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“毎日1杯のプーアル茶”が冬の体を変える——身体の芯を温める腎ケア

腎を補う前に――まず胃腸を整える

冬は「水の季節」とされ、体の中では「腎」に関係が深い時期です。ですから冬になると、「腎を補うことが大事」とよく言われますが、実は中医学では、唐突に腎そのものを強くするのではなく、腎を育てる「母」の臓器から整えるのが、もっとも効果的だと考えられています。

古い医学書『黄帝内経』にも、「虚すればその母を補うべし」とあります。これは、臓器が弱っているときは、それを生み出す「母」の臓器をまず補ってあげるのが良いという意味です。

体の五つの主な臓器(五臓)には、「親子」のような関係があります。腎は「水」に属し、その母は「金」に属する肺。そして、肺の母は「土」に属する脾=胃腸の働きです。つまり、腎が弱る原因は、まず肺の元気が不足していることが多く、肺が弱る背景には消化器系の働きが落ちていることが関係しています。

 

胃腸が元気でなければ、体に必要なエネルギーや血がうまく作られず、それが肺の力を弱め、最終的に腎の水分も不足してしまうのです。ですから、冬に腎をしっかり整えたいなら、まずは胃腸を元気にすることが何より大切なのです。胃腸(土)を整えれば肺(金)が元気になり、それによって腎(水)も自然と潤っていく。これが、冬の正しい腎ケアの考え方です。
 

胃腸は「大地」 食べたものを栄養に変える

胃腸は、人の体の中で、大地のような役割を果たしています。大地があらゆる植物を育てるように、私たちの体も胃腸の働きによって栄養を作り出しているのです。

土の中にはたくさんの微生物がいて、落ち葉や枯れ草を分解して肥料に変えてくれます。人の体も、腸内細菌が同じような働きをしていて、食べたものからエネルギーや血を作り出す「化生(かせい)」という大事な力を担っています。

見た目や形は違っても、自然界の大地と体内の胃腸には、共通する働きがある――これが中医学で「脾胃は土に属す」と言われる理由なのです。
 

熟成プーアル茶 年配の方や胃腸が弱い人にぴったり

胃腸を整える方法として、まず思い浮かぶのが「お茶」。その中でも、特に年配の方や胃腸が弱い人におすすめなのが「熟成プーアル茶(熟茶)」です。

時間をかけて発酵させた熟茶は、体を温める性質があり、まろやかな味わいが特徴(Shutterstock)

中国の古い薬草書『本草綱目拾遺』には、「プーアル茶は少し苦味がありながらもわずかに甘く、体を温め、痰を取り除き、消化を助け、余分な水分を流してくれる。特に高齢者に向いている」と記されています。また『滇南本草』という別の書物にも、「熟成された茶は体を温めても胃を傷つけず、毎日飲めば体が軽くなり、長生きにつながる」とあります。これらからも、熟成プーアル茶が体を内側から温め、胃腸の働きを助けてくれることがよくわかります。

よく「プーアル茶は発酵茶」と思われていますが、実は少し違います。プーアル茶は、中国・雲南省で栽培される「大葉種」というお茶を使ったもので、大きく分けて「生茶」と「熟茶」があります。

  • 生茶:発酵させずにそのまま乾燥させたもので、体を冷やしやすい性質。
     
  • 熟茶:時間をかけて発酵させた「後発酵茶」で、体を温める性質があり、まろやかな味わいが特徴です。

発酵の過程で、茶葉に含まれる渋み成分(茶ポリフェノール)が変化し、色は濃く、味はまろやかになっていきます。この変化により、お茶の性質が「冷」から「温」に変わり、胃腸をサポートする力が高まります。つまり、熟成プーアル茶のやさしく温かみのある性質は、まさに「土のエネルギー」のあらわれなのです。
 

歴史の中にも残るプーアル茶の知恵

昔から人々は、お茶が体の湿気をとり、胃腸を目覚めさせてくれることを感じ取っていました。

三国時代、諸葛亮が南方(現在の雲南)に遠征したとき、兵士たちは風土病や下痢に苦しみました。地元の人々が「苦い葉」を差し出し、諸葛亮がそれを煎じて飲ませたところ、症状が軽くなったそうです。その後、諸葛亮は「水の代わりに茶を飲もう」と命じ、その茶を「湿を取り、脂を流し、体を軽くし、元気をつける」と語ったといわれています。これは医療記録ではありませんが、お茶が体のバランスを整え、胃腸を守る力を持つことを示す印象的な逸話です。

茶葉を乾かして餅の形にまとめた「餅茶」(Shutterstock)

また、雲南に住む少数民族・プーラン族には「七子餅茶」という名のお茶の伝説があります。彼らは湿気の多い山地で生活しており、体調を崩しやすかったのですが、長老が茶葉を煮て飲ませたところ、多くの人が元気になったそうです。その茶葉を乾かして餅の形にまとめ、「七子餅茶」と名付けました。これは「母が七人の子を養うように、胃腸が命を支える」という意味が込められており、まさに「土は万物の母」という五行の考え方にもつながっています。
 

肉料理にはやっぱりプーアル茶

「茶馬古道」という言葉を聞いたことがありますか? これは唐や宋の時代から、中国内地で作られたお茶とチベットの馬を交換するために使われていた交易ルートのことです。時代が進むにつれて、この道で取引されるお茶の中でも特に重要なものが「プーアル茶」でした。

チベットの雄大な自然の中で草を食むヤクの群れ(Shutterstock)

寒くて乾燥した高原地帯では、牧畜中心の生活を送る人々は肉や乳製品をたくさん食べます。その結果、胃腸に負担がかかりやすく、「お茶がないと食事が進まない」とまで言われていました。

古いチベット医学の文献『四部医典』には、「お茶は体を温め、食欲を促し、乳製品の重さを和らげ、体の潤いを保つ」と記されています。これは中医学の考え方と一致しており、プーアル茶が体を温め、胃腸を整えるのにとても適していることを物語っています。

現代では食生活が西洋化し、肉や乳製品をよく食べる人が増えました。けれど、こうした食事は消化に負担がかかりやすく、体に余分な水分(湿気)や老廃物をため込みがちです。特に冬は運動不足や長時間の座り仕事で胃腸が弱りやすく、消化不良になりやすい時期でもあります。

そんなとき、食後に1杯の熟成プーアル茶を飲むのは、とても手軽で効果的な「胃腸と腎をいたわる方法」です。
 

「温かいプーアル茶」で、心も体も冬支度

熟成プーアル茶を飲むときは、3~5gほどの茶葉を使うのがおすすめです。まず沸騰したお湯で軽く茶葉を洗い流してから、90~95度のお湯でゆっくり淹れましょう。最初の3煎目までが一番香り高く、赤みがかったお茶はまろやかでほんのり甘く、飲むとお腹の中からじんわり温まります。

乾燥みかんの皮(陳皮)(Shuutterstock)

胃腸が冷えやすい人は、乾燥みかんの皮(陳皮)や乾燥しょうがを少し加えると、さらに体を温めてくれます。また、エネルギー不足や冷え性が気になる人には、なつめを数粒加えるのもおすすめ。甘みが加わり、元気が出てきます。
飲むタイミングは食後30分後が理想的。空腹時や寝る前にたくさん飲むのは避けた方が安心です。

冬の腎ケアといっても、実は胃腸の働きを整えることが大切な第一歩です。胃腸(土)が元気なら、肺(金)も潤い、腎(水)も自然と満たされていきます。熟成プーアル茶のやさしい温かさは、ちょうどそんな体の流れを整える力を持っています。お腹の中心を温め、下半身を養い、全身の気と血の流れをスムーズにしてくれます。

毎日、温かいプーアル茶を一杯ゆっくり楽しむ習慣があれば、胃腸も整い、肺も潤い、腎もしっかり働いてくれる。寒さに負けない、元気な冬を過ごせることでしょう。
 
 (翻訳編集 華山律)

白玉煕
文化面担当の編集者。中国の古典的な医療や漢方に深い見識があり、『黄帝内経』や『傷寒論』、『神農本草経』などの古文書を研究している。人体は小さな宇宙であるという中国古来の理論に基づき、漢方の奥深さをわかりやすく伝えている。