CAR-T細胞療法に関連する稀ながんで患者が死亡―リスクとは?

最近発表された『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』の症例報告によると、ある患者がCAR-T細胞療法を受けた1か月後に、非常に稀で致命的な血液がんを発症したことが確認されました。

CAR-T細胞療法とは、患者の免疫細胞に遺伝子操作を行い、がん細胞と戦う能力を強化する先進的な治療法です。しかし、今回の報告では、このT細胞リンパ腫がCAR-T細胞療法そのものの直接的な原因ではないとされています。それでもなお、研究の進展に伴い、副作用や二次がんのリスクに対する懸念が高まっています。

今回の患者には「クローン性造血」という状態が確認されていました。これは、血液幹細胞の一部がDNA変異を起こし、通常よりも多く増殖する現象で、加齢とともに見られることが多いものです。クローン性造血自体はがんではありませんが、がんのリスクを増加させる可能性があります。今回のケースでは、患者が治療を受ける前から異常な細胞が存在しており、その一部がCAR-T細胞製造の過程で使用されたことがわかりました。

デュッセルドルフ大学病院の血液幹細胞移植および細胞療法部門の責任者で、今回の研究の主任研究者であるグイド・コッベ医師は、「がんは患者の体内にもともと存在しており、CAR-T細胞療法の遺伝子操作がそれを進行させた可能性がある」と説明しています。現在では、CAR-T細胞を製造する際にクローン性造血がスクリーニングされることが一般的になりつつあります。

 

CAR-T細胞療法に関連する稀な二次がん

CAR-T細胞療法は、他の治療法で効果が見られなかった患者に対して、しばしば最後の手段として用いられる治療法です。デュッセルドルフ大学病院のグイド・コッベ医師は、「この患者は長年にわたり治療を受けていた方で、CAR-T細胞療法での成功を非常に喜んでいました」と述べています。

しかし、CAR-T細胞の投与から2か月後、患者の状態は急速に悪化し、腸からの大量出血による失血で亡くなりました。コッベ医師は、「血液中に、通常とは異なる異常な変化を示すT細胞が異常に多く存在していることが確認されました」と説明しています。

この患者は、神経系に影響を与える血液がんの治療を受けており、再発したがんに対してCAR-T細胞療法が行われました。治療の初期段階では成功し、患者自身の免疫細胞を改変したCAR-T細胞がB細胞性リンパ腫を攻撃し、輸注から32日目には「完全寛解」が達成されました。

しかし、6週間後、がん自体は寛解状態にあったものの、医療チームは患者の血液中に循環するT細胞の異常な増加を観察しました。最初のピーク後、通常ならば安定するはずのT細胞が、予想外の第二のピークを迎え、その後も安定せず異常に増加していました。

最終的に患者は、二次性T細胞がんを発症し、投与から71日後に亡くなりました。このがん細胞の大部分は、遺伝子改変されたCAR-T細胞であり、通常の健康な細胞に見られるCD4およびCD8という重要なマーカーが欠けていたことが、異常増殖のさらなる証拠となっていました。

 

原因の追跡

研究者たちは、患者のがん化したT細胞を詳細に分析した結果、DNMT3A遺伝子に1つ、TET2遺伝子に2つのDNA変異を発見しました。これらの変異は、T細胞をがん化させる要因として知られており、クローン性造血を持つ患者によく見られるものだと、グイド・コッベ医師は述べています。

さらに、研究者たちは、CAR-T細胞療法がこれらの変異を引き起こした可能性があるかを調べるため、血液のすべての細胞を生み出す幹細胞を分析しました。治療を開始する前に採取されたサンプルを含め、さまざまな段階での血液サンプルを解析したところ、これらの遺伝子変異はCAR-T細胞療法が行われる前からすでに存在していたことが明らかになりました。

CAR-T細胞は、体内に投与された後、がんと戦うために増殖するよう設計されています。しかし、この過程で、もしCAR-T細胞にがん抑制に関与する遺伝子の変異が含まれていた場合、増殖するうちにがん細胞へと進化するリスクがあることが指摘されています。

最終的に研究者たちは、T細胞リンパ腫の発生源を追跡し、1つのがん化したT細胞からこの二次がんが発生したことを確認しました。

 

CAR-T細胞療法のリスクはまだ不明確

最近、CAR-T細胞療法を受けた後に二次がんを発症するケースが報告されていますが、現時点ではこの治療法とがん発症の因果関係は確認されておらず、関連性が示唆されている段階です。研究者たちは、引き続き慎重に調査を進めています。

腫瘍専門医で血液学者でもあるダニエル・ランダウ医師は、『エポックタイムズ』へのメールで「CAR-Tの基本的な考え方は、化学療法の代わりに免疫細胞を‘再プログラム’してがん細胞を認識させ、攻撃させることです」と説明しています。CAR-T細胞療法では、患者のT細胞を採取し、実験室でウイルスを使ってがんと戦う遺伝子をT細胞に挿入し、それを増殖させてから患者に戻すことで、がん細胞と戦わせる仕組みです。

しかし、このプロセスががん発症のリスクを高める可能性についても懸念されています。CAR遺伝子をT細胞に挿入する際、他の重要な遺伝子が誤って破壊され、T細胞が制御不能に増殖してがん化するリスクが理論上存在するのです。

グイド・コッベ医師は、「この技術が悪性変化の原因となる可能性は完全には否定されていませんが、今のところあくまで理論的なものであり、現実には確認されていません」と述べています。現時点では、CAR遺伝子の挿入が直接的にCAR-T細胞リンパ腫を引き起こしたという事例は確認されておらず、さらなる研究が必要です。ただし、この技術の大きな利点が損なわれることはないとされています。

2023年11月、米国食品医薬品局(FDA)は、CAR-T細胞療法を受けた複数の患者がT細胞リンパ腫を発症したことを報告し、このリスクが現在承認されているすべてのBCMA(B細胞成熟抗原)およびCD19を標的とした遺伝子改変型の自家CAR-T細胞療法に適用されると発表しました。これには、遺伝子を組み込むベクターを使用する治療法も含まれます。

CAR-T細胞療法に伴う二次がんの発生率は、まだはっきりしていませんが、非常に稀であると考えられています。一部の研究では、2017年のCAR-T細胞療法の承認以来、二次がんの発症は5%未満の症例に留まっており、T細胞のがん化は1%未満とされています。ただし、すべての症例で遺伝子解析が行われているわけではないため、実際の発生率は過小評価されている可能性があります。

 

今後の展望と考察

クローン性造血を持つ患者は、特にT細胞リンパ腫のような二次がんを発症するリスクが高い可能性があると、グイド・コッベ医師は指摘しています。特に、T細胞内に重要ながん関連の遺伝子変異が高レベルで存在する場合、そのリスクはさらに高まるとされています。

また、年齢や過去の治療歴もクローン性造血のリスク要因であり、長期にわたって複数回のがん治療を受けた患者では、クローン性造血の可能性が高まることが懸念されています。ただし、これらの関連性を完全に確認するためには、さらなる研究が必要です。

一方で、腫瘍専門医のダニエル・ランダウ医師は、CAR-T細胞療法が他のがんを引き起こすリスクについて異なる視点を示しています。ランダウ医師は、「進行がんの患者、特に複数の治療をすでに受けている方々は、もともと他のがんを発症するリスクが高いです」と述べています。

化学療法はDNAを損傷させることで効果を発揮しますが、その損傷が将来的に新たながんの発症リスクを高める可能性があります。したがって、すでに二次がんのリスクを抱えている患者が多い中で、CAR-T細胞療法がどの程度そのリスクに関与しているかはまだ明確ではないとしています。

こうした懸念があるにもかかわらず、コッベ医師は「現時点では、CAR-T細胞療法の利点が潜在的なリスクをはるかに上回っている」と強調しています。

唯一、このリスクを完全に回避する方法としては、クローン性造血を持つ患者をCAR-T細胞療法の対象から除外することが考えられます。しかし、二次がんの発症が稀であることや、悪性疾患を抱える患者にとっての治療効果の大きさを考えると、この選択肢は現段階では適切ではないとされています。

ランダウ医師もまた、「患者にはリスクについて警告していますが、それが治療を行わない理由にはなりません」と述べ、リスクと利点を慎重に天秤にかけながら治療が進められていることを説明しています。

(翻訳編集 華山律)

執筆活動を始める前、レイチェルは神経疾患を専門とする作業療法士として働いていた。また、大学で基礎科学と専門作業療法のコースを教えていた。2019 年に幼児発達教育の修士号を取得した。2020 年以降、さまざまな出版物やブランドで健康に関するトピックについて幅広く執筆している。