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中医学で読む、畑と腸の共通点

胃腸は「体の土」だった ──畑と同じように、薬で揺らぐ腸内環境

現代の研究では、抗生物質、抗うつ薬、降圧薬、睡眠薬、制酸薬といった身近な薬は、たとえ使うのをやめて何年経っても腸内細菌のバランスを長く乱し続け、胃腸がなかなか回復できなくなることがわかっています。これは、農地が化学肥料や農薬に頼り続けるのとよく似ていて、短い期間だけ見ると収穫が増えたように見えても、実際は土の微生物が弱まり、土が固くなり、痩せてしまい、元の力では回復できなくなる悪循環に陥ります。

胃腸は体を育てる「土」

中医学では、胃腸は五行の「土」に属し、食べ物の消化・吸収や栄養をつくる働きを担っています。その性質は、自然界の「土」にとてもよく似ています。畑の土でも人体の胃腸でも、どちらもたくさんの微生物が有機物を分解し、腐ったものを生命につながる力に変え、濁ったものを清らかなものに変えて、万物と全身を養っています。見た目は違っても、自然の土と人体の土はどちらも「生み出し育てる力」を持っているのです。
 

薬の使いすぎが「土」を弱らせる理由

中医学には「胃腸は後天の源」という言葉があり、食べ物を消化して体の材料に変える要の存在とされています。胃腸の働きは、まるで大地の土のように、取り込み、分解し、育てることで、腐ったものを栄養に、濁りを清らかな気へと変える役割を果たします。

しかし、現代人が薬を使いすぎる状態は、農家が化学肥料や農薬を過度に使うのと同じで、短い間では効果的にみえても、土の微生態系は確実に壊れていきます。微生物が死んでしまい、腐植がなくなり、土が本来もっている「自分できれいにし、自分を養う力」が弱まり、たとえ薬の使用をやめても、元のように豊かな環境に戻るのは簡単ではありません。

薬が体に与える影響もまったく同じです。腸内細菌のバランスが乱れると、胃腸という「土」から元気が失われていきます。『黄帝内経』には「脾が傷つけば多くの病が生じる」とありますが、脾は食べ物を蓄える役目、胃は受け入れる器とされ、そこに薬の刺激が長く続くと、消化吸収の働きが滞り、栄養を生み出す力も細り、化学薬剤に傷ついた土と同じように「土のはたらき」が弱まり、生き生きとした力が戻らなくなります。
 

科学も証明する「土が毒される」現実

近年の研究では、薬が腸内環境に与える悪影響は抗生物質に限らないことが示されています。抗うつ薬や鎮静薬は、トランコウ球菌といった有害菌を増やし、腸の粘膜を傷つけて炎症や代謝の乱れを引き起こします。制酸薬は、口の中の菌が腸に入り込みやすくなり、腸の防御機能を壊してしまいます。

その結果、善玉菌が減り、短鎖脂肪酸の産生も低下し、腸の炎症、吸収障害、肥満、代謝異常などが次々に起こります。人体という「土壌」は締まり固まり、通気性が悪くなり、吸収力も弱まり、栄養がうまく変換できなくなります。『内経』にある「脾が弱ると湿が滞り、湿が滞ると腐敗の気が生じる」という記述は、まさにこの状態を表していると言えます。

これは単なる「腸だけの問題」ではなく、五行でいう「土」が化学的な刺激で弱ってしまった結果なのです。古人が「土が壊れれば万物は育たない」と語ったように、現代の薬による菌のバランスが崩壊する現象は、この言葉をそのまま映し出しています。
 

人体は「小さな自然」そのもの

中医学では、人の体を「小さな宇宙」「小さな天地」、つまりひとつの縮小された自然界として考えます。『素問(そもん)』には「人は天地の気を受けて生まれ、四季の法則によって成り立つ」とあります。人体の胃腸という「土」は、自然界の土と同じ源から成り、同じ性質を持ち、自然の「土」と同じ力を備えています。

自然界の土が化学物質で汚されると、三つの変化が起こります。

① 微生物が大きく減り、腐植がなくなる
② 土が固まり、呼吸できなくなる
③ 根が腐って、吸収力が落ちる

人体もまったく同じです。
① 善玉菌が減って、消化の力が弱まる
② 腸の壁が硬くなり、動きが鈍くなる
③ 栄養が吸収されにくくなり、気血が不足する

自然でも人体でも、根本の問題は「土の性質が傷つくこと」にあります。薬の力だけで症状を抑えたり、自然を化学物質で置き換えようとすれば、やがて「土」は本来の働きを失い、回復が難しくなります。
 

胃腸を立て直すための3ステップ

1. 胃腸を休ませて、まずは「薬づけ」を避ける

胃腸を回復させることは、土地をしばらく休ませることに似ています。薬を完全に避けることは難しいですが、医師と相談しながら必要以上に使わないことが大切です。

食事は「体がひと息つけるもの」を選びます。消化にやさしい、自然に近い米や麦、豆などの穀物、そして土の力をしっかり含むじゃがいも、里芋、さつまいも、大根、にんじんのような根菜、さらにやさしい味のりんごやみかんなどの果物が胃腸を温めて養います。

土地が化学肥料をやめたとき、そこから土中の微生物が少しずつ戻ってくるように、人の体も「いったん立ち止まって休む時間」があってこそ、本来の代謝のリズムが取り戻されます。

2. 菌を育て、脾の「土」を再生させる

胃腸の生命力は、無数の微生物の助けによって生まれます。回復の鍵は、薬よりも天然の食べ物が持つ「生きた力」にあります。

玄米、はと麦、小米、そばなどの穀物は、善玉菌のやさしい栄養源になります。さらに、キムチ、味噌、納豆、ヨーグルト、塩麹、自然な穀物酢といった発酵食品は、生きた菌を取り入れ、腸内の環境づくりをサポートします。

また、小豆、山芋、里芋、ごぼう、にんじんなどの根菜に含まれる水溶性食物繊維は、湿気を取り除いて脾を強くし、菌の増える環境を整えます。

脾は「土」なので、乾きすぎても、逆に油っこくても弱ってしまいます。「さっぱりして冷たすぎず、適度にしっとりして軽い」食事が、脾の土性を回復する助けになります。

3. 運化の働きを動かし、脾の「火力」を戻す

胃腸は、長く動かずにいると弱ってしまいます。脾が陽気を失うと、火力が落ちてしまうようなものです。胃腸を整えるには、生活のリズムを整えて、胃腸の気が流れるようにすることが必要です。

規則正しい生活、早寝早起き、食後に少し歩くこと、温かい食事は、中焦の陽気を高め、動かす力になります。また、気持ちを落ち着け、考えすぎないようにすることも大切です。「考えすぎると脾を傷つける」とされるように、心の負担は直接胃腸に影響します。

この三つのステップで体を整えていくと、「土」は自然と柔らかさを取り戻し、再び生命力が生まれ、体全体が養われていきます。
 

結び──毒を遠ざけ、土台を立て直す

現代の人々は少しずつ気づき始めています。健康を支えるのは薬の強さではなく、体の中の生態そのものだということです。薬は急なときには必要ですが、使いすぎると体が本来持っている自分で自分を養う力を乱してしまいます。腸内細菌の乱れは、「土が化学物質に侵された」という警告でもあります。

どれほど豊かな土地でも、毎年薬をまき続ければやがて荒れ果てます。どれほど強い胃腸でも、薬の負担や乱れた食生活が続けば、生き生きとした力を失ってしまいます。

本当の健康とは、外からの薬に頼りきることではなく、体がもともと持っている自然なリズムと回復力を取り戻すことです。胃腸を養い、中焦を整えることは、まさに生命の土台を修復することにつながります。これこそが、中医学で「脾は後天の本」と言われる意味なのです。
 
 (翻訳編集 華山律)

白玉煕
文化面担当の編集者。中国の古典的な医療や漢方に深い見識があり、『黄帝内経』や『傷寒論』、『神農本草経』などの古文書を研究している。人体は小さな宇宙であるという中国古来の理論に基づき、漢方の奥深さをわかりやすく伝えている。