミンレベルを増加させるため、精神病や双極性障害のリスクと関連します。
精神病や双極性障害は、しばしば高いドーパミン活性と関連します。ADHDの人は通常ドーパミンレベルが低いため、刺激薬によってそれを上昇させます。
精神病リスクは、ADHDの第一選択治療としてAdderallやVyvanseなどのアンフェタミン系薬を使用するアメリカで最も高いことが示されました。アンフェタミンはメチルフェニデートよりも精神病や躁病のリスクが高く、ドーパミンの急増は最大で4倍にもなります。
一方、メチルフェニデートはヨーロッパの多くの国で第一選択薬とされており、レビュー対象となった研究では精神病の発生率がはるかに低いことが確認されました。
また、高用量のアンフェタミンの誤用も精神病や躁病を引き起こすことがあります。2024年にハーバード大学が主導した研究では、デキストロアンフェタミン30mg以上(Adderallで約40mg相当)を摂取した場合、精神病または躁病のリスクが5倍以上に増加しました。
モントシナイ病院の精神科助教授、シャロン・バチスタ博士は『エポックタイムズ』の取材に対し、刺激薬による精神病の症状は服用開始後や用量を増やした直後に現れる傾向があると語りました。
「家族は、新たに幻覚や妄想、極端な気分の高揚が見られた場合は注意すべきです。これらは即時の医療対応が必要な警告サインです」と、同博士は述べています。
双極性障害、精神病、ADHDはいずれも気分変動、不眠、注意散漫などの類似した症状を共有します。
「誤診は不適切な治療を招くため、慎重な評価が不可欠です」と、バチスタ博士は強調しました。
リスクと利点の比較
著者たちは、この発見によってADHDの第一選択治療として刺激薬を推奨する現在のガイドラインを変更すべきではないと述べていますが、患者と家族への教育、継続的なモニタリング、そして管理戦略についての十分な議論の重要性を強調しました。
「すべての薬と同様に、刺激薬にも副作用があります。これには躁病や精神病の発症リスクも含まれます」と、ペンシルベニア大学の精神科・行動科学助教授クーパー・ストーン博士はエポックタイムズの取材に答えました。
ストーン博士は、治療開始前に患者と潜在的な副作用について話し合い、情報に基づいた意思決定を行うことの重要性を強調しました。「刺激薬はADHDの人にとって非常に有益ですが、軽く考えてはいけない決断です」と述べています。
精神病や双極性障害の基礎的なリスクがない多くの人は、医師の指示どおりに服用し、高用量や非経口での誤用を避けることで、これらの状態を発症する可能性は非常に低いとされています。
患者と家族のための実践的なステップ
臨床医がすべての患者に対して、これらのまれなリスク(刺激薬による精神病や躁病は600人に1人未満)を警告したり、発生の可能性が極めて低い副作用まで説明したりするのは、現実的ではないかもしれません。
しかし、バチスタ博士は高リスクの患者にとっては特に重要だと強調します。「双極性障害や精神病の個人、または家族の既往歴がある場合は、これらのリスクを具体的に扱い、慎重に監視します」と彼女は述べました。
ストーン博士は、最も基本的なレベルとして「臨床医と家族は、本人の通常の行動からの気になる変化を認識できることが大切だ」と指摘します。
躁病や精神病の症状は、患者の普段の行動から際立って見え、「何かがおかしい」と明確に感じられます。家族が正確に何が起きているかわからなくても、「本人の様子が明らかに違う」と感じた時点で、それは即時に医療を受けるべきサインだと博士は述べました。
患者と家族は、臨床医と協力することでリスクを減らし、問題を早期に発見することができます。研究の著者およびストーン博士が示す具体的なヒントは次のとおりです。
- 開始前に確認:臨床医が精神病や双極性障害の家族歴を確認したかをチェックしましょう。
- 低用量から始め、徐々に増やす:特にアンフェタミンの場合は、用量を少しずつ慎重に増やしてください。
- 変化に注意:異常な考え、妄想、突然の気分変動などが現れたら、薬を中止し、すぐに医師へ連絡を。
- 選択肢を知る:刺激薬が合わない場合は、アトモキセチンなどの非刺激薬を検討できます(精神病リスクの報告はなし)。
- 行動療法を活用:実行機能に焦点を当てた認知行動療法で、ADHDの症状を効果的に管理できます。
(翻訳編集 日比野真吾)
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