ドブに落ちても根のある奴は、いつかは蓮(はちす)の花と咲く。

懐かしい昭和の時代。お盆と正月に、町の映画館をにぎわせたのが山田洋次監督のシリーズ『男はつらいよ』だった。

映画のなかで主演の渥美清さんが切々と歌うのは、妹に心配ばかりかけている愚かな兄の自責を表現した、この主題歌である。

なにしろ冒頭に引用した歌詞に続くのは「意地は張っても心の中じゃ、泣いているんだ兄さんは」。去りゆくマドンナには決して見せない男の涙を、妹・さくらにだけは、ぽろりと吐露する寅さんなのだ。

歌の作詞は星野哲郎さん、作曲は山本直純さん。お二人の巨匠とも鬼籍に入られたので、もはやお伺いする術はないが、とくに作詞の星野先生に、おたずねしたい質問がある。

「ドブに落ちても根のある奴は、いつかは蓮の花と咲く。この歌詞は、周敦頤愛蓮説から取ったのではありませんか?」

漢文の教科書である『古文真宝』は、江戸時代から明治期に至るまで、日本人にも広く読まれた。その『古文真宝』に収録されているのが、中国北宋の大学者である周敦頤(しゅうとんい)が詠んだ詩「愛蓮説」である。

詩中にうたわれた蓮の花は、「泥から生まれ出ながら泥に染まらず、まっすぐに、清らかに立っている」と絶賛される。周敦頤は「金持ち趣味の牡丹ではなく、私は、そのような蓮を愛する」と結ぶ。

孤高の蓮のイメージが、はるか日本の「寅さん」につながるのだが、星野先生、いかがでしょうか。

鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。