リンダさんは更年期に入ってから、ほてりや睡眠の問題に加え、持続的なお腹の張りや疲労感に悩まされるようになりました。腸内微生物の検査を受けたところ、小腸で有害な細菌が過剰に増えていることがわかりました。
心臓専門医のウィリアム・デイヴィス医師は、こうした傾向が更年期以降、特に高齢の女性で増えていると指摘します。「年齢を重ねるにつれ、女性の腸内細菌叢はしばしば好ましくない変化を起こしやすくなり、それが炎症やホルモン代謝、さらにはがんリスクにまで大きな影響を及ぼします」
腸内微生物:隠れた生態系とがんとのつながり
腸は数兆もの微生物が共生する巨大な生態系で、消化、栄養吸収、免疫の調整、そして腸壁の保護に深く関わっています。しかし、現代の生活習慣(加工食品、保存料、抗生物質、グリホサート、慢性的なストレスなど)が、この繊細なバランスを徐々に崩しつつあります。
その代表的な変化の一つが、変形菌門の異常増殖です。これは糞便汚染や炎症と関係し、本来は大腸に存在する細菌が小腸へ入り込むと「小腸内細菌過剰増殖」を引き起こします。その結果、慢性的で軽度の炎症が生じ、一部のがんリスクを高める可能性があります。
腸内微生物はどのようにがんリスクに影響するのか
デイヴィス医師はこう述べています。「がんのリスクは遺伝だけでなく、体内に住む微生物とも密接に関係しています」
内毒素血症が炎症を引き起こす:
糞便由来の細菌が小腸で過剰に増殖し、死滅すると、内毒素(エンドトキシン)が血液中に放出されます。これが慢性的な炎症や組織の損傷を招きます。デイヴィス医師はこれを「体内でくすぶり続ける火種を灯すようなもの」と表現し、老化を早め、がんリスクを押し上げる要因になると説明しています。
有害なエストロゲン代謝:
研究では、乳がん患者の多くに腸内細菌の乱れや内毒素の上昇がみられることが指摘されています。有害な菌が産生する β-グルクロニダーゼは、体内で排出準備が整った「結合型エストロゲン」を再び活性化させ、刺激性の強い形に変えてしまいます。これが乳がん細胞の増殖を促し、更年期以降の乳がんリスク上昇につながる重要なメカニズムの一つと考えられています。
腸内細菌の乱れとその他のがんとの関係
乳がんは代表的な例ですが、腸内細菌のバランスが崩れる影響はそれだけに留まりません。
大腸・直腸がん:フソバクテリウム・ヌクレアタムなどの口腔内細菌が大腸へ移動し、腫瘍の形成を促すことがあります。
子宮内膜がん・子宮がん:エストロゲン代謝の異常が、ホルモンに敏感な組織を刺激します。
全身性の炎症:内毒素血症は、腫瘍が育ちやすい環境をつくります。
現代の生活習慣はどのように腸を傷つけるのか
便利な食生活や化学物質の使用が、腸内細菌叢に悪影響を与えています。
超加工食品:ビスケットや冷凍食品などに含まれる乳化剤(ポリソルベート80など)は腸の粘液層を薄くし、有害菌が増えやすくなります。
保存料(BHT、BHA):抗菌作用によって有益な細菌まで殺してしまいます。
環境毒素:残留性が高い化学物質はホルモンのバランスを乱し、除草剤のグリホサートは善玉菌を損ない、胃酸を抑える薬(H2ブロッカー)は胃酸を低下させて口腔内細菌が小腸で増殖しやすくなります。
腸のバリアを再構築する4つの戦略
1. 有益な細菌を取り戻す:
ロイテリ菌やガセリ菌などの有用な細菌は、本来体内に存在していますが、特定の食品やサプリメント、プロバイオティクス製剤で補うこともできます。これらの菌株は専用のカプセルや粉末のほか、ヨーグルト、ケフィア、ザワークラウト、発酵乳製品などにも少量含まれ、有害菌の増殖を抑える助けになります。
2. 善玉菌にエサを与える:
イヌリン、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ペクチンなどのプレバイオティクス繊維は、有益な細菌の成長を助け、腸のバリア機能を強化します。
3. 微生物を傷つける要因を減らす:
保存料、乳化剤、超加工食品、グリホサートなどの環境毒素を控えることで、腸内の生態系が回復しやすくなります。
4. 腸のバリアを修復する:
健康な粘膜層は内毒素血症を防ぐ重要な盾になります。ヒアルロン酸(動物の皮や内臓に含まれ、サプリとしても摂取可能)や、アッカーマンシア属のムシニフィラ菌などの有益な微生物は、このバリア機能の修復を助けます。
新たな視点:口腔から腸までつながるがん予防のルート
デイヴィス医師は、体の各システムは互いに独立しているわけではないと強調します。「口腔の健康は、がん予防と密接につながっています。特定の口腔内病原菌は腸に移動し、慢性炎症を引き起こすことがあります」
リンダさんの場合、腸内バランスを整えた後、お腹の張りや疲労が大きく改善し、炎症の指標も下がりました。
「腸は単なる消化器官ではありません」とデイヴィス医師は言います。「腸はあなたを守る最前線です。腸を大切にすることは、がんから身を守ることにもつながるのです」
(翻訳編集 華山律)
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