健康に関する議論では、しばしば「体重」が中心となります。多くの人が体重を非常に気にしていることは、ある調査結果からも明らかです。この調査では、参加者の51%が毎日体重を測定し、94%が週に5回以上体重を測っていることが分かりました。
しかし、体重ばかりを重視しすぎると、より重要な指標である「体組成」を見落としてしまう可能性があります。
体組成とは、体内における筋肉と脂肪のバランスを示すもので、私たちが健康を保つためには、適切な量の脂肪と筋肉の両方が必要です。
なぜ脂肪が必要なのか
いかに健康であっても、体には一定量の脂肪があることが自然であり、また健康的でもあります。
登録栄養士であり、アメリカ栄養・食事療法学会(Academy of Nutrition and Dietetics)のスポークスパーソンであるジュリー・ステファンスキー(Julie Stefanski)氏は、エポックタイムズのインタビューで「体脂肪が極端に減少すると、ホルモンの生成や免疫機能、骨の健康に深刻な影響を及ぼし、生理周期など性別に関わる問題にも悪影響が出る」と述べています。
SimpleFixRxの医療ディレクターであるギャレット・ガーナー博士(Dr. Garrett Garner)も、エポックタイムズに対し、「年齢を重ねるにつれて、一定量の体脂肪を維持または増やすことで、転倒による骨折のリスクを減らすことができる」と語っています。また、がんやエイズなどの一部の疾患では、脂肪の蓄積が全体的な健康状態の改善につながることもあります。
脂肪の「蓄積場所」も非常に重要です。ピエモント医療保健(Piedmont Healthcare)の減量外科マネージャーであり、登録栄養士でもあるクリステン・スミス(Kristen Smith)氏は、エポックタイムズのインタビューで「内臓や腹部周囲に蓄積される脂肪(内臓脂肪)は、炎症を引き起こし、心血管疾患、2型糖尿病、一部のがんなど、慢性疾患のリスクを高める可能性がある」と指摘しています。
一方で、皮下脂肪と呼ばれる中立的な脂肪もあります。これは皮膚の下に蓄積される脂肪で、より健康的で代謝に有益とされ、冠動脈疾患や2型糖尿病の予防に役立つことも報告されています。
筋肉の価値
筋肉量を維持することが極めて重要である理由は、他にも多く存在します。筋肉量が少ない人は、ほぼすべての病気において生存率が低い傾向があります。感染症や外傷、がんなどの状況では、身体はより多くのアミノ酸を必要とし、それは主に筋肉組織から供給されます。
家庭医であり筋肉の専門家、またベストセラー作家でもあるガブリエル・ライオン博士(Dr. Gabrielle Lyon)は、エポックタイムズに対し、「高品質な筋肉を保持しているほど、身体の回復力が高まる」と述べています。
また、筋肉は心血管の健康とも密接に関係しています。ギリシャの研究者たちは、45歳以上の成人において筋肉量が最も多いグループは、最も少ないグループと比べて心血管疾患のリスクが81%も低いことを発見しました。
さらに、骨格筋は食後に体内のグルコースの80%以上を吸収する働きがあり、この作用によってインスリン感受性が改善され、2型糖尿病のリスクが低下します。
筋肉の喪失は脂肪増加よりも深刻
筋肉の喪失は常に健康にとって有害です。残念ながら、筋肉は非常に失われやすく、特に減量中にはその傾向が顕著です。
理想的な減量は脂肪の減少を中心とすべきですが、現実には体重の減少分の20~40%が筋肉によるものであることが多く、このことは短期的・長期的な健康に悪影響を与える可能性があります。
1,300人以上の高齢男性を対象とした16年間の研究では、筋肉量の減少と健康状態の悪化との間に密接な関連性があることが示されました。具体的には、歩行速度の低下、転倒によるけが、日常活動の制限などが挙げられます。
研究者たちは、筋肉の喪失がもたらす影響は、脂肪の増加よりも深刻である可能性があると指摘しています。筋肉は代謝活性組織であり、安静時であってもエネルギーを消費します。したがって、筋肉量が減るとこの代謝的な利点が失われ、新陳代謝が低下してしまいます。
筋肉を維持し増やす方法
筋肉を維持し、さらに増やすためには、十分かつ継続的なタンパク質摂取が非常に重要です。ライオン博士は、タンパク質摂取量の目安として、「体重1ポンド(約0.45kg)あたり1g」、または「体重1kgあたり約1.6~2.2g」を推奨しています。
たとえば、体重100kgの男性の場合、1日に必要なタンパク質量は160~220gです。目安として、約170gの調理済み鶏むね肉には約50gのタンパク質が含まれているため、この男性は1日に鶏むね肉を3~4.5枚食べることで必要なタンパク質量を満たすことができます。
筋肉を維持するだけであれば、体重1kgあたり1.6g程度の摂取で十分なことが多いですが、これはカロリー不足に陥っておらず、長時間の激しい運動を行っていない場合に限られます。一方、筋肉を増やしたい場合には、体重1kgあたり2.2gに近いタンパク質量の摂取が推奨されます。
ステファンスキー氏によると、吸収されやすいタンパク質源、たとえば卵、赤身肉、魚、乳製品などに重点を置くことで、摂取したタンパク質が効率よく体内で利用されるようになるとのことです。
動物性タンパク質は、生物学的利用能が高く、9種類すべての必須アミノ酸を含むため、体内でより効率的に吸収されます。一方、植物性タンパク質にはフィチン酸塩やタンニンなどの抗栄養物質が含まれている場合があり、これらが消化や栄養素の吸収を妨げることがあります。さらに、植物性タンパク質は必須アミノ酸が一部またはすべて不足していることもあるため、豆類と米など異なる植物性食品を組み合わせて、完全なタンパク質を形成する工夫が必要です。
十分なタンパク質摂取に加えて、筋力トレーニングも筋肉の維持において重要な役割を果たします。筋肉は定期的に刺激を受けることで強化されます。たとえば、ウェイトリフティング、自重トレーニング、抵抗バンドなどの運動によって筋肉が刺激され、成長や維持が促されます。ステファンスキー氏は、「筋力トレーニングは筋肉の維持だけでなく、心臓病などのリスク要因を予防するうえでも有効です」と述べています。
筋肉を維持し、さらに増やしていく過程では、「回復」も非常に重要な要素です。
「十分な休息や睡眠が確保できない場合、筋肉組織の修復や再生は進みません」と、ステファンスキー氏は指摘します。
睡眠中には成長ホルモンが分泌され、運動中に損傷した筋繊維の修復が促進されます。同様に、トレーニングの合間に適切な休息期間を設けることも大切です。過剰なトレーニングは疲労の原因となり、筋肉の回復を妨げる可能性があります。
こうした取り組みは、引き締まった強い筋肉を作るだけでなく、新陳代謝の向上や心血管の健康促進にもつながります。
(翻訳編集 里見雨禾)
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