痩せられない本当の理由は「意志の弱さ」ではない

これまで体重のことで悩んだことがあるなら、自分を「感情的に食べてしまう人」だと決めつけたり、自分には自制心がないと強く信じてしまったりしたことがあるかもしれません。そうした自己認識は、ただ気持ちを落ち込ませるだけでなく、あなたのアイデンティティ(自己認識・自分は何者かという感覚)を形づくり、習慣を変えることをより難しくしてしまいます。

研究によると、長期的に体重を減らして維持する鍵は、意志力の強さよりも、アイデンティティを変えることにあるとされています。自分を「健康的な人」だと捉えるようになると、自然と健康的な選択をするようになり、一時的な食生活の改善が、持続可能な結果へとつながっていきます。

あまりに単純に聞こえるでしょうか。しかし研究者や減量の専門家によれば、このアイデンティティの転換こそが極めて重要だといいます。
 

自分でも気づいていなかったアイデンティティの問題

私たちが使うラベルは、自分が何者であるかを説明するだけでなく、これから何者になっていくかをも形づくります。

栄養科学の博士号を持ち、著名なフィットネスコーチでもあるレイン・ノートンは、エポックタイムズに対し次のように語っています。「何をすべきかを知っていないことが問題なのではありません。本当に人の前進を妨げているのは、感情や自己認識に結びついた心理的な障壁です」

「変化は頭で理解した知識から起こるのではありません。自分は何者なのか、なぜそのように行動するのかに向き合ったときに起こるのです」と彼女は述べています。

自分は変われない人間だと思い込んでいる人は、行動が自己イメージと常に衝突するため、新しい習慣を身につけるのに苦労します。一方で、自分は健康的な選択ができる人間だと考えている人は、困難に直面しても粘り強く続けることができます。

この違いは、自己表現の言葉にも表れます。固定されたアイデンティティを持つ人は「体重を減らそうとしている」と言います。アイデンティティが変化した人は「自分は体を大切にする人間だ」と言います。この微妙な違いこそが、長期的に成果を維持できるかどうかを左右するとされています。

アイデンティティの転換は、一夜にして起こるものではありません。多くの人は、数か月間一貫した行動を続けることで、はっきりとした変化を感じ始めます。そして「自分は健康な人間だ」という、より深く安定した感覚が形成されるまでには、通常6か月から12か月ほどかかるとされています。
 

手放さなければ、新しい自分にはなれない

「身体の変化には、心の変化が必要です」とノートンは言います。「どちらか一方だけを期待することはできません。古い習慣を引きずったまま、新しい人生を築くことはできないのです。手放す覚悟が必要です」

食べ物や日課、社交的なパターンに感情的な意味が結びついている場合、変化は喪失のように感じられることがよくあります。

「多くの人が不健康な習慣にしがみつくのは、知らないからではなく、変化よりも安心感のほうが安全に感じられるからです」とノートンは言います。「成長するためには、不快感の中に踏み込む必要があります。そこに本当の成長があるのです」

劇的な減量で知られる俳優イーサン・サプリーは、精神的な変化をソーシャルメディアで使っている言葉で表現しています。「今日は自分のクローンを殺した」この「クローン」とは、かつての自分、つまり不健康な習慣に縛られていた自分を指します。毎回のトレーニングや、より良い食事の選択は、過去の自分を脱ぎ捨て、なりたい自分を選ぶ行為なのです。

重要なのは、完璧であることではありません。

「人間なのだから、失敗します」とノートンは言います。「大切なのは、それに気づき、なぜ起きたのかを理解し、前に進むことです」
 

なぜ意志力だけでは失敗するのか

ノートンはこの転換を次のように説明します。「それが単なる目標であるうちは、気分に関係なくやろうとします。仕事に行きたい気分でなくても行くのと同じです。運動も同じように機能します」

規律やルール、意志力だけに基づく動機づけよりも、アイデンティティに基づいた行動変容のほうが持続しやすいことを示す研究は、年々増えています。

2010年に行われた14の研究の分析では、支え合えるコミュニティに属し、社会的に強化されたアイデンティティを受け入れることが、スティグマ(否定的な烙印)を減らし、長期的な体重維持目標への継続力を高めることが示されました。

また、2023年に学術誌「JMIR Mhealth and Uhealth」に掲載された研究では、1年間のデジタル行動減量プログラム(オンラインで行動変容を支援する減量プログラム)に参加した成人を対象に、自己モニタリングとコーチからのフィードバックが、継続的な参加と体重管理を支えたことが示されました。特に初期に強い習慣を確立した人ほど効果が高く、これは時間をかけて「健康な人」というアイデンティティを固めていく、反復的でフィードバックの多い経験そのものでした。

「Journal of Health Psychology」に掲載された持続可能な減量に関する研究では、成果を維持した人々は、自らのアイデンティティが「制限から解放された新しい自分へ」と移行したと語っています。変化が意志力ではなくアイデンティティに根ざしていたとき、変容は長続きしやすかったのです。

ノートンは、クライアントの中でこのパターンを何度も目にしていると言います。

「体重を維持できている人たちは、新しいアイデンティティを築く必要があったとよく言います。新しい友人、新しい習慣、新しい場所です」と彼女は語ります。
 

抜け出せなくなる「恥」の罠

「多くの人が、恥の感情から減量に取り組みますが、その考え方こそが人を古いパターンに閉じ込めてしまいます」とノートンは言います。「私はクライアントに、『そんなふうに自分を語ることは許しません』と伝えています。恥は変化を生みません。ただ人を立ち止まらせるだけです」

恥は、心臓や代謝に関わる健康状態を悪化させることや、医療やケアを避ける行動と関連することが示唆されています。「自分は十分ではない」という根底の感情が自己妨害を引き起こし、人を罪悪感から、慣れ親しんだ不健康な習慣へと押し戻すことがあります。

オール・オア・ナッシング思考(白か黒かで考える極端な思考)は、自己妨害をさらに強めます。クッキーを1枚食べただけで「もう台無しだ」と考えてしまい、大きな目標そのものを放棄してしまうのです。一方で、自分を本質的に健康な人間だと捉えている人は、デザートを食べても、それを無数の選択の一つとして受け止め、問題なく前に進むことができます。
 

アイデンティティを変える方法

健康的なアイデンティティは、無理に行う行動を自然な行動へと変え、減量の成功率を高めることが示唆されています。一方、自己妨害は否定的な自己イメージや感情的な引き金から生じることが多いです。

自己妨害は、食事・運動・休息の計画不足によって健康的な日課が崩れたときに現れやすくなります。

幸い、自己妨害の悪循環を避けるための、実証された戦略があります。

  • つまずきを理性的に捉え直すこと:「失敗した」と考える代わりに、「なぜこうなったのだろう」と立ち止まって問いかけます。自分を責める姿勢から、好奇心を持って振り返る姿勢へと変えることで、軌道修正がしやすくなります。練習を重ねると、この問いかけは自動的になり、再発の可能性も低くなります。
     
  • 感情的な引き金を認識すること:ストレスや罪悪感、あるいは成功への恐れが、不健康な選択へと向かわせていないかに気づきます。引き金が分かれば、変化ははるかに起こしやすくなります。
     
  • ジャーナリング(日記記録法)を通じて自分への思いやりを実践:毎日の行動を記録し、完璧さではなく改善に目を向けます。うまくいった点と、明日もう少し良くできる点を簡単に振り返ることで、モチベーションを保ちながら、進化するアイデンティティを強化できます。
     
  • 環境を成功に合わせて整えること:誘惑となる食品を遠ざけ、健康的な選択肢を手に取りやすくします。周囲の環境が新しいアイデンティティを支えると、より良い選択はほぼ自動的になります。食事を事前に計画し、シンプルなカレンダーで仕事と社交の予定を調整し、たんぱく質と食物繊維が豊富な食品に意識を向けます。
     
  • 一貫した習慣を保つこと:決まった就寝時間、毎日の身体活動、ストレス管理は、強固な基盤をつくります。習慣は健康行動であるだけでなく、「これが今の自分だ」というアイデンティティの指標でもあります。
     
  • 境界線を設定すること:「いいえ、結構です」と言う練習をしましょう。誘いを断る場合でも、おかわりを控える場合でも、落ち着いた対応はエネルギーを守り、睡眠・自炊・運動といった自分のニーズに集中する助けになります。

以下の簡単な進捗チェックリストが指針になります。

  1. 自己認識として、つまずきから立ち直るまでの時間が、数週間ではなく数時間や1日以内になっているかを確認します。「失敗した」と思うことが減り、「何を学ぶ必要があるだろう」と考えるようになっているかに気づきます。
     
  2. 周囲の環境について、食事・動き・睡眠といった日常が、健康的な選択をより簡単で自然なものにしているかを見ます。
     
  3. 日課として、睡眠や自炊、身体活動を支える穏やかな境界線で、時間とエネルギーを守れているかを確認します。
     
  4. アイデンティティとして、自己対話が前向きで主体的になり、「健康になろうとしている」ではなく「健康を大切にしている」と感じられているかを認識します。

健康的な人であっても、時にはデザートを食べて構いません。フィットネスを重視していても、ときには運動を休むことがあります。

意識的な計画、明確な境界線、そして自分への思いやりを組み合わせることで、自己妨害の連鎖から抜け出し、完璧さに頼ることなく、続けられる習慣を築くことが可能になります。

(翻訳編集 井田千景)

臨床栄養士および自然療法士として、2009年より消化不良、依存症、睡眠障害、気分障害に悩む方々を支援するコンサルティングを実施。大学で補完医療を学ぶ中で、行動神経科学や腸・脳の不均衡に強い関心を抱く。それ以来、栄養ゲノミクス、トラウマにおけるポリヴェーガル理論、および栄養療法アプローチに関する大学院レベルの認定資格を取得。