健康のためにグルテンを避けている多くの人にとって、メニューや店頭でグルテンフリー食品を探すことは、実は不要な苦労かもしれません。というのも、グルテンに反応していると思われている症状の多くは、過敏性腸症候群(IBS)が原因である可能性が高いからです。
医学誌『The Lancet』に掲載された非セリアックグルテン過敏症に関する包括的レビューでは、真の意味でのグルテン過敏症は非常に稀で、そもそも独立した疾患として存在するかどうかも明確ではないとされています。このレビューは、数十年にわたる研究結果をまとめたものです。
診断の難しさ
レビューに含まれた盲検研究では、ある共通した傾向が明らかになりました。非セリアックグルテン過敏症が疑われる人たちは、グルテン、小麦、さらにはプラセボに対しても、ほぼ同じような反応を示していたのです。
「これは、症状の原因がグルテンではなく、別の要因である可能性を示しています」と、メルボルン大学准教授で本レビューの共著者であるジェシカ・ビェシキェルスキ氏は、エポックタイムズのメール取材で述べています。
このレビューは、非セリアックグルテン過敏症の診断がいかに難しいかを強調しています。小麦・ライ麦・大麦に含まれるグルテンによって小腸が損傷される自己免疫疾患であるセリアック病とは異なり、非セリアックグルテン過敏症には確立されたバイオマーカーがありません。そのため、グルテン反応が疑われ、セリアック病と小麦アレルギーを除外した後に行われる「除外診断」になります。
多くの場合、非セリアックグルテン過敏症は自己申告によるもので、研究においても同様です。著者らは、自己申告されたケースのうち、客観的な検査で検証されたものは3%未満であり、さらに検査を行った場合でも、実際に非セリアックグルテン過敏症と判断されるのは30%未満にとどまると指摘しています。
また、非セリアックグルテン過敏症とIBSの重なりも大きな問題です。レビューによると、非セリアックグルテン過敏症が疑われる人の最大80%が、IBSの診断基準を満たしていました。
グルテンを含まない食品でも反応が出るケースや、他の食品不耐性が多く見られることは、神経系の過敏さや心理的要因が関与している可能性を示唆しています。
これらの証拠は腸と脳の密接な関係、いわゆる腸脳相関を示しており、非セリアックグルテン過敏症は、腸脳相互作用障害(機能性運動障害を含む)のカテゴリーに位置づけられています。
グルテン過敏症が疑われる人でも、IBS向けの低FODMAP食によって症状が改善するケースが多く見られます。改善は腸症状に限らず、慢性的な痛みや疲労感、ブレインフォグ、抑うつ気分など、IBSに重なりやすい症状にも及ぶことがあります。FODMAPとは、消化の過程で不調を引き起こしやすい炭水化物群の総称で、低FODMAP食は、IBSの人が自分に合わない食品を特定するために用いられる一時的な除去食です。
「非セリアックグルテン過敏症が独立した疾患なのか、それとも特定の食事トリガーを持つIBS患者の一群なのかは、現時点では明確ではありません」と、著者らは述べています。
レビューでは、非セリアックグルテン過敏症の自己診断が広がっている現状を踏まえ、さらなる研究と診断基準の改善が必要だと結論づけています。
セリアック病が人口の約2%にしか影響しない一方で、グルテンフリー市場は、2033年までに70億ドルから110億ドル規模に拡大すると予測されています。この背景には、グルテンを避けることで減量や腸の健康が促進されるという広範な信念があります。
グルテンフリーの問題点
グルテンフリー製品は価格が高いだけでなく、食物繊維や葉酸、亜鉛・鉄といったミネラルが不足しやすく、結果として栄養不足を招く可能性があります、とビェシキェルスキ氏は指摘します。さらに、過度な食事制限は腸内細菌のバランスを乱し、IBS症状を悪化させたり、食事に対する不安を強めたりすることもあると、彼女は付け加えています。
「非常に多くの人が、実際には必要のないグルテン回避を行っています」と彼女は言います。「症状の本当の原因を理解すれば、不要な食品制限をせず、より自由に食事を楽しみ、適切な対処を受けられるようになります」
腸内微生物叢の変化や中枢神経系での情報処理の異常は、腸脳障害の特徴とされています。こうした調整の乱れにより、消化の過程で神経が痛みの信号を脳に送り、それが特定の食品と結びついて認識されることがあります。
「このレビューで示された考え方は、私自身の臨床経験とも一致しています」と、登録栄養士のウェンディ・バス氏はエポックタイムズに語りました。彼女は、過度な食品制限がクライアントをさらなる過敏のサイクルに陥らせることに気づき、食品過敏へのアプローチを見直したといいます。消化症状を常に監視することで警戒心が強まり、再導入した食品に反応しやすくなるためです。
「食品過敏は非常に複雑で、対処は全身を視野に入れて行う必要があります。体が食品にどう反応するかだけでなく、食品との心理的な関係性、そして外食や特定の人との食事を避けることでストレスが高まるといった社会的要因も考慮すべきです」と彼女は述べています。
どうしたらいいのか?
グルテン過敏症が疑われる場合、まずはセリアック病と小麦アレルギーの検査を受けることが勧められます。「これらの検査は比較的正確で、重篤な免疫性・アレルギー性の原因を除外するのに役立ちます」と、ビェシキェルスキ氏は述べています。
グルテンが原因でないと分かった場合は、全体的にバランスの取れた食事に意識を向けましょう。それでも改善が見られない場合は、管理下で短期間の低FODMAP食を試すため、栄養士に相談することが有用だと彼女は言います。
グルテンを避けると、フルクタンと呼ばれる炭水化物も同時に除去されますが、これは玉ねぎやにんにくにも含まれています。消化不調の原因が特定の炭水化物にある場合、グルテンだけに焦点を当てると、腸粘膜の回復を妨げることがあります。短期的な除去食としての低FODMAPアプローチでは、問題だった食品を段階的に再導入しても、支障なく食べられるケースが多く見られます。
潜在的なストレスへの対処も重要です。ビェシキェルスキ氏の研究チームは現在、低FODMAP食と、トリガー食品を段階的に摂取する暴露療法を比較する国際臨床試験を進めており、腸脳相関の再訓練を目指しています。IBS症状のある人には、参加が勧められています。
恐れや食品回避、過敏になった神経系といった心理的要因は、身体症状の形成に大きく関わっており、軽視すべきではないと、ビェシキェルスキ氏は指摘します。「この発見は、脳と腸の間にある強い相互作用を改めて示しています。私たちの期待が、身体感覚の受け取り方を形づくるのです」
(翻訳編集 日比野真吾)
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