【花ごよみ】ハマナス

知床の岬にハマナスの咲く頃、思い出しておくれ俺たちのことを。

森繫久彌さん作詞作曲による『知床旅情』が世に出て、かれこれ60年になる。
ハマナスは晩夏の季語でもある。夏いっぱいが花期で、その頃には、北海道の知床半島に限らず、日本各地の浜辺に、この花が群れて咲く様子が見られる。

歌の影響というのは、よほど大きいらしい。日本では、ハマナスの咲く風景のイメージまで、この懐メロの一曲で決まってしまった感がある。

日本人に親しまれた名曲に物申すつもりは毛頭ないが、この歌詞は、実はかなり分かりにくい。どうも場面によって、人称がくるくる変わるのである。

出だしは「俺たち」という男の複数形でありながら、途中からは「今宵こそ君を抱きしめんと」「岩陰に寄ればピリカ(美しい娘)が笑う」。最後は「君は出てゆく」「忘れちゃ嫌だよ気まぐれカラスさん」「私を泣かすな白いカモメよ」。はて、これはどんな物語なのか。人物関係が、今一つはっきりしないのだ。

たぶん森繫さんは、そんな辻褄は合わせていないのだろう。歌詞など、どのように理解しても良い。森繁久彌さんという俳優の魅力が、おそらくその答えになっているのだ。

満州放送のアナウンサー時代から戦後は昭和を代表する国民的俳優となり、2009年11月に96歳で天寿を全うされた。

充実した生涯であったと拝察するが、森繁さんの晩年の悲しみは、自分より若い仕事仲間の訃報に接することだったらしい。

鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。