<心の琴線> うたかたの夢

【大紀元日本4月27日】中国唐代の小説に、「枕中記」(ちんちゅうき)という物語がある。

盧生(ろせい)というみすぼらしい男が茶店に入り、旅の道士と相席になった。盧生は道士に自分の貧しさの愚痴をこぼしながら、ふと眠くなってうたた寝をしてしまう。数ヵ月後、盧生は名門の娘と結婚し、その後は挫折を味わいながらも立身出世し、栄耀栄華を極める。長い人生を送り、病床についた盧生があくびをしながら目を覚ますと、そこは元通りの茶店だった、という話だ。名誉も恥も、成功も失敗もすべてはかないものだよという真理を、この話は示唆している。

この物語を読んだ時、学生の頃に図書館で学んだ物理のしくみについて思い出した。

微細な世界にある分子、原子、電子は私たちの時間で言う数万分の1秒の間に消滅と生成を繰り返す。この場で「あ」と一声発した時点で、すでにミクロの世界では地上でいう数万年に相当する時間が過ぎているのだ。一方で、遠い宇宙にある惑星の寿命は数10億年におよび、人間から見れば気が遠くなるほどゆっくりとした時間が流れている。古代中国の人が言うように、人間の一生は「うたかたの夢」のようなものかもしれない。2000億個もの銀河が広がる巨大な宇宙から見れば、塵のように小さな地球で過ごす私の一生は、なんてちっぽけなんだろうと思った。

今このひと時も、うたかたの夢。盧生のように、現世の夢からふと覚めた時、私は何を思うだろうか。もう一度、厳粛な気持ちで自分の人生を見つめ直してみよう。

(成田)