代謝の健康は、まさに私たちの身体を動かすエンジンです。腸や肝臓の働きから、スクリーンタイムや日光の取り方に至るまで、しなやかで持続的な健康を支える鍵を探ります。
腸内細菌のバランスが崩れると、腸壁の防御機能が弱まり、毒素が体内に侵入して慢性的な炎症を引き起こします。
実は腸は、自ら再構築しながら代謝を高める力を持っています。食べ物を分解するだけでなく、腸内にすむ数兆個の微生物は、いわば「第二の消化器官」として働き、化学信号を通じてエネルギー代謝や炎症、インスリンの働きに影響を与えています。そのため、腸内環境が乱れると、これらのプロセスが妨げられ、体重の増加や慢性疲労、さらには生活習慣病のリスクを高めてしまうのです。
「私たちの腸は非常に柔軟で、わずか2週間ほどでその組成を変えることができるという研究結果もあります」と、機能性栄養士で腸代謝の研究者であるアドリアーノ・ドス・サントス氏はエポックタイムズの取材に語りました。
腸はどのように代謝を促すのか
ドス・サントス氏が主導した研究は、2024年に『Nutrients』誌に発表された体系的レビューで、腸内フローラとメタボリックシンドロームの関係を調べた26の研究を分析しました。メタボリックシンドロームとは、糖尿病や異常なコレステロール値などを含む代謝系の異常を表す総称です。研究の結果、食べるものが腸内細菌に直接影響し、その選択が代謝の健康を助けるか、あるいは損なうかを左右することが明らかになりました。
具体的には、人間の食事は腸内細菌の構成の少なくとも20%に影響を及ぼすと考えられています。また、メタボリックシンドロームの患者では、有害な細菌代謝が「西洋型食(高脂肪・高糖質の食事)」と密接に関連しており、そのような食生活が特定の細菌の増殖を促すことが確認されています。
ドス・サントス氏は、腸内微生物群の複雑さと重要性を強調し、「腸内細菌は私たちの代謝そのものを積極的に形づくっている」と述べています。
健康な腸内細菌は、体が消化できない複雑な炭水化物や食物繊維を分解し、短鎖脂肪酸(とくに酪酸)と呼ばれる有益な物質を生成します。これらの物質は大腸上皮細胞のエネルギー源となり、すい臓にインスリンの分泌を促す信号を送り、血糖値を安定させます。さらに短鎖脂肪酸は腸壁の受容体に結合し、GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)などのホルモンを分泌させて、インスリン反応を微調整しながら食欲や満腹感にも影響を与えるのです。
「腸内の微生物群は、体が脂肪をどのように蓄え、エネルギーをどう使うかを左右します」とドス・サントス氏は説明します。
さらに腸は、栄養代謝だけでなく炎症の調節にも深く関わっています。腸内環境の乱れは腸壁を傷つけ、毒素や炎症性物質が血液中に漏れ出し、慢性的で軽度ながら全身に広がる炎症を引き起こします。
そして、腸内細菌は食欲と満腹感を調整するホルモン、グレリンやレプチンにも影響を与えます。あるタイプの細菌は「痩せ体質」と関連し、別のタイプは「肥満」と関係しており、腸内環境がそのまま食欲や食事量に影響を及ぼしているのです。
あなたの腸の状態をどう評価するか
腸の健康を知るための最大の手がかりは、実は「食欲」にあります。
「もし特定の食べ物をどうしても食べたくなるとしたら、それは腸内細菌のバランスが崩れているサインです」と、腸内微生物の検査を専門とする登録栄養士マイケル・ギドリー氏はエポックタイムズに述べました。
ギドリー氏によると、腸内で優勢になっている細菌、たとえばカンジダ菌のような微生物が過剰に増えると、迷走神経を刺激して脳に信号を送り、「あの食べ物を食べたい!」という衝動を引き起こします。
「たとえば『今すぐ車で出かけてドーナツを買ってこよう』という感じです」と彼は笑います。
一方で、腸内細菌が健全に保たれている人は、食事によって自然に満足でき、常にお菓子や間食を欲しがるようなことはありません。頻繁な間食は血糖値を上げ続け、糖尿病のリスクを高めてしまう恐れがあります。
「1日2〜3回のバランスの取れた食事をして、健康的な食品を摂り、消化して腸内細菌を養う、それが正常な腸の働きなんです」とギドリー氏は言います。「そうすれば食への強い欲求もなく、エネルギーに満ち、気分もよく、夜の睡眠の質も高まります」
腸の健康のためには、精製度の高い食品や超加工食品を避け、できるだけ自然に近い「全体食」を中心にすることが大切です。
「こうした改善は決して難しいことではありません。鍵となるのは、まず腸内細菌を立て直すことです」と彼は言います。
腸と代謝の健康を支えるために
「食べないほうがいいもの」に関して、2025年2月に『Nutrients』誌で発表された研究によると、超加工食品は腸内の微生物多様性を減らし、炎症を増加させることで慢性疾患を引き起こすことがわかっています。そのため、研究者たちは「栄養豊富で最小限に加工された食品」への移行を強く推奨しています。
また、食生活が腸内環境をどのように形づくるかを調べた研究では、週に30種類以上の植物性食品を食べる人は、10種類以下しか食べない人に比べて腸内細菌の多様性が明らかに高いことが示されました。これは、腸内細菌を養うための重要な栄養素である「食物繊維」による効果だと考えられています。
「私たちが今もっとも注目すべきは、食物繊維の大切さです」と、腸代謝研究者のアドリアーノ・ドス・サントス氏は語ります。
彼は、多様な野菜・果物・全粒穀物・豆類を積極的に摂ることを勧めています。「こうした食物繊維は、有用な細菌のエサとなり、体内の炎症反応を減らす助けをしてくれるのです」
1日に少なくとも5〜7種類の野菜と果物を食べることを目標にしましょう。たとえば朝食にブルーベリー、間食にニンジン、昼食にミックスサラダ、午後にオレンジ、夕食にはブロッコリー、このように多彩な食材を取り入れることで、自然と腸内の多様性が高まります。
ドス・サントス氏によれば、腸内バランスを整える第一歩は「自分の体がどの種類・どの量の食物繊維を受け入れられるかを知ること」です。そして少しずつ摂取量を増やし、1日 25 〜 30g を目標にすると良いそうです。たとえばサラダに豆類を加える、白米をキヌアに置き換える、果物を1品多く取り入れるなど、ゆるやかな変化を積み重ねていくことが理想的です。急激な変化は、ガスや腹部の張り、けいれんを引き起こす場合があるため注意が必要です。
また、彼がすすめる重要なポイントは「栄養価の高い食品でお皿を満たす」ことです。
「全粒穀物、豆類、キヌア、焼き野菜、そして良質なたんぱく質でプレートを満たしましょう」と彼は提案します。
発酵食品も腸と代謝を整える有効な助けになります。2021年に『Cell』誌に発表された研究では、10週間にわたってヨーグルト、ケフィア、発酵チーズ、キムチ、コンブチャなどの発酵食品を継続的に摂取した人々の腸内で、微生物の多様性が大幅に増加し、2型糖尿病やメタボリックシンドロームに関わる19種類の炎症性タンパク質のレベルが低下したことが報告されています。
食事が腸の健康の基盤ですが、近年の研究ではそれ以外のアプローチも注目されています。2024年に『Gut Microbes』誌で発表された研究によると、糞便移植(健康なドナーの腸内細菌を移植する治療法)によって、腸内環境が改善し、インスリン感受性が高まることが確認されました。これは将来的な個別化医療への可能性を示唆しています。
ドス・サントス氏は、サプリメントよりもまず「食べ物から始めるアプローチ」を推奨していますが、もしプロバイオティクスを利用する場合は、「菌株の多様性が豊富な製品を選ぶこと」が大切だといいます。とくにラクトバチルス属とビフィドバクテリウム属の菌株が多く含まれるものが望ましいとのことです。
糖尿病などの特定の疾患がある人は、医療専門家の指導のもとで、目的に合わせたプロバイオティクスを取り入れるのが安全です。
また、重度の腸トラブルを抱えている人には、ギドリー氏は少量から始める発酵食品の摂取をすすめています。最初はザワークラウトやキムチなどの発酵野菜をごく少量摂取し、体を慣らしながら徐々に量や種類を増やしていくのが理想的です。消化器系に負担をかけず、無理のないペースで腸を整えることができます。
「多くの人は『最新の治療法』に頼ろうとしますが、実際の解決策はもっとシンプルなんです」とギドリー氏は言います。「バランスの取れた食事を心がけ、水分をしっかりとり、ストレスを管理し、よく眠り、適度に運動し、屋外で自然の光を浴びる。それが腸の健康を取り戻す基本です」
(翻訳編集 華山律)
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