正式な病名ではありませんが、アルツハイマー型認知症は「第3型糖尿病」とも呼ばれます。
始まりは「脳のエネルギー枯渇」
認知症の最も一般的なタイプは、アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)です。
これは脳細胞が破壊されることにより、脳が萎縮していく神経変性疾患で、発症すれば患者本人も辛く、周囲で世話をする家族にとっても非常に負担の大きい病気となります。
アルツハイマー病の原因は、「アミロイドβ」や「t(タウ)タンパク」と呼ばれるプラークが脳内に沈着し、神経細胞が傷つけられるためと考えられています。
しかし、科学専門誌『International Journal of Molecular Sciences』に出された一つのレビューは、「これらのプラークが出現する以前から、大脳の神経細胞はすでに代謝が減退しており、ブドウ糖の吸収および代謝能力が失われている」ことを指摘しました。
米国のDCNHC(陳俊旭自然医学クリニック)の院長、陳俊旭氏によると、「これはインスリン抵抗性によって起きる現象です。エネルギーとなる血液中のブドウ糖が、脳の神経細胞に入らないのです」と指摘します。
その結果、これらの脳細胞はエネルギーが枯渇し、萎縮してプラークを産生します。
こうなると、さらに多くの脳神経細胞の萎縮を引き起こし、脳の機能はますます低下します。そのためアルツハイマー病は、別名「第3型糖尿病」とも呼ばれるのです。
認知症にも有効な「ケトン食療法」
ケトン食とは、「タンパク質と良質の脂肪を十分に摂り、炭水化物を極力減らした食事」です。ダイエットや減量などの健康目的のほか、糖尿病の改善にもケトン食が採用されています。
このケトン食の利点を活かした食事療法が、初期段階のアルツハイマー病についても改善効果が期待できると言うのです。
陳俊旭氏は、「ケトン食は、糖尿病患者の状況を逆転させる可能性があるとともに、初期の認知症患者についても改善効果が認められます」と言います。
同氏によると、ある認知症の患者は、ケトン食を取り入れてから、それまでできなかった家族の名前を呼べるようになるなど、明らかな改善効果が見られたそうです。
陳氏はさらに、こう語ります。
「重金属や環境汚染、あるいは精神的ストレスなど、さまざまな原因で脳神経細胞は萎縮しますが、その直接的な原因は血糖の問題です。そのため、インスリン抵抗性に関しては、体のエネルギー源をブドウ糖からケトン体に替えることが有効なのです」
脳の燃料を取り替える
通常の食事では、炭水化物はブドウ糖に分解されて体のエネルギー源となります。
体内のブドウ糖が不足したとき、体は次に脂肪を分解し、ケトン体を作って細胞にエネルギーを供給するようになります。
つまりケトン食とは、体の主要なエネルギー源として燃焼させる「燃料」を、ブドウ糖から脂肪へ、そっくり替えてしまうことなのです。
陳氏は、「脳細胞にはブドウ糖が必要だと思われがちですが、実は脳が最も好きなのはケトン体のほうで、2番目がブドウ糖なのです」と説明します。
しかも、ブドウ糖は燃焼時にフリーラジカルを産生します。また、ブドウ糖は、脳細胞に取り入れられる時には必ずインスリンの助けが必要で、言わば「インスリンがなければ、自由に出入りすることができない物質」なのです。
これに対し、ケトン体は脳細胞に自由に出入りし、より効率的に使用されます。ケトン体はまた、燃焼時にフリーラジカルを発生せず、燃焼後に残るのは排出しやすい水と二酸化炭素だけです。
2021年にニュージーランドで行われた小規模な研究では、認知症患者がケトン食を12週間摂取したところ、通常の低脂肪食に比べて、日常生活機能や生活の質が向上したことが確認されています。
このように、大きな可能性のあるケトン食療法ですが、実際に、認知症患者に対して行う場合は、必ず医師または医療栄養士の指導にもとづいて、慎重に実施してください。
方法を誤ると、筋肉の喪失や代謝率の低下など、重大な事故を招く恐れがあります。
(翻訳編集・鳥飼聡)
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