【お勧め本】 『チベットの祈り、中国の揺らぎ』

【大紀元日本2月27日】今や世界第二位の経済大国となった中国。だが、国内には多くの問題を抱え、対外的にも多くの摩擦を生んでいる。そんな中国の中にあっても、中共(中国共産党)にとって特に触れたほしくない問題がある。報道ではよく「三つのTと一つのF」と表現される。三つのTとは、「台湾」「チベット」「天安門」であり一つのFとは「ファルンゴン(法輪功という気功法)」のことだ。

チベットが中共にとっていかにデリケートな問題かを著者のティム・ジョンソン氏は身をもって知ることになる。中国滞在中のジョンソン氏に、彼が所属する新聞社のワシントン支局長から一通のメールが来た。このメールを読み、おおいに動揺した。内容は「中国の在サンフランシスコ領事館から、中国でのジョンソン氏の取材内容についてCEOと話をしたいとの要請があった」というのだ。1ヶ月ほどたってジョンソン氏はワシントン支局に行った。外交官とCEOの会談内容を尋ねると「きみが書いているチベットの本のことを知りたがっていた」と聞かされる。彼は愕然として、危うく床にへたり込むところだった。チベットを取材していることはともかく、ほとんど誰にも執筆計画を話していなかったからだ。ジョンソン氏は、「中国の公安組織の何者かが自分の電子メールを監視し、電話を盗聴していた」という結論に至る。そしてそれを知らしめるために所属会社に威嚇をしたということだ。

執筆前からそんな状態だから取材そのものも簡単なものではない。外国人がチベットに立ち入るには許可証(ビザのようなもの)が必要だし、許可を取るのも容易ではない。そこで旅行者として申請し、ようやく認められた。取材先でも常に監視の目が光る。

中国がチベットに進出するのは鉛や亜鉛・鉄鉱石・天然ガス・オイルシェールといった地下資源の埋蔵量が豊富だからだ。青海チベット鉄道が開通し、漢民族が大挙おしかけ、ラサ市の風景を変えていく。1949年の時点でラサ市の人口は約3万人。その後、ラサ市の範囲は20倍以上に拡大し、最新の推定人口は25万7400人。しかし、この数字にはかなりの規模にのぼる駐留軍や、鉱山労働者・建設作業員・貿易商などは含まれていないという。外国の研究者は、現在ではラサの住民の3分の2が非チベット族と見ている。

ラサに巡礼に来た遊牧民が、中国語の標識が読めず、新しくついた中国風の地名も知らなかったため道に迷ってしまったという。標識だけでなくラサ市そのものが大きく変貌していく。移住者らの需要をあてこんだ歓楽街がつくられ、売春宿までできている。チベット人は苦渋の表情で、かつての聖なる都ラサを「悪魔の国」と呼ぶと言う。まさに民族文化滅亡の危機だ。しかし中共はチベットを封建農奴制から解放した上に経済的に豊かにしたと主張し、そう信じ込んでいる中国人は多い。

ジョンソン氏はまた、チベット以外でも、「ウィグルの母」と言われるラビア・カーディルや内蒙古自治区のシンナなどにも取材の対象を広げる。彼女たちも同様に民族文化の滅亡危機を訴える。国外では、ダライ・ラマ14世や、次代の指導者の一人とみられているカルマパ十七世からも直接取材をしている。

インタビューの中でのダライ・ラマ十四世の印象深い言葉をご紹介したい。

「確証があるとは言えませんが、ダライ・ラマ十四世の寿命は、中国共産党の寿命よりちょっとだけ長いような気がするのです。中国の全体主義的システムの命は、あと五年か十年でしょう。今の冷酷な政策が長続きするとは思っていません」

【大紀元の記事から】

チベット事件の本質:暴動ではなく、暴政への抵抗

ラサ僧侶の涙:チベットに自由なし、当局はうそをついている

書名  『チベットの祈り中国の揺らぎ』 
世界が直面する「人道」と「経済」の衝突 
著者  チィム・ジョンソン著 辻 仁子訳
出版社 英知出版
価格  2,376円(税込み)年 2011年10月
商品コード 9784862761156

(佐吉)