【歌の手帳】行くは誰が背

防人(さきもり)に行くは誰(た)が背(せ)と問ふ人を見るがともしさ物思(ものもひ)もせず(万葉集

歌意「今度、防人に出発するあの人は誰のご主人かしら。そんな声を上げる人を、私の近くで見た。ああ、何とうらやましいことだろう。何の憂いもなく、それを言えるなんて」。

『万葉集』の防人歌です。九州の防備のため、主に東国から徴集された兵士、あるいはそれを見送る家族がうたった哀切きわまる歌の数々は、令和の私たちが見ても胸に迫ってきます。

冒頭の歌の特色は「防人に行く兵士の妻」が主人公であることです。二度と帰らない恐れもある長旅と任務に、今まさに出発しようとするのは愛する夫。

それを「どこの旦那さん?」と聞く好奇の声に、妻の胸はつぶれそうになるのです。

(聡)

 

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