【古典の味わい】貞観政要 13

(前回に続き)魏徴は、さらにこう言葉を続けた。

の二世皇帝である胡亥(こがい)は、その身を宮中の奥深くに隠し、身分ひくき者どもの上申は捨て置いて聞かず、ただ趙高(ちょうこう)の言うことだけを偏って信じてしまいました。そのため天下が乱れ、各地で反乱が起きるまで何も知らないでいたのです」

「同じく、梁の武帝は朱异(しゅい)の言を偏信し、反乱軍が宮殿に向かってくるまで全く無知でございました。近年においては、煬帝が虞世基(ぐせいき)の言を偏信するあまり、賊徒が各地で暴れまわり都市を攻略しても、全く知らなかったのです」

「ゆえに、人の上に立つ君主たるお方は、多くの人の言葉を聞き、下々の者たちの気持ちをくみ取ることが肝要です。さすれば、身分の高い大臣でさえも天子の耳目を塞ぐことはできず、世情は必ずお上にまで通じることでしょう」

この言葉を聞き、太宗は「甚善其言(その言、はなはだ善し)」と魏徴を誉めた。
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貞観政要』のうち、この部分に見られる魏徴の言葉には、実に興味深いものがあります。

君主である皇帝が広く人の言葉を聞かず、一人の側近の言うことだけを偏って信じる、つまり「偏信」することは、国家にとって非常に危険であることを説いています。

魏徴の諫言は、全て過去の歴史的教訓にもとづくものです。秦の始皇帝が中国全土を統一する偉業を達成したものの、二世皇帝となった胡亥はあまりに暗愚でした。

胡亥が、宦官の趙高を重用するあまり秦を短命な王朝にしてしまった事実は、それが約850年を隔てた遠い過去の歴史であっても、太宗にとっては肝に銘じるべき教訓でした。まして10数年前に滅んだ隋の悲惨な末期と、その原因となった煬帝の粗暴なふるまいは、王朝にとって反面教師以外の何ものでもなかったのです。

魏徴はここで、すごいことを暗に述べています。「時には、お身まわりの貴臣(大臣クラスの高官)が、天子の耳を塞ぎ、目を曇らせる邪魔ものになるので、ご用心ください」。

太宗は、それを言う魏徴の胆力の強さに対してのみならず、おそらくは側近への釘刺しも含めて「甚善其言」と絶賛したのです。

 

鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。