爽やかな秋の好季節ですが、時には、肌寒さや冷えを感じることもあります。
そこでうっかり体を冷やしてしまい、風邪をひいたり、体調を崩したりするのも今の時期にありがちなことですので、そのような時は、ぜひ本記事の後段でご紹介する「家庭の妙薬」をお試しください。
漢方でいう湿気は「湿った邪気」
さて、日本語で湿気(しっけ)というと、洗濯物や空気中にふくまれた水分のことですが、
ここでいう湿気(しっき)とは漢方医学の用語で、人間の体内にある水分を指します。
その湿気が過剰であると、体にさまざまな不調をきたすので注意が必要です。
この場合の湿気とは、生物として体が必要とする水分ではなく、あくまでも漢方医学でいう「湿った邪気」とお考えください。その邪気が体内にたまることが問題なのです。
体内が湿気過多になるのは、例えば虚寒(きょかん)体質の人、つまり「体内の陽気が不足していて体を温めることが難しい体質」の人は、湿気を蓄積しやすいとされています。
冷たい食べ物が好きな人は、虚寒になりやすいと言われます。
台湾の漢方医師、李応達氏は、体内に湿気がたまる原因について、次のように説明します。
1、体の冷え
虚寒体質は、一般的に虚証と寒証を指します。虚証とは体のだるさ、四肢の無力。寒証とは寒がり、冷えによる下痢、頻尿、四肢の冷たさに現れます。
2、食事が不摂生で不規則
食事制限をしない過食や、毎回必ず満腹になるまで食べる人は、胃腸を痛めやすくなります。不規則な食事や、昼夜逆転の食生活も良くありません。
空腹時に食べ物を食べないと、胃酸が分泌され過ぎて、胃の内壁を傷つけたり、胃酸の逆流を引き起こすこともあります。胃腸が荒れると体内に湿気がたまります。
3、冷たい物や揚げ物を好む
冷たい食物は、消化管を収縮させ、消化不良を起こします。
体内に湿気がたまり、腹部膨満や腹痛、下痢を引き起こします。また、揚げ物は消化が悪いため、湿った邪気により「痰湿」が出ます。
恐ろしい「痰湿中阻」にご注意を!
「痰湿」とは、風邪をひいたときに咳とともに出る痰ではなく、体内に滞った湿気からできる代謝異常物質のことです。
漢方医学の文献に「肥満の人は痰が多い」という記載が多くありますが、この場合の痰も「痰湿」を指しています。そうした人は、特に高脂血症との合併により血液の流れが滞りがちなので「痰湿中阻」と診断されます。
このような体質の人は、高血圧、糖尿病、心臓病、脳卒中などの重大な病気にかかりやすいので、十分な予防が不可欠です。
漢方医学によると、体内の脾臓は「水湿を運化し、津液代謝の中枢」であると言います。
「運化」とは運搬し消化するという意味ですが、これは脾胃(脾臓と胃)の最も重要な機能で、食物から栄養物質を生成するのが「化」、栄養物質を全身に送るのが「運」です。
津液(しんえき)はいずれも体液ですが、津は粘り気のない陽性の水分、液は粘り気のある陰性の水分のことです。
津は尿や汗となって体外へ排出されますが、液は体内をゆっくり流れます。
話を戻しますと、その脾臓が正常に機能しない、つまり「運化が十分おこなわれない」と痰湿が発生して、体にさまざまな不調を引き起こすのです。
家庭の常備薬は「台所の生姜」
そこで痰湿除去に登場するのが、すばらしい「家庭の妙薬」。生姜(しょうが)です。
安価で、どこのご家庭にもあり、常用しても副作用はありません。ただし、一時的に胃が熱くなっている場合は、服用を控えて様子を見てください。
漢方の処方として使用される生姜は、湿気を取り除いて寒気を散らし、胃寒、腹痛を治療することができます。
夏に、子供がかき氷や冷えたスイカを食べ過ぎると、胃腸が冷えて腹痛を起こしやすくなります。
このような時は、薄切りにした生姜を鍋で煮て、少量の砂糖を加えた生姜湯を、適温に冷ましてからゆっくり飲ませてみてください。
腹痛止めの市販薬を飲ませるより、体に優しく、腹痛もすぐに収まるはずです。
これは秋や冬になっても同じで、つい気がつかずに体を冷やしてしまった場合、生姜湯を服用することで体を内側から温めるとともに、体内にたまった痰湿を除去して、だるくなった体調を回復させるのです。
それでは皆様、お体を大切にして、色づく秋の風景を満喫しましょう。
(文・李應達/翻訳編集・鳥飼聡)
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