【歌の手帳】信濃なる

信濃なる千曲(ちぐま)の川の細石(さざれいし)も君し踏みてば玉(たま)と拾はむ(万葉集

歌意「信濃の国を流れる千曲川。その川原の小石でさえも、あなたがお踏みになったものならば、私は玉として拾いましょう」。

『万葉集』の東歌(あずまうた)です。300年後の平安貴族が詠んだどんな「古今調」の恋愛歌よりも、この素朴な一首のほうが、恋愛歌として圧倒的に優れています。

詠み人の名前も性別も分かりませんが、おそらく野に咲く白い花のような娘さんでしょう。彼女には密かに想いを寄せる若者がいます。その若者が足で踏んだ川原の小石さえ、大切な玉(ぎょく)つまり宝石として私は拾うと言います。

なんともいじらしい、純愛の極みではありませんか。これが東歌の魅力です。

(聡)

 

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