午後6時、カフェインが主役になる時間です。
全国のジムで、利用者たちはシェーカーボトルに粉を入れ、夜のトレーニングを乗り切るための最後のエネルギーを求めます。プレワークアウトサプリメント、通称「プレワークアウト」は、エネルギーを高める成分でより良いトレーニングを約束します。
かつてはボディビルダーのためのものでしたが、プレワークアウトはSNS、派手なマーケティング、夜型トレーニングの流行により一般にも広がっています。業界データによると、ジムに通う人の約8割が使用しているといいます。
趣味でトレーニングをしている人たちも、プロのアスリートに倣って使うようになり、状況がより複雑になっています。確かに効果はありますが、果たしてその代償に見合うものなのでしょうか?
プレワークアウトとは?
「爆発的エネルギー」「狂ったような集中力」「パンプ強化」など派手な文句が踊るネオン色の容器の中身は、実際には何なのでしょうか?
プレワークアウトとは、水に溶かして運動前に摂取する粉末状のサプリメントのことです。エネルギーの急上昇、集中力の強化、持久力の向上をもたらす、フィットネス愛好者向けのカフェイン入りカクテルです。
「運動の30~60分前に摂取することで、エネルギー、集中力、疲労感の遅延、筋持久力や筋力の向上といった、トレーニングの質の向上を目的としています」と、メイヨークリニックのスポーツ医学研究者アンドリュー・ジャギム氏は述べています。
定期的な使用と計画的なトレーニングによって、単なるトレーニングよりも筋力や筋肉量の増加が期待できると彼は付け加えています。
ただし、プレワークアウトは万能薬ではありません。
「プレワークアウトは成功への近道ではありません」と、筋肉中心医療を専門とする医師ガブリエル・リオン氏は語っています。「睡眠の代わりにはならず、戦略的な栄養や継続的なトレーニングの代替にもなりません。基盤がしっかりしていなければ、どんなサプリでも効果は出ません。」
スプーン一杯の中身とは?
多くのプレワークアウトには、パフォーマンス向上のための成分が15種類以上も詰め込まれています。主役はカフェインで、エネルギーを提供し、ベータアラニンは疲労を遅らせ、クレアチンは筋力とパワーを高めます。シトルリンや硝酸塩などの血管拡張成分は血流を促進し、トレーニング後の「パンプ」を強化します。一部の製品にはビタミンB群やビタミンCが追加され、他にはチロシンやα-GPCといった精神機能を高めるとされる「ヌートロピクス(脳機能サポート成分)」が含まれています。
しかし、標準的な配合はなく、消費者は数多の選択肢の中で迷うことになりまます。以下は代表的な成分とその特徴:
- カフェイン — よく研究され、効果が確立されている:国際スポーツ栄養学会によると、カフェインは持久力・筋力・スプリント・ジャンプ力のすべてにおいて、小〜中程度の向上効果があるとされている。
- クレアチン — 実績はあるが、量が少ない場合も:長年の研究に裏付けられたクレアチンモノハイドレートは、1日3〜5gの摂取で筋力・パワー・筋量を増加させる。しかし、多くのプレワークアウト製品ではその効果が出るほどの量が含まれていない。
- ベータアラニン、シトルリン、ヌートロピクス —効果は限定的または継続使用が必要:これらの成分は一定の効果があるとされるが、単発使用では効果が薄く、継続的な摂取が求められる。チロシンやテアニンといったヌートロピクスは集中力を高める可能性があるが、刺激物との相互作用については研究がまだ進んでいない。
- 人工甘味料や香料:多くのプレワークアウトにはスクラロースなどの人工甘味料、着色料、あいまいな「ナチュラルフレーバー」が使われている。味や見た目を良くするためだが、これらの長期的な健康影響は不明瞭である。
「スクラロースのような人工甘味料に関するデータは混在していますが、長期的な過剰摂取は腸内環境やインスリン感受性、食欲に影響する可能性があります」とリオン氏は指摘しています。
また、合成着色料や香料の頻繁な使用は「慢性的な炎症や腸内フローラの乱れを引き起こす可能性がある」とも述べており、できるだけ自然由来の原料を使った製品を選ぶべきだといいます。
本当にスプーンの中にあるものとは?(なぜ分かりにくいのか)
スプーン一杯の中身はブランド次第であり、時には何が入っているか分からないこともあります。ある製品は臨床的に裏付けられた量を含んでいますが、単なる「風味付きカフェイン水」のような製品も存在します。
「ラベルが開示されていて透明性のある製品を選ぶべきです」とジャギム氏は述べています。「多くの製品は成分量が不足していたり、『独自ブレンド』として具体的な量が記載されていなかったりします。そのため、必要な成分が十分に入っているか判断するのが難しいのです」
2019年に『Nutrients』に掲載された研究では、売れ筋のプレワークアウト製品のほぼ半数が、成分量を伏せた「独自ブレンド」に依存していたことが明らかになりました。仮に成分が表示されていても、その量が推奨基準を満たしていない場合が多かったのです。例えば、ベータアラニンの平均量は2グラムで、推奨量の半分。クレアチンやシトルリンも同様に不足しているケースが多く、その効果を発揮できない可能性が高いです。
プレワークアウトサプリメントは、規制上グレーゾーンにあります。アメリカでは「栄養補助食品」として扱われ、医薬品とは異なり、発売前にFDA(アメリカ食品医薬品局)の承認を受ける必要がありません。製品の安全性や表示内容の責任はメーカー側にあり、規制は基本的に「事後対応」。つまり、有害事例が報告された場合に限りFDAが介入する仕組みです。新規成分を導入する際にはFDAへの届出義務がありますが、安全性データが一般に公開されることはほとんどありません。
消費者は混沌とした市場に直面しています。多くの製品は刺激物、アミノ酸、ヌートロピクスを組み合わせていますが、研究の多くはカフェインやクレアチンといった単一成分に集中しており、これらを同時に摂取した際の影響については未解明な点が多いです。
「長期的な安全性データが不足している点は懸念されます」とジャギム氏は警告しています。日常的に使用することで、心血管系や認知機能に与えるリスクがある可能性があるといいます。
2021年に『Strength and Conditioning Journal』に掲載されたレビューは、22件の多成分プレワークアウト(MIPS)に関する臨床試験を分析しました。一部では、下半身の筋持久力や上半身のパワー向上といった控えめな効果が認められましたが、ほとんどの結果は決定的ではありませんでした。さらに、ほぼすべての研究が「質が低い」と評価されており、その理由はサンプル数の少なさ、偏り、不透明性の高さにあります。
プレワークアウトに関する科学的エビデンスは、未だに定まっていません。臨床試験の事前登録(透明性の要)も少なく、副作用の報告も稀です。配合成分が製品ごとに大きく異なるため、どの成分が効果的で、どれが危険かを判断するのは難しいです。レビューでは「MIPSの最適な形態や使用戦略については、まだ厳密な検証がなされていない」と結論づけられています。
とはいえ、すべての製品が不透明というわけではありません。中には、成分量をすべて開示し、「独自ブレンド」を一切使用せず、第三者機関の試験を受けた製品もあります。こうしたブランドは、消費者にとって安心できる選択肢となりうるでしょう。
プレワークアウトの潜在的な利点とは?
多くの人にとって、プレワークアウトの魅力はシンプルです。より多くの回数、より多くのエネルギー、より鋭い集中力——その約束は、時に現実となります。
「最もはっきりとした効果は筋持久力の向上です。つまり、『限界まで何回繰り返せるか』という能力が伸びることです」とジャギム氏は述べています。
「さらに、比較的一貫して報告されている効果は、気分・集中力・エネルギー・覚醒度といった『認知面』の向上です」
この「メンタルブースト」は、長い一日の終わりにやる気が下がってしまう時に、特に重要です。カフェインやヌートロピクスは集中力を高める可能性があり、それがプレワークアウトが「夜トレ」の定番となっている一因でもあります。
「フィジカル面での成果は努力次第です。高いレベルのトレーニングを継続して行う人にとっては、最大の恩恵が得られます」とジャギム氏は述べています。
「もし自分を限界近くまで追い込むようなトレーニングをしていなければ、サプリメントやその成分の効果はあまり出ないかもしれません」
いくつかの研究では短期的な効果が確認されています。2024年に『Frontiers in Nutrition』に掲載された試験では、20名のレジスタンストレーニング経験者(男女)が、運動の1時間前にプレワークアウトサプリメントまたはプラセボ(偽薬)を摂取しました。プレワークアウトを摂取したグループは、より多くの反復回数をこなし、より大きな力を発揮し、トレーニングが「楽に感じられた」と結果が出ました。
なお、この研究はプレワークアウト製品「SHIFTED」の製造元が資金提供しています。
ただし、すべてのユーザーが同じ効果を得られるわけではありません。ベータアラニンやクレアチンのような成分は、継続的な摂取が必要です。カフェインのように即効性があるものも、効果は摂取量や個人の感受性によって大きく異なります。
つまり、ほとんどのジム利用者にとって、その効果は「はっきり感じられる」から「ほとんど感じられない」まで幅広いのです。最終的に、効果の大きさは「スプーンの中身」よりも「自分の努力」にかかっているのかもしれません。
プレワークアウトのラベルに書かれていないこと
プレワークアウトは集中力、持久力、出力を高めてくれる——ただし、それにはリスクも伴います。
最大のリスクはカフェインです。多くの製品は1回の摂取で200〜400ミリグラムのカフェインを含んでおり、これはコーヒー2〜4杯分に相当します。FDAは、健康な成人にとってこの量は安全とされていますが、感受性には個人差があります。副作用には、不安感、心拍数の増加、高血圧などが含まれます。さらに、コーヒーやエナジードリンクを追加で摂取すれば、総摂取量が安全ラインを超える可能性もあります。
「カフェインの半減期は平均して約5時間です」とリオン氏は語りました。
「睡眠不足はトレーニング効果を損なう最も早い道です。ですから、カフェインを含むサプリを使う際は、摂取タイミングと量に注意することが重要です」
行動にもリスクがあります。最近SNSで流行している「ドライスクーピング」(水で溶かさずに粉を直接口に入れる行為)は、窒息の危険やカフェインの急速吸収を招き、まれに深刻な心臓障害を引き起こします。
2024年には、健康な25歳男性がドライスクーピング後に心筋梗塞を起こしたケースが報告されました。医師は動脈の詰まりと、激しい運動・未希釈の刺激物の組み合わせが原因と判断しました。彼は一命を取り留めましたが、この出来事はサプリの誤用に対する警告となりました。
習慣化も問題です。「カフェインは依存性があります」とジャギム氏は指摘しています。耐性がつくと、最初の効果を再現するために摂取量を倍増させる人もいます。また、「日課化された行動」は心理的依存にもつながるということです。
本当のパフォーマンスの土台とは?
派手なパッケージに目を奪われがちですが、実際には多くのジム利用者にとって、プレワークアウトは必ずしも必要なものではありません。「一般的なジム利用者であれば、コーヒーだけでも同じような効果を得られる可能性があります」とジャギム氏は語ります。「その方がコストも低く、未知の成分も少ないです」
リオン氏もまた「ほとんどのアクティブな成人にとって、プレワークアウトは必須ではありません」と同意しました。
「高品質のタンパク質、栄養価の高い食事、適切な水分補給、そして十分な回復を優先すれば、体はすでに十分なパフォーマンスを発揮できる状態にあります」
専門家たちは基本を重視します。睡眠、栄養、水分補給、そして継続的な努力です。「もしジムで50%の力しか出していないのなら、サプリを加えても大して意味はありませんし、お金の無駄になるでしょう」とジャギム氏は指摘します。
プレワークアウトを使用する場合は、慎重さが求められます。NSF Internationalなどの第三者機関によって認証された製品を選び、成分の正確性と安全性を確認するのが理想的です。
プレワークアウトを使わずに、気分を高める方法を選ぶ人もいます。「コーヒーや緑茶なら、刺激が穏やかで負担が少ないです」とリオン氏は述べます。
「私はロディオラや朝鮮人参などのアダプトゲンも好んで使います。これらはクラッシュ(急激な疲労)を起こさずに、持久力や集中力をサポートしてくれます」
さらに、ビートルート(ビーツ)、シトルリン、ベータアラニンのような非刺激系成分も、血流を促進し、疲労を軽減する効果があるかもしれません。
BCAA(分岐鎖アミノ酸)やEAA(必須アミノ酸)などのアミノ酸サプリメントを使用する人もいます。これらは典型的なプレワークアウトのように即効性のある刺激は与えませんが、疲労の軽減や持久力の維持に役立つ可能性があります。特に空腹時トレーニングや低炭水化物食でのトレーニング時に効果を発揮します。これらの本領は刺激ではなく、回復と筋肉修復にあります。
プレワークアウトと他の刺激物を併用しないこと、摂取量を守ること、カフェインに敏感な人は特に注意することが重要です。18歳未満の人や持病がある人は使用を避け、必ず医師に相談してから使うことが勧められます。
夕方以降にトレーニングをするなら、ノンカフェインのプレワークアウトを選んだ方が良いかもしれません。「午後2時以降のカフェイン摂取は、睡眠の質や入眠までの時間に影響を与えます」とジャギム氏は警告します。これは回復やパフォーマンスの低下にもつながります。
最終的に、最高のプレワークアウトは容器に入っていないかもしれません。バナナ、サンドイッチ、あるいはお気に入りのプレイリストこそが、それに匹敵する力を持つと言えるでしょう。「良いウォームアップやプレイリストの力を侮ってはいけません。メンタルのスイッチはとても大切です」とリオン氏は言います。
どんな粉末も努力には敵わない。どんなスプーンも「自らジムに行くこと」の代わりにはならないのです。
(翻訳編集 陳武)
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