私の思い出のキエフ「温もりと風格の街」(2)

(前稿から続く)

3 先に水を汲みなさい

これから自分が日々を過ごす学校の寮に行ってみると、キエフ市内の住民が外に出て、容器で水を汲んでいるのを見ました。

チェルノブイリ原発事故の影響がまだ残っていて、水道水の水源地が汚染されているためだと言います。留学生が入る学生寮でも、台所の水道水を飲むことはできません。

キエフに着いたばかりのある日、屋外は寒かったのですが、私は薄着のまま走り、安全とされる水汲み場まで水を取りに行きました。

その場所は寮から近いので、往復でも数分しかかかりません。私は若いので、薄着でも大丈夫だろうと思って、飛び出したのです。ところがその日は、水汲みに並んでいる人が多く、長い列の後ろについた私は、たちまち寒さに震えました。

すると、1人のお婆さんが私に気づきました。列の前の人に声をかけて、寒さに震えている留学生の私が先に水を汲めるようにしてくれたのです。列の前にいた全員が同意してくれたおかげで、私はすぐに水を汲んで部屋に戻ることができました。

4 金銭以外の思考もある

私がキエフの街の店へ買い物に行くと、ウクライナ人の店員はよく、こちらが聞いてもいないのに、この卵や牛乳はいつ入荷したものかを教えてくれます。

その後で「これはもう新鮮ではない。他のものを買いなさい」と、わざわざ勧めてくれるのです。

中国人は(もちろん私も含めてですが)海外に行ったばかりの頃は、それまで本国で「全ての思考が金銭に向く」という教育をさんざん受けてきたため、ものの考え方がそのまま拝金主義で化石化しているのが普通です。

私も当初は、心の中でよくつぶやいていました。「ウクライナ人はなんて愚かなのだろう。なぜ、お金を儲けられないのか」と。

ところが、キエフで始まった私の新たな日常生活は(まことに穏やかな思想改革によって)私の頭にこびりついた「全ての思考が金銭に向く」という価値観を、次々と覆していくのです。「お金ばかりではない。相手への思いやりという考え方があるのだ」と。
(次稿に続く)
(翻訳編集・鳥飼聡)

 

白簡