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伝統中医学の五臓養生法——「脾の働きを正常に」

元の時代の医学者・朱震亨が、ある若い女性を診察しました。女性は食欲不振で半年間も寝込んでおり、多くの医師が手を尽くしましたが治せませんでした。朱震亨が脈を診ると、恋わずらいだと推測しました。家族に尋ねると、やはり婚約者が広東へ旅立って5年も帰らずにいたのです。

朱震亨は女性の父に「この病は『怒り』で治すしかない」と告げました。彼は部屋に入ると、女性の頬を平手打ちし、怒鳴りました。「未婚の娘が男を想うとは何事だ!」

すると女性は怒りで泣き出し、感情を吐き出した後、急に「食べたい」と口にしました。朱震亨はさらに「婚約者からもうすぐ帰るという手紙が届いた」と噓の報告をしました。女性は喜びに満ち、病状は急速に回復しました。3か月後、本当に婚約者が帰郷し、女性は完全に治りました。

なぜ怒らせることで食欲が戻ったのでしょうか? 『黄帝内経』には「思は脾を傷め、怒は思に勝つ」とあります。中医学では消化機能は脾のエネルギー系統に属し、また思慮は脾と対応する感情です。脾胃が健やかなら思考が明晰で記憶力も良く、余計な妄想をしにくいとされます。しかし思い悩みすぎると脾胃を傷つけ、食欲不振や消化不良を招きます。強い怒りによって感情が爆発し、心の中の滞りが解けると、心身が軽くなるのです。
 

中医学における「脾」

中医学で言う脾は、西洋医学の「脾臓」とは違います。西洋医学での脾臓はお腹の左上にあり、胎児期の造血、血液の貯蔵、老化した細胞や細菌のろ過、免疫防御という四つの役割があります。

しかし中医学の「脾」は、単なる臓器ではなく「機能のまとまり」を指します。

香港の中医師・黎珂によると、胃や膵臓、小腸や大腸といったお腹の臓器も脾の範囲に含まれます。脾はエネルギーと栄養を作り出して全身に届ける働きをし、「体質の根本」と呼ばれます。つまり、生まれた後の成長や生命活動は脾の働きに大きく依存しているのです。

脾の働きは、運化:食べ物や水分を消化・吸収する。統血:栄養を与えて血を作り、血が漏れ出ないようにする働きがあります。

また、精神面では脾は「思考」や「考えること」をつかさどります。近年の研究では、消化器と脳の間には複雑な双方向のやりとりがあることが分かってきました。ある研究によると、腸内細菌の状態は認知機能と関係しており、腸内環境を整えることで認知力を高められる可能性があるとされています。
 

体の症状から脾の健康を知る

黎珂医師は、中医学には「体の内にあるものは必ず外に現れる」という言葉があると説明しています。つまり、体の内側の健康状態は外見に反映されるということです。脾は消化と吸収をつかさどり、脾が元気なら顔色が明るく赤みがあり、唇はつやつやして筋肉も引き締まります。逆に脾が弱ると、顔色が黄ばんで暗くなり、唇が白く乾いてひび割れ、口臭、下痢や形のない便、睡眠中のよだれといった症状が出やすくなります。

脾の健康チェックリスト:

 

中医学の五行から見る脾の養生法

中医学の「木・火・土・金・水」という五行の理論によると、脾は「土」に属します。土から農作物が育つように、脾の主な働きは食べ物や水分を消化吸収して、体に必要な栄養を届けることです。

五行には「相生相克」という関係があり、脾(土)を抑えるのは肝(木)です。木は土を克するとされ、木が根を張ると土を割くように、肝のエネルギーが乱れると脾の消化機能も弱まります。感情の面で見ると、怒りは肝に、思い悩むことは脾に対応するため、怒りの感情が高まるのを抑える働きを持つとも考えられます。

さらに五行では、五臓と季節にも対応しています。私たちは一年を春夏秋冬の四季に分けますが、中医学では自然と人体の関係をもとに、一年を五つの季節に分けます。春・夏・長夏・秋・冬です。長夏はおよそ8月前後にあたり、蒸し暑く湿気が多い時期であり、これは脾にあたります。この時期は脾の働きが最も強くなる一方、傷つきやすい季節でもあります。湿気と熱が強すぎると消化機能が乱れ、だるさ、食欲不振、軟便、手足の冷え、さらにはむくみを引き起こすことがあります。

五行説 – 脾

 

脾を養う食事のすすめ

五行で土の色は黄色とされるため、脾を養うには黄色で自然な甘みのある食べ物がよいとされています。特に穀物や根菜類がおすすめで、エネルギー補給だけでなく、むくみを取ったり疲労を軽減したりする効果も期待できます。

穀物・根菜類: 玄米、オーツ麦、キビ、トウモロコシ、ハトムギ、カボチャ、黄サツマイモなど。『本草綱目拾遺』には、サツマイモは「胃を温め、五臓を養う」と記され、胃腸の血流を良くし、消化を助け、臓器を滋養するため、脾が弱い人の主食に適しているとあります。

黄色い豆類やナッツ類: 大豆、黄豆もやし、落花生、カシューナッツ、クルミなど。

黄色い果物: パイナップル、マンゴー、パパイヤなど。これらは脾や胃を整え、消化を助ける作用があります。
 

長夏に脾を元気にするスープ——四神湯

長夏の蒸し暑い気候に加えて、冷たい飲み物をよく飲むことが多いので、脾や胃を傷めやすくなります。その結果、消化不良、むくみ、食欲不振といった不調が出やすくなります。台湾・桃園の慈航中医診所の李応達医師は、この時期の体調管理に「四神湯」という伝統的なスープをおすすめしています。四神湯は、脾と腎を元気にし、余分な水分を体から出し、下痢を止める働きがあり、胃腸が弱い人や免疫力が落ちている人に特に向いています。

李医師によると、四神湯には「体質に合わせて調整する働き」があります。太り気味の人は余分な水分を出して代謝を良くし、痩せている人は食欲を増して消化吸収を助けます。下痢の人は便が水っぽくなくなり、便秘の人は腸の動きが活発になって排便を促してくれるそうです。

四神湯の基本の材料は、山芋、蓮の実、芡実、茯苓の4種類です。これらは「食べ物であり薬でもある」とされる食材で、体に優しく甘みがあり、脾と腎を補い下痢を抑える効果があります。研究では、茯苓に含まれる多糖類が腸内環境を整え、腸の粘膜を守ることで、抗生物質による下痢を改善したり、免疫や代謝を調整したりすることが分かっています。また山芋の多糖類には炎症を抑え、腸を守る働きがあるとされています。

よくあるアレンジとしてハトムギを加える方法があります。李医師は「ハトムギは体の中の湿気を取り、水分代謝を助けます。特に夏は冷たい飲み物を飲みすぎて湿気がたまり、脾や胃に負担がかかりやすいので、ハトムギを加えた四神湯は不調の改善に役立ちます」と説明しています。

市販の四神湯は豚の腸と一緒に煮ることが多いですが、李医師は「豚の腸は必須ではありません。苦手な場合はスペアリブや鶏肉を使ってもいいでしょう。その方が味もさっぱりして、子どもでも食べやすくなります」と話しています。

【四神湯】

材料:ハトムギ30g、茯苓25g、芡実60g、蓮の実60g、乾燥山芋30g

四神湯の材料——蓮子、茯苓、山薬、芡実(大紀元)

作り方:材料をよく洗って20分ほど水に浸す。鍋にすべての材料を入れ、水1500mlを加える。強火で沸騰させた後、弱火にして1時間ほど煮込み、材料がやわらかくなったら完成。

脾は体の「中央の台所」のような存在です。食べたものを栄養とエネルギーに変えて全身に届けます。脾がしっかり働いていれば、体のすべての臓器に栄養が行き渡り、自然と元気で病気にもなりにくく、もし病気になっても回復しやすくなります。だから、脾を養うことは五臓の養生の中でも最も大事な基本なのです。

(翻訳編集 華山律)

李立心