私の思い出のキエフ「温もりと風格の街」(5)

 

(前稿から続く)

12 あなたを忘れない

私の思い出と、私の手元にある写真のなかの人々の顔には、喜びと安らぎがあふれています。

今は、そのキエフが戦場になりました。
この美しい街で、多数の市民が死ぬなどと誰が思っていたでしょうか。
もとは兄弟といって良いはずのウクライナロシアが悲惨な戦争をするとは、誰が予想できたでしょうか。

私がウクライナを離れてからもう長い時間が経ちますが、懐かしいキエフを振り返り、また現在のウクライナのニュースを目にするにつけ、私の心の中には、激しい嵐が吹き続けています。

私の記憶の多くは、美しい画面に保存されています。
この美しさは私の当初のウクライナに対する印象と一致していますが、ウクライナの現在の姿とは、あまりに深い溝があり、絶望的なほど遠く離れています。しかも、時の流れの中で、誰も過去に戻ることはできません。

 

13 前世からの縁

ウクライナは私の母国ではありません。
ただ私がしばらくの間とどまり、住んだことがあるだけの異郷です。

しかし、今生で出会う全ての人には、前世からの縁があると言います。
彼の地で出会った人々を、私は忘れません。

そのような運命の出会いに対する信頼と知遇は、悲しみで胸がつぶれそうな今の私に、いささかの安寧を与えています。
(了)

(文・白簡/翻訳編集・鳥飼聡)

白簡