糖分が、がん細胞を増殖させるという話を聞いたことがあるかもしれませんが、それを裏付ける証拠があります。しかし、この話で欠けているのは、今までは糖分が「どのようにして」がんを増殖させるのかというメカニズムを完全に理解できていないことです。4月にCell誌が発表した最近の研究が、乱れる血糖値と不健康な食事が、がんリスクと関連するという新たなメカニズムを明らかにしました。
シンガポール国立大学がん科学研究所で、アショク・ヴェンキタラマン(Ashok Venkitaraman)教授とシンガポール国立大学のシニア研究員であるLi Ren Kong氏が率いたこの研究によると、腫瘍の形成を防ぐ遺伝子を、糖分を分解する際に放出される化学物質が抑制することを発見しました。
この研究は、食生活が、がんのリスクにどのように影響を与えるかについて貴重な発見を提供しました。食事の選択によってそのリスクを減少させる方法を示します。
メチルグリオキサール(MGO)一時的なオフスイッチ
以前は、悪性腫瘍が形成されるまでに、がん予防遺伝子が永遠に非活性化されなければならないと考えていました。しかし、最近の研究では、体がブドウ糖を分解するたびに放出される化学物質メチルグリオキサール(MGO)が、がん予防メカニズムを一時的に止めることがわかりました。
この研究の第一著者であるKong博士は、エポックタイムズに次のように語りました。「糖尿病や肥満の人は、がんリスクが高いとされており、これは社会にとって重大なリスクである。しかし、その確かな原因は依然として議論が必要だ」
「私たちの研究は、がんリスクと食事、そして不健康な食生活から生じる糖尿病など一般的な疾患との関係を説明している」
「内因性で合成される代謝物が、がん予防遺伝子の抑制によって、がん発症の初期サインとなるDNAの欠陥を引き起こすことを発見した」
がん予防遺伝子はDNAを修復し、腫瘍の成長とがん細胞の増殖を抑えるタンパク質を生成する遺伝子です。がん予防遺伝子なかのBRCA2 遺伝子の変異は、主に乳がんや卵巣がん、および他のがん発症リスクの上昇に関連しています。BRCA2 遺伝子のコピーに欠陥がある人は、MGO による DNA 損傷の影響を受けやすくなります。
しかし、この研究では、がんの素因のない人でも、MGOレベルの上昇によりがんを発症するリスクが高まり、血糖値が持続的に上昇すると、基本的にがんリスクが高まることが判明しました。
「この研究は、MGOがBRCA2などの腫瘍抑制因子の機能を阻害し、コントロール不能の不健康な食生活で糖尿病を繰り返すと、時間の経過とともに、がんリスクを増加させる可能性がある」とKong博士は述べています。
メチルグリオキサール(MGO)とがんの関係
MGO(メチルグリオキサール)は、主にブドウ糖と果糖を分解しエネルギーを作るために細胞が作る副産物であり、ブドウ糖の代謝物です。MGOは一時的にBRCA2タンパク質を破壊します。その結果、細胞内のタンパク質のレベルを低下させ、腫瘍形成を防ぐ能力を抑制します。体が分解する糖の量が増えるほど、この化学物質のレベルは高くなり、悪性腫瘍の発症リスクは高くなります。
「活発な代謝をするがん細胞ではMGOの蓄積が見られる」「不健康な食生活が、MGOの濃度を通常より高める」とKong博士は述べました。この研究で発見したことは、糖尿病、肥満、また不健康な食生活のがんリスクの説明に役立ちます。
MGOを単独で測定するのは困難です。増加レベルの早期検出は、過去 2 ~ 3 か月の平均血糖値を測定し、定期的な HbA1C 血液検査が必要になります。この検査は通常糖尿病の診断に使用されますが、新しい研究では、がん発症の早期警告サインを検出します。
「糖尿病予備群/糖尿病患者の場合、高いGMO値は通常、食事、運動、または薬によってコントロールできる。がんの高いリスクを抱える家族、例えばBRCA2変異を持つ人に対しても同様である」とKong博士は述べました。
さらなる研究が必要ですが、この研究の結果はがんリスクを軽減する新しい方法への扉を開きました。
「私たちの研究は患者ではなく、細胞のモデルで行われたものであり、この基準に基づいてリスクを軽減する具体的な治療案は時期尚早だ。しかし、この研究から得られた新しい知識は、将来の研究の方向性に影響を与え、最終的にがん予防に影響を与えるでしょう」
「たとえば、砂糖や精製された炭水化物を多く含む不健康な食事は、血糖値を急上昇させる。現在、これらのつながりを見出すために、より大規模ながんコホート(同じ属性)を調査している」
食事とがんの関係
Opt Healthの医学ディレクターであるグラハム・シンプソン博士は、エポックタイムズに語りました。「銃に弾を込めるのは遺伝子だが、引き金を引くのは個人のライフスタイルである。口にする食べ物は、すべて選択だ。長寿遺伝子を活性化するか、自滅遺伝子を活性化するかはあなた次第。したがって、がんはほとんど個人の食事によって自己誘発されるのだ」
ケンブリッジ大学出版局によって2018年に発表された研究では、砂糖入りのソフトドリンクの摂取量が多いほど、肥満関連のがんリスクが高まると示されました。2020年にアメリカ臨床栄養学会誌に発表された研究によれば、糖分はがん、特に乳がんのリスク要因となると結論づけています。がん細胞は糖分を非常に欲しており、通常の細胞の200倍の速さで消耗します。
がんリスクを減らすための健康的な食事の選択
がんリスクを減らすための最良の食事療法について、結論はまだ得られておらずさらなる研究が必要です。しかし、MGO に関する Cellの研究結果は、がんリスクを軽減する手段として糖分摂取量を減らすことが有効であると裏付けています。1月に、「Diabetes&Metabolism」誌が発表した研究によると、地中海式の食事スタイルがMGOレベルの低下に役立つとされています。
2023年にCell誌が発表した研究では、ケトン食はマウスのがん細胞の増殖を遅らせる効果があることから、がん患者にとって有効な栄養介入となると結論付けられました。一方、2022年に「JAMA Oncology」誌で発表されたレビューでは、植物を多く含む食事ががんリスクの軽減に効果があることを示しています。
シンプソン博士は、細胞の健康のために、リアルフードと低炭水化物の摂取が重要であると強調します。「ミトコンドリアは、体が持っている最も重要なシグナリング伝達分子であり、エネルギーを生成するオルガネラ(細胞内小器官)である。野菜、良質なタンパク質、脂肪、魚、卵、ヨーグルトなどをたくさん食べましょう」
「たくさんの緑黄色野菜、いくつかの果物、自然に栽培され、加工されていないものを食べましょう」
(翻訳編集:季千里)
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