真夏になると、多くの人が冷房の効いた部屋にこもり、冷たい飲み物や冷やし中華を楽しみ、まるで「人工的な秋」の中にいるような気分で「涼しくて最高!」と思っていることでしょう。
現代の生活習慣は自然の理に逆らう行為
しかし中医学の観点から見ると、これはまさに「自然の理に逆らう行為」であり、肺を傷つけ、免疫力を低下させる原因となります。その結果、秋になるとウイルスや細菌に対抗できず、肺に関わる不調や病気が次々と襲ってくるのです。では、どうすれば感染症から身を守れるのでしょうか。
『黄帝内経・四気調神大論』には、「春に生じ、夏に長じ、秋に収め、冬に蔵す。これが天の道である」とあります。
夏は自然界の陽気が最も旺盛な季節で、五行では「火」に属し、火のエネルギーが気候を支配します。人体もまた小宇宙であり、同様に火=陽気が体の活動を主導します。陽気は体表に浮き出て、冬とは対照的に腎に蓄えるのではなく、外へ発散させて活動するべき時期なのです。だからこそ、体は自然に発汗して体温を調整し、余分な熱を体外へ排出することで、過度な熱による心肺の負担を防ぐ必要があるのです。
ところが、1日中エアコンの中にいて冷たい飲食を続けると、まるで沸騰した鍋にフタをして蒸気を閉じ込めてしまうようなもので、体内の熱は溜まる一方となり、そのこもった熱が体に害を及ぼすのです。
陽の熱がこもると、まず肺が影響を受ける
五行で夏は「火」、火は「心」に通じますが、この火気が発散されるための「出口」が必要で、それが「肺」なのです。
肺は皮膚と関わり、呼吸を司り、最も「こもった熱」に弱い器官です。冷房を入れると毛穴が閉じてしまい、汗と一緒に陽気が外へ出られなくなります。するとその熱は肺に向かって発散され、肺が火気にさらされてしまいます。
外見上は涼しく快適に見えても、実際には体内の熱が肺にこもっており、時間が経つにつれて、のどの渇き、鼻づまり、痰の増加、咳などの症状が現れるのです。
肺は「繊細な臓器」であり、特に熱に弱い性質を持っています。肺の気が傷つくと、呼吸器の問題だけでなく、「衛気」と呼ばれる体表を守るエネルギー、すなわち皮膚を温め、寒さを防ぎ、ウイルスや細菌の侵入を防ぐ力——現代医学でいうところの「免疫力」にも影響を及ぼします。
肺が弱ると「衛気」が不足し、免疫力が低下する
中医学では「肺は全身の気をつかさどる」「肺は華蓋(かがい)」といい、肺は全身を守り、外からの邪気(ウイルスや寒気など)を防ぐ防壁のような役割を担っていると考えます。
肺の気が充実していれば、「衛気(えき)」がしっかりと体表を守り、風邪やウイルスの侵入を防げるため、自然と免疫力も高まります。しかし、この衛気は陽気の一種であり、夜になると体内に戻る性質があります。そうでなければ、人はいつまでも興奮状態が続いて眠れず、いわゆる「陽が陰に入らない」状態——つまり太陽が沈まないような状況になってしまいます。そのため、夜間は陽気を体内に戻して、自然に眠りにつくことが必要です。
ところが、夜は体表の防御力が最も弱まる時間帯でもあるため、寝ている間に毛穴からウイルスや寒気が侵入しやすくなります。ですから、寝るときに風が直接当たらないようにすることが重要です。エアコンの風は弱く設定し、冷やしすぎないこと。肩や背中、首、お腹に風が当たらないよう注意しましょう。特にエアコンの下では、襟付きの長袖パジャマを着て眠ることが大切です。そうしないと、風邪をひくリスクが大きくなります。
夏は本来、体の熱を発散すべき時期です。けれども、冷房の効いた秋のような冷えた環境にいると、体内に熱がこもり、肺の気を傷つけてしまいます。すると、秋の乾燥した風にさらされると、体表の衛気が弱くなっているため、ウイルスの侵入を防ぎきれず、風邪、鼻炎、喘息が出やすくなります。ひどい場合は、インフルエンザの季節になると、「どんなウイルスも寄せつけなかった」人が「何にでも感染しやすい」体になってしまうのです。
ですから、秋を健康に過ごすためには、肺を養うことが大切ですが、それは秋になってからではなく、夏の間に始めなければなりません。
毛穴が冷えて開かないと腎の気まで消耗してしまう
肺以外にも、実はひそかに体を助けてくれている臓器があります。それが「腎」です。
夏は本来、腎の陽気が休む時期であり、身体の後方で静かにしているべきです。
しかし、冷房によって毛穴が閉じてしまい、体内の熱が外に出られなくなると、体はやむなく腎を使って尿として熱や毒素を排出しようとします。これにより、腎の陽気が無駄に消耗されてしまうのです。
中医学では、「腎は気を納める」「肺は呼吸をつかさどる」とされ、肺が取り込んだ新鮮な空気を、腎の気が受け止め、納めてこそ、呼吸はスムーズに行えます。
ところが、夏に腎の陽気を消耗してしまうと、秋になり肺が活動を主導する季節になると、「気を収めて下げる」役目がうまくいかず、腎が受け止められなくなります。その結果、「呼気が多く吸気が少ない」「咳が止まらない」といった「虚喘(きょぜん)」の症状が出るのです。これが中医学でいう「肺腎両虚(はいじんりょうきょ)」という状態で、秋になると必ず体調を崩す原因になります。
現代人の「冷房依存」 ほどよい養生が大切
「夏は汗をかくべき」「冷房は控えめに」と聞くと、多くの人は不安になるかもしれません。
「冷房を使わなければ熱中症になってしまう!」
「少し動いただけで息が切れる!」
でも実際には、これは「暑さに弱い」のではなく、体がすでに冷房に頼るようになってしまい、本来持っている寒暖のバランスを調整する力が退化しているのです。
陽気を発散するために適度に汗をかくことは、「滝のような汗をかく」「汗だくになる」といった過剰なものではありません。
中医学で言う「適度な発汗」とは、ごく軽く汗ばむ程度です。たとえば、朝や夕方の直射日光を避けた散歩、ぬるめのお湯での足湯、温水での入浴、ゆったりとしたストレッチなど、いずれも穏やかに陽気を発散させる良い方法です。
冷房を完全に使ってはいけないというわけではなく、「冷やしすぎず、適度に使う」ことが大切です。室温は26〜28℃に保ち、直接風が当たらないようにし、就寝時は腹部や肩・首まわりを軽く保温しましょう。服装はゆったりと通気性の良いものを選び、汗をかいた後はすぐに拭き取り、衣服を着替えるようにしてください。
こうして少しずつ体を整えていくことで、本来の「体温調節力」がゆっくりと戻ってくるのです。
食事でも陽気を養い、冷えと湿気から守る
夏の食事も「温かく巡らせる」「潤しながら冷やしすぎない」「重くなく、あっさりと」がポイントです。
おすすめの食材は以下の通りです:
- 清熱解暑(暑さを鎮め、熱を取る):冬瓜、トマト、緑豆春雨、れんこん、ごぼう、昆布、苦瓜、ブロッコリー、レモン、ミョウガ、ミントなど。体を冷やしすぎず、余分な熱を取ってくれます。
- 潤肺養陰(肺を潤し陰分を養う):白きくらげ、ユリ根、豆腐、白菜、キャベツ、梨、キウイ、バナナ、スイカ、麦門冬(ばくもんどう)、沙参(しゃじん)など。肺の潤いを保ち、肺の健康を守ります。
- 健脾去湿(脾を強め、湿気を取り除く):山芋、大根、はとむぎ、小豆、香菜(パクチー)、紫蘇の葉、ピーマン、玉ねぎ、陳皮(乾燥ミカンの皮)など。湿気による不調を防ぎ、脾の働きを助けます。
2025年は「木火旺」の蛇年 肺を潤し熱を防ぐことが大切
2025年は「乙巳(きのとみ)」の年であり、五行では「木」と「火」の要素が強まる年です。そのため、風や熱の気が盛んになり、夏の暑さも例年より厳しくなる傾向があります。「火」は「金(肺)」を克するとされ、肺は五行で「金」に属するため、火が盛んになると肺の働きが弱まり、呼吸器系の不調が起こりやすくなります。
とくに注意が必要なのは、喘息、鼻炎、慢性的な咳など呼吸器に基礎疾患がある方、高齢者や子ども、体力が弱く病気にかかりやすい方、また普段から冷たい飲み物を好んだり、長時間エアコンの中で過ごしたり、生ものや冷たい食べ物を多く摂る習慣のある方です。こうした方々は、夏が本格化する前からしっかりと養生し、陽気を補い、肺を守る準備をしておくことが大切です。
まとめ:時に順じて陽気を養えば、秋も健康に過ごせる
『黄帝内経』にはこう記されています:「春夏は陽を養い、秋冬は陰を養う。天の時に逆らわず、過労せずとも自然と健康になる」
「養う」とは、過不足なく調えることを意味します。陰陽のバランスを保ち、偏らず中庸を保つことが中医学の本質です。季節の流れに逆らわず、自然に従って陽気を調整し、適度に発散させることで、五臓六腑が過剰に働くことなく、体は自然と健康を保てるのです。
私たちが暮らす日本は、海洋性の気候で湿気と暑さが強くなりがちです。もし夏に汗をかくことを避けると陽気を損ない、冷たいものを摂りすぎて肺を冷やしてしまうと、秋には咳がなかなか治らず、さらには体全体の免疫力まで静かに蝕まれてしまいます。
だからこそ、今からできることを始めましょう。
陽気がきちんと発散され、肺がのびやかに機能し、脾胃が冷えから守られ、腎の気がしっかり保たれるように。
優しく穏やかな養生、適度な発汗、自然な食事を心がければ、「冷え」によって体を損なうことのない夏を過ごせます。そして、肺が潤い、咳のない穏やかな秋を迎えることができるのです。
(翻訳編集 華山律)
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