パシス・バオ修道女は家族を殺した共産主義者への復讐心に31年を費やしましたが、79歳で決断し、それが25年以上の寿命延長につながったかもしれません。104歳の彼女は憎しみから許しへ転換し、心身ともに安らぎを得ました。
バオさんは世界で最も急成長する人口層、100歳超の長寿者の一員として元気に過ごしています。
世界保健機関(WHO)によると、平均寿命は上昇傾向で、世界の6人に1人が60歳以上、2050年までに倍増するとの予測です。高齢者中、80歳到達で認知・身体能力が年齢相応衰えを超える人は「スーパーエイジャー」と呼ばれます。
中西部98歳女性スー・ライト(Sue Wright)さんはバオさんと共通点は少ないですが、スーパーエイジャーとして元気に過ごしています。
2 人の女性は研究者たちが競って理解しようとしている洞察、つまり、人間が 100 歳を超えても元気に生きるために何が役立つのかを静かに実践しているのです。
1. 許しの力を活かす
2000年の迫害被害者祈祷会で、パシス・バオ修道女は聖霊が共産主義者への許しを促したと言います。彼らは6人きょうだいの1人を除き両親を殺し、生活を破壊しました。
長年の修道誓願にもかかわらず、彼女はこの出来事を回心と表現しています。悔い改めとカトリックの教えに従って生きる決意を特徴とする、神への内なる再志向なのです。この行為が精神・感情・身体の負担を軽くしたと彼女は言います。
「許し、それが最も重要です」とバオさんが語ります。
スーパーエイジャーの統計・研究・習慣でしばしば見過ごされる許しは、健康改善だけでなく長寿にも役割を果たします。『Journal of Behavioral Medicine』に掲載された研究では、真の許しと死亡リスク低下の強い関連が見つかりました。
許しはうつ・ストレス・絶望を減らし希望を与え、強化された心身バランスが回復力構築と長寿を助けると著者たちは指摘しました。
研究で、謝罪や再犯約束に結びついた条件付き許しは、無条件許しと同じ保護効果はないことがわかりました。
2. 目的を持って生きる
許しだけがバオさんの長寿の説明にはなりません。希望通りにならない人生でも感謝に結びつき、宗教習慣として変化する状況で人生の目的を見つけ・再発見します。
彼女と父親は彼女が医者になることを夢見ていましたが、状況がそれを阻みました。共産党政権下で地主としてカトリック教徒であることの危険性を予見した兄は、彼女を寄宿学校から修道院に移しました。
聖フランシス修道女会が彼女と他の中国人修道女をアメリカに避難させ、バオさんは看護師になりました。引退後も修道院の礼拝堂で毎日何時間も祈りを捧げており、信仰、感謝、そして目的意識こそが長生きの最大の秘訣だと考えています。

毎朝目覚める理由を持つこと、これは日本の沖縄の人たちは「生きがい」、コスタリカのニコヤンの人たちは「プラン・デ・ヴィダ」と呼びますが、100歳を超えて生きる人々が日常的に暮らす世界5カ所の「ブルーゾーン」では、常にこの概念が見られます。この概念は、2004年にナショナルジオグラフィックの調査の一環として研究されました。
研究は目的と長寿の関連を続けます。『JAMA Network Open』の研究で人生の目的と心臓・血液・消化器系疾患死亡率低下の有意関連が見つかりました。
3. ゴルディロックス睡眠を目指す
二人とも規則的な睡眠スケジュールを守っています。バオさんは毎晩午後8時までに就寝し、午前5時に起床し、午後は休息を取っています。これは、ベストプラクティスのデータと彼女自身のニーズを反映したリズムです。ライトさんも同様のパターンを守っています。
彼女たちのルーチンは研究者が呼ぶ「ゴルディロックス睡眠」、即ち多すぎず少なすぎず、質が良い睡眠を反映します。
『GeroScience』に掲載されたメタ解析によると、1晩あたりの睡眠時間が7時間未満の場合、全死亡リスクが14%上昇することが報告されています。
生物学的な影響も大きく、慢性的な軽度の炎症、免疫機能の低下、ホルモンバランスの乱れ、血圧の上昇、そしてアルツハイマー病に関連するタンパク質の排出低下などが確認されています。
著者らは「本研究は睡眠時間に焦点を当てていますが、睡眠の質も死亡リスクに影響する重要な要因です」と述べています。また、夜間に何度も目が覚める、眠りが浅いといった質の悪い睡眠は、心疾患や記憶力の低下、その他の脳疾患とも関連していることが示されています。
4. 健康体重を維持
バオさんは時折、焼き餃子やエッグロールを楽しんだり、夕食後にアイスクリームを数口食べたりすることはありますが、これまで一度も太りすぎたことはありません。現在約54kg のライトさんも、2度の妊娠期を除けば、体重が約59kg を超えたことはありません。
『ランセット』誌に掲載された、4大陸・約400万人を対象とした研究によると、喫煙歴がなく慢性疾患もない人であっても、過体重や肥満はあらゆる死因の死亡リスクと関連することが示されています。さらに『JAMA』誌に掲載された別の研究では、若年期から中年期にかけて約30kg以上体重が増えた人は、心疾患、2型糖尿病、肥満関連がんの発症率が高いことが報告されています。
研究者らは、中年期の体重増加は軽視されがちだが、寿命に大きな影響を及ぼす重要な問題であると指摘しています。
また、医学誌『Medicine』に掲載された15件の研究を対象としたメタ解析では、体重の変動が全死亡リスクを高めることが明らかになり、体重計は健康的な体重を把握し維持するための有効なツールであることが裏づけられています。
5. 脳を鍛える
体重が黄金期(老年期)を迎える前から問題を引き起こし始めるように、記憶力、注意力、知覚といった認知面の問題も同様に早い段階から進行することがあります。
『Acta Biomedica』誌に掲載された成功老化に関するレビューでは、著者らが「縦断研究によると、中年期は認知障害の病理が始まる重要な時期です」と述べています。また、記憶や注意を頻繁に使うこと、さらには脳にさまざまな形で挑戦を与えることが、一部の高齢者がより高い認知機能を維持できる理由の一つである可能性があると指摘しています。
『JAMA Neurology』誌に掲載された研究では、読書、文章を書くこと、ゲームをすることなど、多様な脳刺激活動を生涯にわたって楽しむ人は、世界的な死因の一つであるアルツハイマー病の発症や進行を防ぐ可能性があると報告されています。
バオさんとライトさんは、9時から5時の仕事を辞めた後も忙しい日々を過ごし、手を動かし続けてきました。読書をし、ゲームをし、困っている人を助けるなど、脳を積極的に使う生活を送っています。
また、前向きで良好な人間関係に囲まれていることも、脳を守る要因の一つです。『Alzheimer’s Dementia』誌に掲載された研究では、中年期に強い人間関係を築いている人は、関係が希薄な人に比べて認知症リスクが低いことが示されています。
6. 筋肉も鍛える
100歳を超える長寿者が必ずしもウエートトレーニングを行う必要はありませんが、筋肉量を保つことは、心機能の維持、移動能力やバランスの向上、2型糖尿病の予防につながります。
ブルーゾーンに関する記事によると、世界で最も長生きする人々は、「必要性」「楽しさ」「生活の一部」として自然に体を動かしているのが特徴です。彼らは庭を耕し、便利な機械に頼らず、特に意識して計画や記録をしなくても、毎日何千歩も歩いています。
ライトさんは幼少期、兄弟たちとバスケットボールや野球をして育ち、大人になってからは定期的にゴルフを楽しんでいました。1年前、COVID-19感染で脚に力が入らなくなり介護付き住宅に移った後も、歩行器なしで踊る姿を見かけられたほどです。
「私たちはいつもダンスに行っていました。毎週末行ってたわ」と、彼女は懐かしそうに微笑んで話してくれました。
7. カレンダーを埋める
ライトさんのダンス好きは、たくさんの交流を生むものでした。これも長寿に共通する特徴の一つです。『The Gerontologist』誌に掲載された調査では、成人たちは成功した老いをどう捉えているかを尋ねられ、健やかな健康の次に「充実した社会生活」が重要だと答えています。

彼らが挙げたのは、家族や友人の存在、支えられている実感、孤独でないこと、社会活動への参加、若い世代との関わりなどでした。
ライトさんは近所の友人たちと会えなくなったことを寂しく感じていますが、いまは介護付き住宅で、いつも誰かと過ごし、積極的に活動できる環境を楽しんでいます。
「ここにいる人たちはみんな好きです。気軽に話せる人たちがいるのはいいことですね」と彼女は言います。「それに、誰かが助けを必要としている時は、私も手伝うのが好きなんです」
まもなくライトさんは、息子さんや家族の近くで暮らすために別の州へ移る予定です。彼女の100歳の誕生日を祝うために、姪たちはすでにパーティーの計画を立てています。
8. 年齢にこだわらない
加齢は常に祝い事ばかりというわけではありません。ライトさんは、2人の夫とすべての友人を見送り、3歳の息子を亡くすという苦難も経験してきました。
「そのことについてたくさん考えるし、なぜなのかと不思議に思うけれど、失ったことを受け入れて生き続けなければならないのです」と彼女は言いました。「ただ向き合って、あまり考えないようにするしかありません。だって私たちは皆、いつかは旅立つのですから」
成功した老いに関する調査では、参加者の約4分の1が、“老いること”や“死を受け入れること”は充実した人生を送るうえで重要だと答えています。80歳以上まで生きることを高い目標と考える人も多い一方で、若さに戻りたいと願いすぎたり、老いを罰のように感じたりしないことが大切だと指摘する声もありました。
9. 気楽に生きる
加齢のこと、あるいは何事についても考えすぎるとストレスが増え、そしてストレスは多くの病気と結び付いています。解決策は、定期的に心身ともにリラックスできる方法を見つけることです。
ブルーゾーンの記事の著者であるダン・ビュットナー氏とサム・スケンプ氏は、たとえ誰もがストレスを経験するとしても、世界で最も長生きする人々にはそのストレスを手放すための習慣があると書いています。
「沖縄の人々は毎日少しの時間をとって先祖を偲び、アドベンチストは祈ります。イカリア島の人々は昼寝をし、サルデーニャの人々はハッピーアワーを過ごします」と著者らは記しています。
バオさんは祈ることに加えて、ハチドリや花を描いたり、絵を塗ったりしています。手は以前のようにしっかりしていませんが、それは重要ではありません。作品を作ることで気分が良くなるだけでなく、それを人にあげて喜んでもらえることが彼女を喜ばせるのです。
「ときどき人は、元気づけを必要とするんです」と彼女は言い、修道院のスタッフを祝福するのが好きだと付け加えました。「彼らは私たちをとてもよく世話してくれて、本当に感謝しています」
病気は必ずしも避けられない
高齢化の傾向は、100歳以上の高齢者への関心と研究を促してきました。彼らは病気の発症を遅らせてきたことから、しばしば「健やかな老後」のモデルとみなされています。しかし、この集団の中でも、長年病気とともに生きてきた人もいれば、ほとんど病気を避けてきたように見える人もいます。
研究者は百歳以上の高齢者を次のように分類します。
- 回避者: 100 歳になっても病気の兆候が見られない人の約 15%
- 生存者: 80 歳になる前に病気を患っていた人の約 42 %
- 遅延者: 80 歳を超えるまで加齢に伴う疾患に罹患しなかった人が約 43%
ライトさんは腎臓病を患っており、十分な水分摂取が困難です。体重は減りましたが、100歳まで生きたいとは思っていますが、病状が進行しても透析治療を受けるつもりはないそうです。
バオさんは2年前、修道院の自立生活エリアからナースステーションの近くに移りました。しかし、それは病気が理由ではありません。最高齢の居住者として、その方が理にかなうと考えただけだと彼女は言います。ある修道院の管理者によると、むしろ彼女は居住者の中で最も健康だと言っています。
100歳以上の高齢者は急増しているものの、100歳まで生きることは依然として稀です。アメリカでは1万人あたり約2.6人で、2020年の2.1人、1980年の1.42人から増加しています。
「イエス様は毎日いつも私に変わらず、特別な助けを与えてくださいます」とバオさんは語りました。
「私は毎朝起きると、自分自身にこう言います。『私は感謝している。今日はきっと良い日になる』と」
(翻訳編集 日比野真吾)
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